5話【謎の油揚げ…?】


寒さを防ぐため厚く緻密に作られた茅葺屋根の家は、当然窓も出入り口も狭く、中は暗い。

お昼時の今は焚き火も消されるため、この家も例外ではなくそうだった。

「天井高いなぁ…」

村長の家だろうか、おきくさんの家の倍は広い。

有り余った空間に体がむず痒くなりながらも、私は奥へと進んだ。

町で薬さんを見かけ追ったもののすぐに見失った私は、その後厠を借りてこの家に入り、けれどあまりの広さに迷っていた。

何せ土地によって厠の位置や形状は異なるため、愚かなことに聞かずに来た私はその入り口すらわからずじまいなのだ。

「まぁ、そこまで急いではいないけれど……」

結果家中の扉一つ一つを開け、確認しては閉じていた。

もちろんそれくらい、訳はないのだが。

「………あの、誰かいませんか…!」

沈黙。

そして静寂。

やはり、誰かいる。

この家に入った時から、何かが私のことを見、追いかけていた。

動物にしては巧妙で、人にしては慎重すぎる。

「………」

そう思いながら次の扉を開けると、台所に出た。

また間違えた、扉を閉めようとしたとき。

見慣れたものがチラリと視界に入った。

咄嗟に閉める手を止めて中に入ると、やはり台所のまな板の上に。

「……油揚げ…?」

が、ちょこんと置かれていた。

「なんで…油揚げ…」

出し忘れたのだろうか、それとも調理中だろうか。

何にしろ、このままでは虫や鼠に食われるだろう。

私は特に考えず手を洗い、それを皿の上に移し、少し高い場所に置いた。

あまり弄るのは気が引けるが、それでも先程よりはましだ。

そして、くすりと笑う。

もしかしてずっと見られていた気がした何かの正体は、ここの子供だろうか。

私を泥棒とでも親に言いつけに行ったのか、視線がパタリと消えた。

だとすれば、少し微笑ましいな。

そう思っていた私は、再び元の場所に戻り扉に手をかけた。

そして確かに耳元で聞いたのだ。

「こん」

と狐の声を。




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冬旅医恋ー物語ー 冬の猫 @haluneco

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