第3話 友達
「…で?」
正面でラーメンを啜る悠馬に向かって私は問いかける。
「行きつけの店ってラーメン屋!?しかもここ、学校のすぐ近くだし。みんな知ってるし。探すまでもないし」
「だって俺、ラーメン好きって言ったろ?」
「聞いた。けどそんなことが知りたいわけじゃない」
私は深くため息をつく。
「あ、幸せ逃げた。眉間にシワ寄った」
「うるさい」
私はとりあえず水を飲んで一旦落ち着こうとする。どうもこいつと話していると疲れる気がしてくる。
「じゃあ何が知りたいのさぁ。なんでも聞いて。答えるよ、幼馴染だもん」
あっという間に一杯平らげて、悠馬は満足そうだ。
「別に…」
知りたいことがあるわけではない。強いて言うなら、なぜ私と幼馴染になろうだなんていいだしたか、だ。
「それはー…なんとなく?もういいじゃん、今更取り消せないでしょー」
何度聞いてみてもこんな様子だ。どうしようもない。
呆れている私を見て、悠馬はなんだか楽しそうだ。じっとこっちをみて笑っている。
「何よ…」
「んー、俺、面白い幼馴染ゲットしたなぁってさ」
ゲットって…人をおもちゃか何かと勘違いしているんじゃないの。本当に、よくわからない男だ。
「あれ、美紀?と…噂のイケメン転校生!」
突然声がかかった。
そう言って隣のテーブルに座ったのは癖っ毛の髪を高めに結いあげたいかにも活発といった風の少女、隣のクラスの綾瀬 蘭だった。
私と彼女は一応中学からの同級生だ。
「え、何?なんで?」
蘭は不思議そうに私と悠馬を見比べる。
「実は…」
悠馬がもう何度目かになるその説明をすると、蘭は目を丸くして聞いていた。
「何それー!イケメンな幼馴染がいるなんて聞いてないよ!なんで教えてくれなかったのさぁ」
蘭は不満そうだ。
「なんだよ、俺のこと友達にも言ってなかったのかよー」
何を言うか。白々しい。
「別に言うほどのことでもないでしょ」
私がそっぽ向いて言うと、悠馬はひどい、と言って笑った。
「美紀ってそうゆーとこあるよね。友達なのになーんか壁があるっていうかさ」
蘭は飲み物だけ頼んで突然そんな話を始めた。
「そうそう。こいつ俺にも学校の話とか何にもしてくれないからさぁ」
…うまい。蘭の話に上手く繋げた上で、幼馴染のはずの私の学校での様子などを知らない理由をつくった。案外こいつはかなりのやり手なのかもしれない。
「やっぱり?蘭なんてもう5年くらいは一緒にいるのに!幼馴染ならなおさらだよね!」
「全くなー。ま、もうとっくに慣れてるけど」
2人は意気投合したようで、面白そうに私の話を続けていく。見事にボロを出さない悠馬に少し感嘆してしまいそうになる。
「やっばい、ユーマくん面白すぎ!」
蘭は悠馬の話をこれっぽっちも疑わずに笑い転げている。
それからしばらく、私は2人の話に曖昧に答えることしかできなかった。悠馬みたいに、まるで息をするのと同じように嘘がつけるわけじゃない。私は下手に喋ってボロを出さないよう気を張るばかりだった。
「それじゃあね!」
しばらくして、蘭は待ち合わせの相手から連絡が来たと言って店を出て行った。
「いるじゃん。友達」
ニヤニヤしながらそういう悠馬に、私は苦笑する。友達、などと格付けしてもいいものか。蘭は昔から一方的に私についてくる。彼女はいつも、人の中心にいるタイプだ。蘭の性分なのか、自然と人が集まってくる。私に構わなくても、友達はいくらでもいるはずだ。それでも、私のことを気にかけてくれるのだから、きっと根っからの優しい性格なのだろう。
そう言うと悠馬は笑った。
「そう?俺にはそんな、気にかけてるって感じには見えなかったけどな。向こうは純粋に、美紀のことを友達だと思ってると思うよ」
そんなことを言われて、私はまた苦笑することしかできなかった。世の中には物好きもいるものだ。
その後、悠馬はまたちゃんと私の家まで送ってくれた。今度はしっかり断ろうとしたものの、やはり幼馴染だから、の一点張りだ。私は仕方なく悠馬の横を歩くしかなかった。
「それじゃあ、また明日!」
輝くような笑顔を見せて、悠馬はまた来た道を戻っていく。いくら考えてみても、蘭だけでなく、彼も、私を気にいるような要素は一つも見つからなかった。
幼馴染もらくじゃない! 大槻すず @Suzu_Otsuki
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