日々変わり続ける、『戦場』
ライトノベル売り場。
それは毎日のようにお客さんと繰り広げられる闘いの舞台である――
久しぶりの導入です。こんにちは。初期から追ってくださっている方にとっては見たことのあるフレーズかもしれません。
さて、前回の更新で
"今日出たばかりの新刊だけど次の日のものを出すために、一等地のスペースからより隅の方へ移動、表紙見せを諦めて平積みと平積みの間に挟んで立てたり、最悪棚差しにしなければならない、なんてこともしばしばです。"
と書いたのですが、それに関連したお話です。
みなさんは各ライトノベルレーベルの発売日を把握して書店なり通販サイトをチェックなさっているでしょうか?
首都圏とそれ以外の地域によって実際の発売日はまちまちだったりはするのですが、一応公式に発売日は各レーベルによって毎月固定されています。
とはいえ発売日が比較的きっちりしている雑誌と比べ、書籍の発売予定は割とゆるく、たとえば本来の発売日が休日・祝日と重なって出版社さん・取次さんがお休みになる場合は週末の早い段階に出たりする場合がほとんどです。
かつては公式の発売前に販売する、いわゆる「フラゲ」はしないようにお願いします、なんて言われたりしたこともありますが……
もう最近は入ってきたものはさっさと出してさっさと売り出す、というのが慣例となったので、首都圏、とりわけ秋葉原などでは発売予定日から数日早く手に入る、などということもしばしばあるみたいです。
さてそれはさておきまして本題といきましょう。
月に2~3回ほど、ライトノベルの発売日が各社かなり重なり、新刊展開のため売り場スペースをガラリと一新せねばならないタイミングがあります。
それに備えて数日前から、事前にパズルのピースをはめるように「こことここはこの本のために空けておこう」などと考えたりするのが大変……ではあるのですが、これがまた充実した時間だったなあと、今ではしみじみ思います。
それでは具体的にどのレーベルとレーベルが被っているのでしょうか?
主要なレーベルを見ていきましょう。
まずは月末から月初めにかけて怒涛のラッシュが来ます。
30日 モンスター文庫(双葉社)
31日 ファミ通文庫(KADOKAWA)、ヒーロー文庫(主婦の友社)
1日 角川スニーカー文庫(KADOKAWA)、HJ文庫(ホビージャパン)
2日 講談社ラノベ文庫(講談社)
3日 ぽにきゃんBOOKS(ポニーキャニオン)※
※私の勤めていた当時。「元勇者~」とか「宝石吐き~」の新刊予定見てて発売日が17日になってたんですけど発売日変わったんですかね?
月をまたいでこれだけ続くんですよね。
それぞれ強い作品を抱えているレーベルさんですから、人気作が集中して出た時はそれはもう売り場ぎゅうぎゅうです。
ここからはしばらくポツポツとしか出ないので、電撃文庫(10日)が出るまで小休止という感じですが……15日あたりからまたラッシュがきます。
いやまあこの10日というのも確かこのラノ文庫や、星海社文庫など重なってはいるんですけども。
15日 GA文庫(SBクリエイティブ)
18日 ガガガ文庫(小学館)
20日 富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)、一迅社文庫(一迅社)
ここが電撃さんがやや落ち着いた後にくる中盤の山場ですね。特にGA文庫さんは私の勤めていた頃からかなり台頭してきた印象があるので、気が抜けなかったですね。
このへんになってくると電撃さんの分もだいぶさばけるので、たとえば2列で平積みしていたのを1列にしたりというような感じで出していく感じですね。
このGA~ファンタジアのあたりに休日前の納品ラッシュが来るとこれがなかなかの分量なのです……!
特にガガガさんとファンタジアさんが同時に入荷されることは割と頻繁にあったのでさあ大変(笑)
今の書店員さんはここにノベルゼロ(15日発売)も重なってきたのでなおのことスペースの工面に難儀しているのではないでしょうか……
あとさっき言ってたぽにきゃんBOOKSもそうですし。
そしていよいよここが踏ん張り所。もっとも並べるのが辛かった下旬25日の出版ラッシュです。
MF文庫J(KADOKAWA)、ダッシュエックス文庫(集英社)、オーバーラップ文庫(オーバーラップ)
これら3レーベルが一気に……(泡を吹いて倒れる)
特にMFさんは点数もかなり多いので、売り場を拡張してなかった時代は1冊~2冊のやつを棚差しのように立てて並べるしかなくて本当にキツキツでしたねー。
私のいた時期でいちばん大変だったのは『僕は友達が少ない』の最終巻が来たときでしょうか。小さな店でしたけど平積みで4列~6列にしてもまだこんもりするくらい納品きましたからねー。
そんなのは普段なら『ソードアート・オンライン』か『魔法科高校の劣等生』くらいしかありえません。
そこにさらにそれ以外のMFさんの文庫や他の出版社さんの分もあるわけですから、その日のライトノベルの入荷は恐ろしいことになってましたよ(笑)
というように、月ごとに集中するライトノベル出版ラッシュの日取りとレーベルさんについて見てきてました。
この3つのラッシュ+電撃さんがくる前の日には「売れてくれ~売れてくれ~なるべく今の在庫減らしておきたいから売れてくれ~~」というように祈るような気持ちでしたね(笑)
そこで1冊だけになった文庫とかを手に取ってくれれば「よっしゃああああ空いたあああああ!」というように、心の中でガッツポーズを決めていました(笑)
……ゴホン。
このようにライトノベルの発売日ってだいたいまとまってるんですよね。これら新刊たちをいかに出して、いかにお客さんに手にとっていただくか。
これが書店員としての腕の見せ所であり、成果が出てどんどん売れていってくれればやっぱり嬉しかったですね。苦労して売り場を考えて並べたのが報われたのですから。
その瞬間の充足感こそ、ある意味で担当を持つことの醍醐味だったかもしれません。
とはいえ、最終的に私のいた店は2店とも畳むことになってしまいましたし、私に足らないところはあったのでしょうけれど……いやいや、ジメジメした話はなし!
各出版社さんもなるべく出版時期を集中させることにより、できるだけ多くの本を同時に買ってもらうことを狙っているのでしょうね。
その競争は熾烈なもので、それだけ発売日が密集した中、時には満足に目立たせられない本も出てきたりするわけです。
そんな日々の『戦場』を勝ち抜き、見事読者さん=お客さまの手のもとに届いた本というのは、それだけですごいと思うのですよね。
通常売れっ子さんの売れる本がもっとも目立つ位置でドーンと平積みされてる中、隅っこで売られることも強いられるという不利な環境の中、それでも重版がかかるほど売れなければ生き残るのは難しい。
出版不況が長く叫ばれ、1冊あたりの売り上げが下がった結果点数で勝負するようになった現在の状況において、あぶれないようにしようとするだけで大変でしょう。
長く作家活動を続けられる方はそういった『戦場』を勝ち抜いてこられているわけです。すごいとしか言いようがないです。
日々の新刊に追われ、なかなか多くの作家さんにとって理想として思い描く売り出し方はできなかったかもしれませんが、私がほんの少しの間でも出版と販売の末端を担い作家さん方の生活を支えるお手伝いができたのならば光栄な事だなと、心から思います。
ということで今回は前回の話を発展させて、ざっくりではありますが、レーベルさんのお名前を出しながら毎日戦局が複雑に変わり続ける『戦場』についてお送りいたしました。いかがでしたか?
次回の内容も一応は決まっているので、また近いうちにお会いしましょう。
予想以上に仕事前のギリギリになってしまった……いつもの更新時間に間に合わせられなかったのは次回の課題としましょう。誤字脱字チェックしきれなかったらすみません! それでは!
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