4話【大人になりたい子】


澄んだ青空が、頭上のはるか高くに浮かんでいる。

その下で、私は心を弾ませ歩いていた。

この集落は、都市部へと続く山道の途中にあるそうだ。

ゆえに農業だけでなく、宿場としてもなりたっているらしい。

都市に比べると静かで落ち着いているが、閉鎖的な山の中でのこの賑わい。

楽しげに話し歩く人々が作る雰囲気に飲まれ、私は銭もないのに店々を回っていた。

採れたての新鮮な野菜に、

昨夜食べた水々しい漬物、

高級な甘納豆や饅頭まである。

この地方の特産なのであろう品々がズラリと並び、堂々と鎮座していた。

人の流れが少なくなった店を選んで覗いていると、店番をしていた人が気軽に話しかけて来る。

私が見つめていた饅頭を小さく切り分けたものを指差し、

「おう、おじょうちゃん。

一個食わないかい?」

「あ、ごめんなさい。

お金がないので…」

「いいよ、味見してきな。」

「で、でも…」

「子供なのに遠慮すんなって。」

子供……

そうか、私はまだ子供に見えるんだ。

もちろん、こんな高級菓子を買うかねなんて持っていないけれど。

色黒のお兄さんは眩しい笑顔で、私は曇った顔を隠して遠慮がちに頷いた。

出来るだけ小さいものそれを選んで手に取ると、できるだけ綺麗に口へ運んだ。

途端に、口の中で柔らかに弾けた。

「……美味しい…!」

甘い、それも私が今まで食べたことのあるものの中で一等に。

餡子は、庶民がそうそう食べれるものではない。

お祭りごとや記念日に食べたことはあるだろうが、小さい時なので記憶なんてなかった。

思わずもっと大きいものを食べれら良かったと思い、はっとする。

そうか、こういうところが駄目なんだ。

我慢出来ない、忍耐がない。

子供のように扱われて、苛立つところも。

でもそんなの、自然に思ってしまう。

どうすれば、いいの?

お礼を言って、私は逃げるようにお兄さんから離れて行った。

「……大人に、なりたいな。」

しばらく歩いて呟くと、私は空を仰いだ。

変わらず、澄んだ青空が広がっている。

溜息をついて前を向くと、村の少し奥に見慣れた着物が見えた。

雪のように冷たい白に、寒さで凍りついた小河の色が滑らかに描かれたもの。

そして着物が珍しくないこの村でなくとも見間違えようがない、別格の色男。

「………薬さん…?」

何も考えず、何かに導かれるように、

私は彼の後を追った。





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