ワールド・ワイド・ガーディアン

@fatehf315

任務一

 2017年4月10日・日本国北海道・総合自衛隊北海道方面第3基地・司令官室


「日下部司令官! 本日付けで総合自衛隊北海道方面第3基地に配属された事をご報告に参りました!」

「うむ、来たか……今日から君も正式な国連軍の軍人だ。よろしく頼むよ、安野三尉」


 軍服に身を包み、身体に隙無く立ち、ビシッと敬礼する彼女を懐かしく、愛おしく見つめる初老の男性。

くたびれた軍服の襟に煌めくバッジが彼を陸将と知らしめている。

 陸海空で統合された自衛隊だが、過去の幹部自衛官が幹部のまま残ってる事は不思議では無い。

つまり、彼かの男、日下部総一郎は歴戦を渡り越えてきた勇士である。

 そんな生ける歴史の前に臆する事無く、悠然と立つのは、夕焼け色の髪を束ね揺らして、右手を下ろす彼女の名は安野ヤスノ 舞マイ。

 彼女と日下部は舞が幼い頃から面倒を見たり、見られたりの関係である。

故にこんなにも親しいのだ。


「しかし、あんなに小さかった舞ちゃんがねぇ……いやはや、歳を取ると涙腺が緩くなっていかんな」


 緩んだ涙腺を閉めるべく、眉間を押さえ、ハンカチでふく。

その雰囲気、佇まいは嫁に行く娘を見送る父親に見えて仕方がない。

本当に舞が嫁に行く際には号泣所では済まないだろう。


「ありがとうございます、おじ様。これもおじ様に育てて頂いたおかげです。このご恩、国を、民を守るこの身で返させて頂きます」


 自らの父親おじに微笑む舞。

天使の笑顔とはこういうのを言うのだろう。

日下部の涙腺は崩壊した。


「ひっぐ……うっぐ……良くここまで立派に育って……天国のお父さんとお母さんもお喜びになっているよ。きっと……ひっぐ…」

「おじ様、大袈裟です。それに、私がここまで健康に居られたのはおじ様のおかげなんですから、母様も父様もおじ様にも感謝してますよ」

「ううぅ……出来た子だねぇ……舞ちゃんは本当に」

「いえいえ、私なんてまだまだひよっこです。まだ士官学校を卒業できたばかりですし、そんな私が一個小隊を任される事自体にも疑問を覚えますし」


 舞の自覚通り、まだまだ未熟だ。

特に身体面。

中学から伸びない153cmの身長。

かなりまな板だ! これ! な胸。

 舞自信が思い浮かべ、理想とする大人には成り切れてい無いのだ。

ちなみに、舞は身長も伸びるし、胸も大きくなると思っている。

実に諦めが悪い、現実を直視した方が良いな。


「うんうん……ああ、ありがとう、君からそう言われると嬉しいよ」

「いえ、事実を言ったまでです。それでは、司令官。自分はこれで失礼しまう」


 声を低くし、軍人らしく敬礼し、回れ右。

小さな足をカツカツ歩かせて、部屋を出る。

 その後ろ姿は雄々しく、彼女が出て行ったあと、日下部は再び涙を流した。


「鞘さやくん、大介だいすけ……君達の子供は立派に育ったぞ…」


 歪む視界の中、机に飾る写真立てを持ち、ものふけ顔で見つめる。

その写真には、若き日の日下部と両脇に白衣姿の男女がケラケラ笑い合って居た。


 懐かしき青春の日々を思い返す最中を切り裂いたのは、備え付けの内線の桁増しいコール音だった。


「私だ。どうした」

『司令!! 緊急事態です!!』


 焦りに焦る部下の声。

何が大変なのか、わからなかったが内容を聞いた瞬間。


「!? なん……だと…」


 手から受話器がこぼれ落ちる。

背筋が凍り、信じられない現実に戦慄する。


「会議が……テロリストに……しかも、次の標的はここだと……!」


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2017年4月10日・日本国不明・各国地球外生命体対策会議・議事堂


「初めまして、各国の無能代表の皆様」


 白いスーツに白いロングコートの男はドーナツ型に並ぶ円卓全てに深々と罵倒と愛と敬意を込めて、白いハットを取り、お辞儀を披露する。

 円卓に座る各国の首脳達はそれに歯ぎしりしながらも、冷静さを保っていた。


「……君達の目的は……なんだ」 


 口を開いたのは日本国総理大臣・鈴山 幸助。

二世でありながら、その甘いマスクと人々を巧みに魅力する演説で圧倒的な人気を誇る日本のトップ。

 元来、正義感が強い彼だから聞いたのもあるが、開催国の威厳を保つために聞いたと言った方が正しい。

しかし、この会話が長引けは命に危険が及ぶ。

 なにせ、鈴山叱り、各国の代表の後ろにはアサルトライフルを構えた特殊部隊装備に身を包んだ者が何人も銃口を向けているのだから。

下手な事をしたり、下手な事を言ったりすれば、すぐさま蜂の巣だ。


「これはこれは、開口一番は鈴山総理とは。さすが正義の味方と言う群集のイメージ通りのあなたには、私わたくし、感服致します」


 馬鹿にしているのか?、否、馬鹿にしているのだ。

男は各国首脳が下手にでるしかない事を踏まえて挑発しているのだ。

 長い髪と肌さえもを白く、白一色に統一したのは男の心を表している。

『この服を汚して見たいならやって見ろ』と。 

 ニヤリと口角を上げ、鈴山に軽く頭を下げる様は実に興奮し、優越感に浸っている。


「それでは、皆様。勇敢なる鈴山総理の要望にお答えして、私わたくし、リアム・マーティンが我々、WWG。World Wide Guardianの存在目的をお話し致します」 


 まるで喜劇の如く、明るく、大きく、両手を広げ、高らかに説明を始めるリアム。


「我々の目的はただ一つ。完全なる世界秩序の構築であります」


 リアムは胸をはる。 

その言葉に偽りは無く、決して曇り無い事から、彼らが愉快犯では無い確固たる意思を持つ組織なのだとその場の皆が生唾を飲む。


「世界秩序の構築とは……一体、何をするのかね?」

「む。良い質問ですよ、李リ大統領。」


 中国大統領の李氏に拍手を送るリアム。


「そもそも。我々がこの考えに至ってしまったのは、貴方達、国の責任者のせいですよ。古来より、国と国はわかり得ないのは権力者が一方的に考えを押しつけ、相手の事さえも考えないからです。完全に一つに慣れなかった貴方達から、苦戦し、多くの命を奪った!! 今から約一世紀前、1914年に起きた第一次フ世界大戦、通称・対ファレリア世界防衛戦での悲劇を引き起こしたんだ!!!」


 会場がどよめく。

リアムが奴らの名前を出したからだ。


 ファレリア。

今から一世紀前、地球に飛来した炭素型生命体。

身体の構造は人間と殆ど同じで、見た目も寸分しか変わらない。

しかし、彼らには人類を超える科学力があった。


「奴らの科学力は凄まじかった! 戦車をだせど、戦闘機をだせど、戦艦をだせど、核をだせど、奴らは無効かし、その倍の力を持ち、人類に絶望を与えた!」


 ファレリアは基本的に前線には出ない。

全てオートのロボットによる進軍だった。

故に、生身の人類側との消費の差は広がるばかり。

人類は絶望を知った。


「しかし、我々は絶望と共に奴らから科学力を手に入れた! それが『アームズ』だ! 貴様達が得た悪魔の力だ!」


 アームズ。

中枢ちゅうすう神経しんけい接続型せつぞくがた身体しんたい装着具そうちゃくぐ。

両肘、両膝、背骨の五ヶ所に神経接続デバイスを埋め込み、それと接続する事により、通常では出せない怪力、脚力、筋力を得る事ができ、さらにアームズを装着して武装すれば人間戦艦と言っても良いほどの戦闘力を誇る。


「だが! 貴様ら学習しなかったな! アームズによりなんとか追い返せたファレリアが去ったあと、貴様らはアームズの技術争いが始めた。実に滑稽だったよ、愚か者達のドングリの背くらべはさ!」


 リアムが言う通りだ。

世界は第一次ファレリア掃討世界大戦のあと、世界は冷戦に突入する。

糸がそこらじゅうに張り巡り、少しでも触れれば世界はまた戦争の渦へと落とされる。

それが、アームズを使った人類で最初の大規模戦争。

 1945年に起きた第二次世界大戦。

血で血を洗う決戦は核を落とされた日本の敗北で幕を閉じたが、この戦争の被害者は天井知らず、今だに正確な人数はわかっていない。


「だから、我々は考えた。我々が変えなくては、我々が秩時を作らなければ、我々が世界を守らなければと! だとしたら、我々が絶対的な正義であるべきだ! 故に、他の武力はいらない! 他の武力を排除する! それが我々が起こすの行動だ!!」 


 息をきらせ、熱弁を終えるリアム。

ご静聴どうもありがとうございますと頭を四方向全てに下げる。


 まるで別人かのように喋った内容は各国代表の口を塞げなくした。

なにせ、リアムの言っている事はめちゃくちゃだったからだ。

 世界を守らなければならぬのに世界を壊すはずの武器を使うと言う。

矛盾の発言がさらに不気味さを増し、円卓に座る代表達は皆口を閉じた。


「はてさて。この位でここでの今回の目的は終了です。次に、我々がどのような力を持ち合わせているかご覧いただきます。皆様、お手元のディスプレイにご注目下さい」


 円卓の席にはセットになるディスプレイが開けるようになっている。

それが自動的に開閉し、闇の画面から寒空と無骨な巨大建造物を映した物に変わった。


 代表が首を傾げる中、ただ一人、この映像に見覚えがある人物が居た。


「ここは北海道の自衛隊基地!?」

「その通りでございます、鈴山総理。それでは、これよりご覧いただくのこの基地の喪失劇でございます。皆様、なるべく瞬きはしないようにお願い致します。なにせ、事象はあっと言う間な物です故」


 そう言った直後。

ディスプレイ横のスピーカーから爆発音が響く。

一つ一つは小さなスピーカーだが何十個も同じ音をだせば嫌でもうるさくなる。

 その爆発音の原因が画面に移る。

宙に浮くのは、展開する四つの羽もそれはそれは美しく、身体は汚れ無き優しいフォルムの白い女神だった。

 

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