ショートショート「転送装置」
Jabara
ショートショート「転送装置」
ここは、かなーり未来の研究室。
転送装置の開発に成功して
もうすぐ実用化できるレベルになっている。
「博士、やっとここまでこぎつけましたね」
「うんうん、苦節50年、
わたしの人生のほとんどをこの研究に費やしてきた。
時には蝿が混入してハエ男が生まれたり、
裏表が反転して肉塊になってしまったこともあるが、
失敗は成功の母。
めげずに研究を続けてきた甲斐があった。」
「しかし、1つわからないことがあるんですが、
質問していいでしょうか?」
「いいとも、どんなことだね」
「物質の転送は材料が転送先にあればできるでしょうが、
人間の転送はどうしてるんでしょう?」
「人間も同じことだよ。材料が転送先にあればいいんだ。
それらをオリジナルと同じように再構築すればいいだけさ。」
「いえ、わたしがお聞きしたいのはつまり魂の問題でして。
転送先の人間の魂は同じなんでしょうか?」
「はっはっは、そんな小さなことは
気にしなくていいんだよ。
どうせオリジナルはこの世から消去するんだから、
比べるものがなくなる。」
「なるほどー。そこが博士のすばらしいところですね
普通の研究者は細かいところにこだわりすぎる。
転送先の人間がオリジナルと全く同じ必要はないんですね。」
「そのとおり、
だれだって自分のことが100%わかってるわけでもないし、
もし誤差があったとしても許容範囲内さ。」
今日は体験者を募ってのイベントの日。
準備も完了したのでいよいよ試運転のスタート。
「それでは希望者のみなさん、順番にお入りください。」
転送距離は理論的には無限に延ばせるが、
お試しということで受信機は5mはなれたところに
設置されている。
「どうぞ、1番目の方、転送装置にお入りください」
「はーい、もう1週間もビルの外でこの日を待っていたんですよ。
台風が近づいてきていたんで生きた心地がしませんでした」
男性は、体験者1番目の栄誉を獲得するための苦労話を
ひとしきり話し終わると、転送装置のなかに入った。
スイッチが入り、目を開けていられないほどの閃光が走り、
転送装置から消えた。
しばらくして、受信機からその男性が出てきた。
「いや、すばらしい体験でした。
なんとなく、疲れもとれて体調もよくなったようです。
転送するときになにか治療のようなこともしている気がしますが、
どうなんでしょう?」
「お気づきになられましたか。
博士のアイデアで再構築するときに、
あらゆる悪いところを調整・治療する機能もついています。」
「なんてすばらしいんでしょう。
遠くに一瞬で行けるだけでなく、体調もよくなるとは!」
次々と体験者が転送装置に入り、
それぞれ惜しみない賛辞を述べて帰っていった。
「大変な人気ですね。博士」
「そうだな。しかしまだ地下に積み上げられた
転送前の身体の処理をしないとね。
体験者にはあれを見せないほうがいいだろうね。」
「以前なら、死体の山と表現していたんでしょうが、
たんなる転送の副産物ですから、
法的にはなんの問題も無いんでしょうね。
なんせ、新しい身体で生きているんですから。」
・
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しばらくして、地下からヒソヒソと声が聞こえてきた。
「おや、ここはどこだ?
暗くて何も見えないけど実験は失敗したのかな?
事故かなにかが起きたのだろうか?」
「その声は、わたしより先に転送装置を体験された方では?
実験は成功して、受信機から出てこられていましたが、
どういうことなのでしょうね?」
その時、助手が暗い部屋をのぞきこんだ。
「あらあら、また処分しそこなっている副産物がいるようだ。
博士に報告しておこう。」
副産物に生きていられては、研究の邪魔になる。
ポチッ、スイッチを押して処分された。
ショートショート「転送装置」 Jabara @jabara
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