第9話 戦いの果てに
だが、その光は美猫にはあっさりと回避され、葉樺は妖斬刀で受け止めて妖気を吸収する。
さっきは相手の攻撃が読めなかったので迎撃できなかったが、一度攻撃を見てしまえば妖斬刀の能力を使って妖気を吸収することで攻撃を防げるのだ。それによって
美猫の方は、さっき咄嗟に葉樺をかばったことからも分かるように、その攻撃を見たあとでも動いて避けるだけの反応速度と身体能力を持っている。葉樺をかばう必要がなければ、その攻撃に当たったりはしない。
「ちょっと、なんで当たらないのよぉ!」
初めて苛立ったような顔になる
「隙有りッ!」
それどころか、美猫は妖気をかわしながら
「なにすんのよっ!」
ギリギリでかわしたものの、慌てて飛び退りながら妖気を放つ
「キー君、こいつ、戦闘能力は大したことニャいよ!」
そして美猫は一連の攻撃でつかんだ情報を葉樺に伝える。
「なるほど、こいつの得手は洗脳で、自分で直接戦ったりすることはあまりないんだな。なら、一気に決めるぞ!」
前回、酒呑童子を倒したときに吸収した妖気は、まだ妖斬刀にかなり残っている。その上に、先ほどから
「何でよぉ! あんたたちは素人に毛が生えた程度の
冷静さを失って妖気を乱射してくる
「消えニャ!」
身を低くして妖気をかわした美猫が、己の鋭い爪で
「終わりだ、共産主義!
足を切られて動きが止まった
「ウソ、こんなことって、あっ! キャァァァァァァァ」
断末魔の叫びを残しながら、赤い光となって消えゆく
その光がすべて妖斬刀に吸収されたのを確認すると、葉樺は残心の構えを解き、妖斬刀に血振りをくれてから鞘に収める。
「必要ないだろうと言っているだろうに!」
「様式美だ。にしても、史上最強級という触れ込みの割には弱かったな。看板倒れというか」
毎回のように繰り返されている漫才をやりながら、葉樺は気になっていたことを口にする。
「そりゃそうだ、何しろ『共産主義』だからな。冷戦時代の東側諸国、ソ連とかはとてつもない実力を隠してるんじゃないかと思われてたが、蓋を開けてみたら内情はボロボロだったんだぞ」
その疑問に冷戦時代を生きていた裕次郎があっさりと答える。
「ああ、なるほどね。まあ、それだけじゃなくて、何か俺たちのことを随分過小評価してたみたいだが」
あの
「ホントだよねー。洗脳したおじいちゃんから情報を得てたみたいだけど、あたしたちって、おじいちゃんにとってはそんなに素人っぽいのかニャあ?」
「いや、お前らが小名木さんと一緒に妖怪退治したのは、いつが最後だ?」
半分しょげながらつぶやいた美猫に対して、裕次郎が質問する。
「あ…しょっちゅう会ってるから結構一緒に戦ったことあるかと思ってたけど、よく考えたら半年以上一緒には戦ってニャい」
「年取るとな、時間の流れがえらく速く感じるモンだ。40代半ばだったオレですらそうなんだから、小名木さんにとっちゃあ半年なんて昨日のことみたいな感じだろうよ。だから、お前らが成長してるってことに気付いてなかったんだろうな」
美猫の答えを聞いた裕次郎が、小名木がなぜ葉樺たちを過小評価してたのかを解き明かす。
「おかげで
「むしろ、おじいちゃんの次に洗脳して手下にする相手として、あたしたちが手頃だと思ったんじゃニャいの?」
「ああ、なるほどな。小名木の爺さんは俺たちの下校時間や通学コースを知ってるから、俺たちを狙ってここに来たのか」
「そういうことだろうよ。さて、小名木さんを起こしてから、妖魔結界を解除してウチに帰るぞ」
「ん。それじゃ、あたしが起こすね」
美猫がホームに横たわる小名木の方に向かうのを、その奇怪な目玉でぎょろりと見ながら
「それにしても、あれが最後の共産主義とは思えない。我々の社会に格差がある限り、かならず
「いや、渋く決めたつもりかもしれないけど、そのセリフが既に
父親の言葉を、にべもなく切り捨てる葉樺なのであった。
史上最強の妖怪 結城藍人 @aito-yu-ki
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