書店員、表現規制危機のはざまで
エッセイコンテスト終了直前以来の更新です。おひさしぶりです。
はじめましての方ははじめまして。かつて在籍していた書店を舞台にしたエッセイをちょこちょこ書いてます、コミナトケイと申します。
久しぶりの更新でいよいよ新章か? と思われた方、申し訳ありません。
今回はどうしてもしたかったお話を。またもやライトノベルとは関係ないので大変申し訳ないのですが、これだけは今しておいた方がいいだろうと思いまして急遽番外編を延長してお送りします。
ライトノベル担当書店員あるあるネタについては、申し訳ありませんがもう少しお待ちいただけるとありがたく……すみません。
さてわたくし、1店目に在籍していたお店では雑誌全般を担当していたということは申し上げたと思うのですが……
全般、と言うからにはありとあらゆるジャンルの雑誌を受け持っていました。タイトルからだいたい本日の内容はお察しの通り、これからお話させていただくえっちな本――つまり「成年向け雑誌」も例外ではありませんでした。
アニメ・漫画・ゲームを取り巻く議論の中で、「表現規制」という言葉を何度か目にした方も多いことと思います。
特に成人向けコミック業界はことあるごとに槍玉に挙げられますね。あまりにも目に余るとして、表現内容に制限を設けるべきという声が根強く存在します。
そうした意見を目にしたとき、どうか「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき~」ではじまるあの有名な格言を一度思い起こしてみてください。
タダでさえアダルト業界は嫌悪する方々が一定数は出てしまう分野であり、つねに批判されがちです。一度国や地方にいきすぎた規制を許してしまったら、その対象は際限なく広がっていくだろうことは想像に難くありません。
エロ本なんてキモいし、規制されて当たり前じゃないの? という見方もあるでしょうけれど、実はアダルト業界だけで済む話ではないのです。
最初は誰もが納得してもらえそうなところから外堀を埋められ、じわじわと何も言えない社会が作られてしまう危険性があるのです。創作の自由度は大きく損なわれ、面白いものが産まれる可能性が限りなく狭まった結果、文化そのものが衰退することになるでしょう。
それこそ、ここカクヨムでも気軽に書けなくなるくらいに。
簡単に表現の規制を許してはならないのです。
しかし、この間の参議院選挙で、表現規制反対を公約に掲げた山田太郎元議員が30万票近い比例票を獲得。残念ながら惜しくも落選となってしまいましたが、選挙に必要ないわゆる「3バン」――地盤、看板、鞄といったものがない候補としては桁違いの数であり、多くの政界関係者が驚いたそうです。
「表現規制」反対の声は決して少数のものではないということはこれで証明できたことと思いますが、それでも創作・表現の分野は、いまだに規制の狭間を綱渡りしているような厳しい状態であると言わざるを得ないでしょう。
予断を許しませんね。
――と。ここまでが前置き。長くなってしまい申し訳ありません。
私が雑誌を担当していた期間は、いわゆる「非実在青少年」という用語と共に表現の危機が語られていた時期も含まれます。
その当時雑誌担当としてどういった取り組みをしていたのか、今書いておく必要があるのではないかと思いまして番外を設けさせていただきました。
それでは、ここからは私が雑誌担当として成人向け雑誌を管理する面で気をつけていたこと、また指導されていたことなどについて書き出していこうと思います。
まずいちばん気を配らなければならなかったのは、成人向け雑誌の棚とその他の棚をはっきりと分けなければいけなかったという点です。
「ゾーニング」と呼ばれるものですね。
特に私の行っていた店は、表紙部分を見せて並べる棚上部に簡単な仕切りのようなものがあるだけで、アダルトだけを区切ったスペースはなく、その横にはごく普通の雑誌が並んでいました。
アダルト専門店によくあるように、のれんのようなもので入口を覆ったスペースがあったらラクだったのですが、どうしてもアダルト目的ではないお客様の目にも触れてしまう配置でした。
そのため、明確に成人向けのスペースとの境目をしっかりと設けないといけませんでした。
私の書店は駅前の人通りの多いところだったということもあり、成人向けスペースが非常に狭く、おまけ程度に出しているといった程度の扱いでした。
しかしその割に種類はものすごく多くてですね……
大量に入ってくるものも多かった(たとえばD○MのDVD付き雑誌とか。安価ということもあり全雑誌中でも上位に入るくらい売れたのです)ので、平積みの本を他のスペースへはみ出さないようになんとか収めるのに毎日苦慮したものです。
あとは立ち読みされない配慮です。ここはある意味ゾーニング以上に気を遣ったところです。
たとえばコンビニなどでよく見られる成年向け雑誌の多くは通常立ち読み防止のための青いシールが貼ってあります。
ですが書店に入ってくるものには、そういったものが貼ってないものもあります。そういった雑誌に大きな透明カバーをかけなければなりませんでした。
入荷の多い日には、その作業だけでかなりの時間を使ったり……といった状態もしばしばありました。カバーかけは1冊1冊手作業でしたからね。
お客様からすればウザかったかもしれませんが……
立ち読み防止という意味合いもありましたけど、付録を万引きされないようにするという意味でも必ずしなければならない作業でしたね。
私のいた当時はようやくDVDメディアそのものの値段が下がりはじめ、各出版社がこぞって付けはじめた頃でしたので。
今でこそ当たり前にDVDが付録になってますけど、昔はそれなりに貴重だったのですよね。
そういった努力もむなしく、たまに抜き取られてるのを見つけてしまったりしてましたけどね……おのれ許すまじ。
先程もチラッと触れましたけれど、私が雑誌担当をしていた当時は成年向けジャンルそのものの風当たりが非常に強かった時期ということもあり、自治体の担当者が訪れて、売り場の実態調査なんかも何度か受けました。
記録も取ってませんでしたし完全に覚えてるわけではありません。割と多くのチェック項目があり、細かい指示もあったような気がしますが、最も重要だったのはここまでで挙げた「ゾーニング」と「立ち読み防止」の2点だったと思います。
守らなければ罰則が、みたいなものではありませんでしたが、私もかねてから表現規制などの問題に関心があったので、私なりにできる限りの努力させていただいたつもりです。
私は書店員でなくなって久しいですが、おそらくは現在も、ほぼ全ての成年向け雑誌なりコミックを取り扱ってる店舗さんはこの2点の遵守に取り組んでくださっていることと思います。大変にお疲れ様です。
実際にコンテンツを販売する側として取り組めることはこのくらいかもしれませんが、書店側も取り組める限りのことはしていますよ、ということを説明させていただきたいなと思い書き上げさせていただきました。
問題に詳しい方にとっては既出の内容ばかりだったでしょうけれど……ここまでお読みいただきありがとうございました。
……何文字くらいになったんだろう。いつもより長くなってしまいましたかね? すみません、これでも少し減らしたつもりなんですが……(汗)
表現規制にまつわるエピソード以外にも雑誌担当時代のエピソードも結構面白いものが多いので、いつかまたお話したいですね。
おそらく次こそ新章。それでは、またお会いしましょう。
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