第8話 史上最強の妖怪

「女の子!? この子も洗脳されてるのかニャ?」

「いや、こいつが妖怪の本体だ。少女に偽装してるか、この姿で実体化したんだろう」

「実体化の方よ。わたしはまだ生まれて150年ちょっとで、妖怪としてはまだ若い方なんですからね」


 美猫の疑問に答えた葉樺の推論を、妖怪本人が肯定する。


「何者だ? これだけの妖気を発するんだ、ただ者じゃないだろ。相当の有名妖怪と見たが」

「ウフフフフ…当ててごらんなさいな」

「お前の正体、オレには分かったぞ」


 正体を誰何する葉樺に対して、はぐらかす美少女妖怪。それに答えたのは、葉樺ではなく、その父親だった。


「お前の正体は


 共 産 主 義


だなっ!!」


「「は?」」

「ピンポーン、大せいか~い!!」


 唖然あぜんとする葉樺と美猫。だが、そう言われた美少女妖怪=『共産主義』の方は、再び拍手をしながら、その答えを肯定する。


「オレが高校の頃に、世界史の教科書か資料集で見たことがあるんだよ、『共産党宣言』の冒頭文を。そこに書いてあったんだ。『ヨーロッパを一匹の妖怪が歩き回っている。共産主義という名の妖怪が』ってな」

「…そうニャんだ。共産主義って、実は登場した頃から既に妖怪だったのね」

「いや、チョット待て、それでいいのか!?」


「間違いじゃないのよね~、これが。わたしは、メジャーデビューのきっかけになったファンブックで既に妖怪として認知されていたんで~す」


 裕次郎の言葉に感心する美猫にツッコむ葉樺だったが、当の美少女妖怪共産主義が裕次郎や美猫の発言を補足する。


「メジャーデビューだファンブックだって、アイドルか何かかよ!?」

「もっちろん! 最盛期には全世界で何億、何十億って信者ファンが居たわたしは世界のアイドルなんです~。それで、わたしのための『党』って、つまりはファンクラブじゃない。そう『宣言』してる本なんだからファンブックって言ってもいいよね~。アドルフ君とかジョセフ君みたいなアンチも多かったけど、ホントはわたしのこと好きなのに、素直になれないのよ。アドルフ君なんか、熱烈な反共主義者みたいな顔して、自分の党には『社会主義』をこっそり紛れ込ませてるんだから」

「アドルフだのジョセフだのって、誰だよ!?」

「アドルフ・ヒトラー君とジョセフ・マッカーシー君で~す。アドルフ君の『ナチス』の正式名称は『国家ドイツ党』っていって、結構社会主義的な政策もとってたんだよ、知ってた~?」


 ツッコみどころ満載の美少女妖怪共産主義の言葉に釣られてついツッコんでしまった葉樺だが、理路整然と反論されて頭を抱える。


「でも、なんで復活したのかニャ? ソ連崩壊って、あたしたちが生まれる10年近く前じゃニャかったっけ?」

「そうだ、1991年のことだよ。それで世界の共産主義はほぼ壊滅状態に陥った。ああ、キューバや中国の共産党はまだ残ってるか」


 何も言えなくなった葉樺に変わって美猫が疑問を口にしたのに対して、裕次郎が答える。


「キューバはともかく、中国の方はね…いくら共産党わたしのファンクラブを名乗っていても、あんな堕落した連中はファンとは認めたくないのよね~。株式市場があって不動産バブルが起こる共産主義なんて、ぶっちゃけ有りえな~い!」

「だったら何で復活できたんだ、お前は?」


 不満そうに言う美少女妖怪共産主義に対して、気を取り直して問い直す葉樺。だが、それに答えたのは美少女妖怪共産主義ではなく父親の方だった。


「去年、『安保法制反対』とかいって60年安保の焼き直しリバイバルみたいな運動があったろうが。きっと、アレで小名木さんたちみたいな全共闘世代や、その上の60年安保に参加した世代が郷愁ノスタルジー心理的外傷トラウマを刺激されて共産主義を思い出したんだろうさ」

「それだけじゃないわよ。今、この国では社会格差が広がっていて、それに対する不満も大きくなってきてますからね~。今こそ共産主義あたしが再び脚光を浴びるチャ~ンスってワケ」


 裕次郎の回答に、さらに補足する美少女妖怪共産主義。それを聞いた裕次郎が半ば感心したように、半ばは呆れたようにつぶやく。


「それで、また共産主義お前さん信者ファンとやらが弾圧されて殺されたり、逆にテロを起こして殺したり、仲間内で総括とかいう名目で粛正しあったりする時代が来るのかい? 嫌だねえ」

「それも世界革命のための尊い犠牲なんですぅ。その先には理想の平等社会が存在するんだから、しょうがないよね~」

「そうやって、人の心に『欲』がある限り絶対に達成できない『理想』を振りまいて人々を騙してきたんだろうが。それを考えれば、確かに共産主義お前さんは史上最強最悪の大妖怪だよ。何しろ、今まで共産主義お前さんを信じたせいで殺されたり、共産主義お前さんの信者が反対派や不満分子を殺したりした人数を数えれば、一千万人じゃきかないだろうからな」


 裕次郎が言い放つが、美少女妖怪共産主義は少しも動じることはない。


「ウフフフフ、今はそんなこと言ってても、すぐにわたしの魅力にメロメロになっちゃうんだからね~。わたしの能力はよく分かっているでしょ? さあ、あなたたちもこれから世界革命のための闘士になって、わたしのために戦ってね!」


 そう言うと、不気味に赤く光る妖気を葉樺たち目がけて放つ!

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