古城の姉妹

日立ウラナ

第1話

 私達は、ずっと二人で町外れの古城に住んでいる。私が物心ついたころにはもう親は死んでいて、姉さんがいつも私の面倒を見てくれていた。

私たちは城から出ることをせず、食料は時たま通りかかる行商人から仕入れる。

 城、というだけはあり、施設は充実しており、料理や生活に困ることはなかった。どうやらこの城は、何百年も前の王国の名残のようで、私たちはその王国の王族の子孫に当たるらしい。

 と言っても、既に滅びてしまった国だ。よって、私の中で流れている血も、今となってはただ私の生命を支えるだけのものでしかない。というのが私の認識なのだけれど、姉さんはどうやら未だに自分の血統を誇りに思っているらしい。この城から出ようとしないのも、きっとそのせいだ。

 今朝、姉さんが「町へ出ようと思うの」と言い出した時にはひどく驚いたものだ。今までずっとこの城に籠っていたのは一体何だったのだろうか。

 とにかく訳を聞いてみると、どうやら先日手紙が届き、何代も前から付き合いがあった一族の一人が先日亡くなり、遺書の財産分配の項目に、私達の両親の名前があった。それで、代理で姉さんがその分のお金を受け取ることになったようだが、何分大金なもので、出来れば姉さんの方から足を運んで欲しい、という事が書いてあったそうだ。

 そろそろ両親が残してくれた遺産も尽きるのではないか、という頃合だったため、姉さんはその話を請けあうことにしたそうだ。姉さんが今まで城から出なかったことを考えると、外出の理由にしては少し現金な気もするが、生きるためにはしょうがない事なのかもしれない。

 もうそろそろ日が暮れる。姉さんは夜には戻ると言っていたから、それまでに夕食の準備をしておくとしよう。

 私は読んでいた本をベッドの上に投げ、自室から出た。バルコニーに干してあった肉を二きれ取った後、階段を降りて一階の厨房へと向かう。

 藁と木の枝を棚から取り出し、レンガの暖炉に置き、火打ち石で火をつける。ぼっ、と音をたてて藁が燃え始めた。やがて、火は木の枝に移りはじめる。

 私は急いで先ほど取ってきた肉を火であぶり始めた。五分ほど火であぶった後、食器棚から皿を取り出し、肉をのせる。これだけでは少し寂しいので、昨日行商人から買ったコショウをまぶし、味付けをする。…こんなところでいいだろう。

 ふと時計を見ると、もう七時だった。二階の窓から町の方を見てみたが、姉さんが帰ってくる気配はない。

 もう少し遅くなるのかもしれない、先に食べることにしよう。

 自室に戻り、ベッドの下から隠してあったブドウ酒を取り出す。こっそり行商人から買っておいたのだ。姉さんにばれると怒られるから、隠したまま飲む機会がなかったのだが、今日は姉さんもいないし丁度いいだろう。

グラスを棚から取り出し、ブドウ酒を机に置く。力を入れると、キュポという音をたててキャップが外れる。グラスに注ぐと、部屋中にとろけるような匂いが広がった。グイッ、と喉に流し込む。

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古城の姉妹 日立ウラナ @narunoa

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