わたくし、お姑さまとたたかいます(4)
宿に着きますと、魔王さまが話を切り出しました。
「妹よ。さっき言っていたが、余を迎えに来たとは本当か?」
すると妹さま、自信満々にお答えいたします。
「もちろんです! 魔族の王たるお兄さまに、こんな野蛮な場所は似合いません。さあ、わたしとともに魔界へ帰りましょう!」
「し、しかし……」
「だいたい、お兄さまはいつも行動が唐突なのです。相談もなしに人間界へ行ってしまって、魔族のみんなが困っていますよ」
「じ、爺やにはちゃんと言ったぞ」
「その爺やが、お兄さまを連れ帰ってくるように泣きついてきたのですよ! お兄さまがいなくなってからというもの、魔界では部族間の衝突が絶えません」
「う、うぐ……」
まさか魔王さま、そんな無責任なことをしてきたのかしら。まあ、でも確かに宿敵である勇者のところに行くなど、相談したら絶対に止められてしまいますもの。
なるほど、なるほど。やっと納得いたしました。部下をあの騎士さまおひとりしか連れてこなかったのは、夜逃げ同然にやってきたからだったのですねえ。
妹さまのお言葉に、魔王さまは首を振りました。
「妹よ。余は帰るわけにはいかんのだ」
「な、なぜですか!」
あら。魔王さま、わたくしのことを愛してくれているのは嬉しいのですけれど、お姑さまの前で堂々と惚気られてはさすがに恥ずかし……。
「余は、
「…………」
決めました。魔王さまが余計なことする前に、さっさと卸してしまいましょう。
しかし、妹さまのお言葉は止まりませんでした。
「それに、まさか本当に勇者と結婚しているとは思いませんでした! まったく、こんな教養の欠片もない田舎くさい女など、お兄さまには似合いません。それに人間界では、この歳の女を出涸らしと呼ぶそうではありませんか。そんなものを娶るなど、正気の沙汰とは思えません。なぜこんな……。お、お兄さま、まさか弱みでも握られて……」
うふふ。この娘、ちょっとひねってさしあげましょうか。わたくしが指をぽきぽきと鳴らしていると、慌てて魔王さまが止めに入ります。
「ゆ、勇者よ。悪気はないのだ。ちょっと世間慣れしていないだけなのだ」
魔王さま、それはフォローになっておりません。
そこでふと、きゅうっとお腹が鳴りました。見ると、妹さまがお顔を真っ赤にしておられます。
「あら。妹さま、お腹が減っているのですか?」
でも魔族の方は、魔力を糧にするのでお腹は空かないのではなかったのでしょうか。
「……人間の貧弱な魔力など、食べれたものじゃないわ」
ははあ。それで魔力が底を尽き、狩人さんに捕まってしまったのですね。
「とりあえず、下の酒場でなにか食べましょうか」
いくら気に入らないとはいえ、これでもお姑さまですもの。しっかりとした交友関係を築くことがよき妻の条件のひとつだと思います。
しかし妹さまは素直にうなずいてはくれません。
「フンッ。そんなことで媚びを売ろうとしたって無駄よ。あんたなんかの施しは受けないわ」
面倒くさい娘っ子ですねえ。こういうところを見ると、やはり魔王さまと血が繋がっておられるのだなあと思います。
まあ、となれば対処もずいぶんと楽ですけれども。
「あら。そうでございますか。わたくしたち勝手に食べてまいりますので、お留守番をお願いいたしますね」
「え?」
ぽかんとする妹さまを置いて、わたくし魔王さまのお手を取りました。
「ゆ、勇者よ?」
困惑なさる魔王さまの耳元にささやきます。
「魔王さま、はやく来てください」
そう言って、わたくし魔王さまを連れて部屋を出ました。と、すぐにうしろのほうでドアが開きました。
「ゆ、勇者。待て!」
「あら。いかがしましたか?」
「わ、わたしはあなたがお兄さまによからぬことをしていないか見張る義務があるの!」
「あぁ、なるほど。それでは、ご一緒に行きますか?」
「し、仕方ないわね。つき合ってあげる」
そう言って、魔王さまの反対の腕に飛びつきました。なんだかこの娘、プライドの高い小犬みたいで可愛く見えてきましたねえ。
ただし、わたくしを出涸らしと呼んだ罰は、今度ちゃんと受けていただきますけどね。うふふ。
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