二十九、深青と灰煙
呆然としていた。「ユーク」と、届かない声が床に零れて消えた。
僕は一体何を言った? 何を思わせた?
……傷つけた。傷つけて、しまった。ユークの言葉が、がんがんと耳の奥で
言わせてしまった。そんな言葉、あの子は絶対に言いたくなかったはずなのに。
胸が逸る。床に貼りついたように動かない足。がくがくと震えるだけの膝。自分の情けない案山子の棒のような足を叱咤して、追いかけようとした。けれど、両の腕を掴まれ、後ろにひかれて、僕は転ぶところだった。そのまま傾いた身体は、カイヤの身体にぶつかって、止まった。肩がカイヤの胸にぶつかって、少し痛そうな音がした。
「な、なに」
困惑のまま僕が問うたら、カイヤは僕の腕を片方離し、僕の身体を反転させ向かい合った。そうしてまた、腕を取る。僕らは両手をつないだまま見つめ合う体になった。
カイヤは、場にそぐわないような穏やかな顔をしている。ユークに怒鳴られたばかりだというのに、口元に浮かんでいるのは優しい微笑だった。
「か、カイヤ……?」
「なあ、ちょっとだけ話そうぜ」
「は……? いや、それよりユークを追いかけなきゃ……」
「ユークの足にお前の足が追い付くかよ。今行っても後で行っても一緒だろ。だから……少しだけさ、俺の話を聞いてよ」
ユークのことがまだ気がかりだ。つい玄関をちらちらと見てしまう。けれど次第にカイヤの微笑みが苦しげに歪んでくるから、それだって見ていたらたまらなくなってしまった。だから僕は、仕方なく、そして大人しく、椅子に座ることにした。カイヤは僕が座ったことに安心したのか、僕の手の甲を親指で何度かそっと撫でた後、ようやく両手を離してくれた。
カイヤは僕の向かいにとすん、と腰かける。そして空っぽのティーカップを手慰んだ。何度か目を閉じては、溜め息を零す。何を言いあぐねているのだろうと、僕も玄関を気にするのはやめにした。カイヤの言葉を待つ。
「この世界のこと、どうすんの」
長い沈黙の後、カイヤの口からはそんな言葉が静かに紡がれた。
僕はひゅっと息をのみ込んだまま、何も言えなかった。先刻までは、ユークの想いを知って、僕自身も混乱したまま、ただやみくもに追いかけようとしていた。何も答えなんか出てはいなかった。ユークを追いかけるということは、あの子の慟哭にちゃんと僕自身の答えを示すということだ。僕はじっとしていられなくなってきて、膝の上を掌で何度も擦った。
「……アズ。俺の持論はさ、最初から寸分たりとも変わっていないよ。世界は正しい形であるべきだ。この世界が存在しないことがあるべき形なら、俺はアズと一緒に世界を壊す」
僕は思わず俯いた。淀みないカイヤの声が、今は胸にきりりと刺さる。
「でもさ、正しい形ってなんだろうな。俺は別に正義の味方になりたいわけじゃなかったんだ。なのにずっと、この世界は間違っている、だから正さなきゃ……そんな思いに突き動かされていた。強迫観念……みたいなものだったかもしれない」
カイヤは、カップをなぜか僕の前に置いた。僕は、同じようにカップを手慰むしかなかった。
「アズ。お前は梓じゃねえ。俺はそう思ってる。今目の前にいるお前は、俺の友達のアズであって、俺の知らない梓とかいう画家じゃない。同じようにさ、お前にとっても、俺は絵哉の代わりじゃなくて、ここで出会って、友達になった……そんなカイヤっていう絵であればいいと思ってる。でも……今は、敢えて聞くな。これは俺だけがきっとできることだから。俺の言葉しか多分、届かないんだろ? な、梓」
その名前を呼ばれた瞬間、心臓がぶるりと震えたような心地がした。遅れて僕は身震いした。頭がきん、と痛んで、それと同時に視界が晴れる。
「なあ梓。絵哉の代わりに聞くよ。なんでお前、自殺したの」
「わ、かるわけ、ない」
僕は震える声で言った。自分が梓であればいいと願い続けて、結局そうじゃない、ただの絵でしかないのだと思い知ったばかりだというのに。そんな質問に、答えられるわけがない、と心は思った。けれど、身体はカイヤの問いにあからさまに怯え、まがい物の脳みそが言い訳や嘘をひねり出そうとしているのがわかった。僕は、口を開けて、閉じて。何も言うことができない。何を言っても、正解を紡げる気がしなくて。
カイヤは、それも想定内とでもいうように、大して返事を待たずに次の言葉を続けていく。
「お前の中で、そんなに【俺】が死んだことが、枷だった?」
「カイヤ」
カイヤは痛ましいものを見るような目で僕を見る。僕はやめて、見ないでと叫びたかった。けれど息が苦しい。口がうまく動かない。
「悪かったよ。勝手に先に死んでさ。しかも炎の中で。お前の大事な絵が燃えた次の日に、お前からいくつも奪うような形で死んで、悪かったよ。でも、俺だって死にたくなんかなかったよ」
「カイヤ……! やめて、僕にそんな話をしたって、なんの意味も、ないんだ」
「意味がないなんてこと、ないから」
カイヤは笑顔を消す。
「お前は絵だけれど、お前の中に梓がいる。梓が閉じ込めた自殺願望も生への執着も、諦念も希望も、この世界でお前だけが持ってる。だとしたら、この絵画だけでできた世界の中ではお前こそが梓ってわけだ。残念だったな」
まるで嘲るように、カイヤはそう言って、口の端を釣り上げた。
「梓。一つだけ教えてくれよ。アズ、考えてくれよ。お前なら答えを出せるはずだ。お前なら……共感ができるかどうかは別として……梓のことはわかるはずだ。俺が……俺がそうなんだから」
カイヤは泣きそうだった。僕は、喉元に手をやった後、静かに言った。
「カイヤには……梓の友達だった、絵哉って人が生きてるの?」
「自分の魂を削り取って芸術を作るような芸術家はさ、被写体の魂を削り取ることもあるらしいな。魂って何だろう。結局は、須﨑梓が知りえる、あるいは文字や言葉にできなくとも感じ取れただけの赤司絵哉という人間の雰囲気や思念や存在感が、俺の中で息づいているだけなんだろうけれど」
カイヤは目を閉じる。
「でも、今から俺が言うことは、きっと梓にも、アズにも思いつかないだろうことだと思うから、俺はおまえらに言わなきゃいけない。絵哉の切り取られた魂の欠片として、おまえたちに伝えなきゃいけない」
僕は身構えた。カイヤは目を開けて、小さくを息を吸い、かすれた声を息と共に零した。
「お前、俺が死んだとき、こうは思ってくれなかったの? 『生きていてほしかった』って」
僕は、息を止めた。一寸。頭の中が真っ白になり、ザザザとノイズが走って、灰色へ、そして黒へと変わっていく。眩暈を起こしたのかもしれなかった。何を言われているのか俄には理解できなくて、否、理解を体が拒絶しかけたのがわかったのだった。そして僕は、止まっていた息を吐き出して、咳込んで、ぐるぐると回る視界の中で必死にカイヤに焦点を合わせようとしたところで、やっぱりカイヤが何を僕に問うているのかとんと思い至ることができない。
「ど、ういう、こと」
「絵のお前に人の生き死にについて考えさせるのも変な話だけどな。でもさ、考えてみろよ、梓。お前はあの頃……中学生の夏、家族関係はうまく行ってなかった、両親に対して、死ねとか思ったことだってあったよな? ああ、誤魔化さなくてもいいよ。俺だって姉ちゃんや母さんに思ってしまったことはあった。でもさ、ほんとに死んでほしいと思った? お前はじいちゃんばあちゃんのことも好きだったよな。遠くにいるじいちゃんばあちゃんの家に遊びに行って、家に帰る時はいつも、『長生きしてね』だなんて言ってしまうとか言ってたよな。覚えてる。覚えてるよ」
「やめろよ! そんな、」
「お前がそういう、どうにも子供っぽくて幼くて、繊細で純粋でいじらしいやつだったって俺は知ってる。お前は、いつだって、自分の周りの大事な人たちがいつかいなくなってしまうことに怯えてた。でもお前って、ちょっと独特だったよな。お前の父方のじいさん、お前が小学生の時亡くなったろ。お前ほんとに泣きはらして泣きはらして、体育の授業でも思い出し泣きしたりしてさ、ほんと、変なやつだったよな。なのに、あの時お前は簡単に【死】を乗り越えたんだ。お前わかってたんだ。じじばばは寿命があるからって。どうせ自分より先に死ぬからって。もう少し長生きしてほしかったけど、でも仕方ないことだよなってちゃんと冷静に、淡々と、自分の中で消化したんだ。お前の父さんや、血がつながってすらいない母さんの方がお前よりずっとじいさんの死を引きずってたよな」
「やめてよ、カイ、」
「なのになんで、俺の時はそれができなかった?」
僕は、たたみかけるようなカイヤの言葉に混乱した。梓のどろどろとした鬱屈が、僕の心にどろりと沁み込んでくる。頭がおかしくなりそうだ。画用紙に、筆洗いの汚い水をぶちまけられて汚されたような感覚だった。
「そんなの、だって、事故死、じゃんか。かいやは、まだもっと、生きるはずで」
「違うだろ。お前はさ、酷いやつだよ、梓。お前はそんなやつの肖像画なんだよ、アズ。梓は、俺の死を悲しんだんじゃないんだ。俺にもっと生きててほしかったとか、死なないでほしかったなんて、俺のことを想って泣いてくれたことなんか一度もなかったんだ。お前は、梓は、自分がかわいそうで泣いたんだ」
カイヤの声が震えた。嗚咽を堪えるような裏返った声に、僕はやっと顔をあげて、カイヤの顔を見つめ返した。カイヤは、やはり泣くのを堪えているようだった。
「やっと心をさらけ出せた唯一無二の親友が死んじゃった自分はなんてかわいそう。自分のすべてをぶつけて書いた絵が燃えてしまって、なくなってなんてかわいそう。もうこの世に自分をわかってくれる人がいない、なんてかわいそう。だからなんで早く死んだんだって俺のことを恨んだんだ。でもその自分の醜い部分を直視できなくて、お前は逃げたんだ。鬱屈するという、自殺願望に逃げたんだ。もうこんな世界にいたって意味がない、はやく死にたい、死にたい。ああ、母さんも死んでしまった。僕のせいということにしておこう。ああ、僕ってなんて悪魔の子。こんな僕は死ぬべき。死んでいいんだ。死んでも誰も咎めないでくれるだろう。だって僕は狂っちゃったし。害悪だし。ああ僕ってかわいそう。引き留めてくれるはずの親友も母さんももう生きてない。用意周到だよな。唯一生きてる親父さんがすぐには声をかけられない外国で、自殺の計画なんかしっかり立てて、遺書までご丁寧に」
カイヤは、初めて目に憎悪を宿らせた。
「ふざけんな」
そうして、カイヤの双眸から、涙が二筋零れて落ちた。あとは、あとからあとから、ぼたぼたと追いかけるように落ちていく。
「俺を言い訳にすんな。俺が欲しかったのは、俺が望んでいたのは、お前がそんな風になっちゃうことなんかじゃなかった。もう少し生きててほしかった、って。そう少しでも思ってもらえたら。美味しいものを食べた時、楽しかった時、ああここにあいつがいたらな、って思い出してくれるだけで、それだけでよかった。なのにおまえはなんだよ。俺はお前のなんだったんだよ。友達だって思ってたのは俺だけだったのかよ。俺を言い訳にするなよ。死んだ後まで俺を汚さないでくれよ!」
僕は思わず胸を押さえた。ひどく体が軋んだ。
僕の目の前にいるのは、赤い髪に深い青の目をしたカイヤという絵の子供のはずだった。けれど、僕に語り掛けているのは、まぎれもなく、僕を生み出した梓の親友で、生きていた誰かだった。そして、その慟哭に、僕の中の、あるいは外側の梓が、戸惑って、心を軋ませている。それがわかる。
どこかで、止まっていた時計の針が動き出したような不思議な感覚に囚われた。僕はといえば、はらはらと涙を零し続けるカイヤを目を見開いたまま凝視することしかできないでいる。
「………こんな綺麗な絵を描くやつが、悪者なわけないだろ」
カイヤは、鼻をぐすりと鳴らして、力なく笑った。
「梓の鬱屈が作り出した世界がこの世界なら、やっぱりここはあっちゃいけねえ世界なんだ。だって、ここがある限り、梓の生き方も、死にざまも、肯定されちまう。ここがあるから梓は甘え続ける。かわいそうな画家でいられる。そんなの許さない。友達だから、許さないんだ」
「カイヤ………僕は、僕は梓じゃない、って言い訳も、もう許されない?」
この期に及んで、保身に走ろうとする自分が醜いなと思う。そうして僕は少しずつ、僕という人間が、須﨑梓という画家が、そういう狡くて嫌なやつだったと思いだしつつあった。
「ふは、お前らしい。自分で考えろよ。俺はもう死人なんだからさ。本来お前の未来にはいないんだよ」
「そう、だね……」
僕は、手をカップから離して、テーブルの下、膝の上に置いた。
「僕は、ニーナを助けるために、この世界を壊さなきゃと思ってた。ニーナが僕らとは違って絵ではなくて、僕はニーナが大好きな梓にすらなれないなら、世界と一緒に消えたっていいやって自棄になってた。はは……梓となんにも違わないね。そうじゃないんだ。僕は、
「お前はさ、」
カイヤは、袖で濡れた頬を拭った。
「多分、梓の中の理性だとか、良心だとか、根っこの部分なんだと思う。傍若無人で、ぼけっとしてるとことか、そっくりだよ。まだ鬱屈する前のあいつなんだ。だからお前が、客観的にこの世界を観測しなきゃいけないんだ」
「うん……」
「でも、揺れてる? ユークのあんな言葉を聞いたから」
「正直……」
僕は素直にうなずく。
「だよな。梓という人間に関して考えたら、俺はこの世界を壊すべきだと思う。それは変わらない。そしてお前は、ニーナのためにこの世界を壊すべきだと思っている。でもユークはこの世界で生きてきた、いわばこの世界に生まれた新しい命だ。俺たちの主張は、神様が自分の勝手な都合で地球を滅ぼそうとしているようなもんだ」
「はは……うん。でもね、カイヤ。まだ答えは出てない。僕は自分で思っていた以上に、ユークのことが大事なんだと思う。この世界でできた初めての友達だ。あの子を守りたいと思った気持ちは、今も少しも変わってない。ユークとニーナを天秤にかけなくちゃいけないけれど、まだ僕には……できそうにない。それでも今は、ユークを一人にしたくない。例え思いがかみ合わなくても、ユークのことだって助けたいって気持ちに変わりはないんだ。あの子が道に迷っていたら、僕も同じ罪人になるよ。友達だから。……僕は、変わってるかもしれないけど、そういうやつなんだ」
「一緒に道に迷うことだけが友達じゃないけどな」
カイヤは、なぜだか寂し気な色を声に滲ませて、笑った。
「友達がまちがっていたら、ぶつかってでもそれを教えてやるのが本当の友達だよ。俺たちはそれに気づくのが遅かった」
「カイヤ……?」
「なんでもない」
カイヤは頭を振る。
「お前、ユークのことは大事にしろよ。お前の親友」
「うん」
僕は椅子から立ち上がる。
「じゃあ……見つけに行こう、カイヤも……」
「俺は行かない」
「え?」
カイヤは椅子に座ったままだった。なぜ、と僕の眉根が寄る。
「俺の役目はあと一つだけだ。ずっと不思議だったんだよな。なんで俺だけ火の力を持ってるんだろうなって」
「カイヤ、何を言って……」
「ユークの力は花を枯らす。ユークはこの世界に咲くあらゆる花と、梓の書いた花の絵たちを枯らすことができる。でもあいつが枯らせないやつが二人いる」
カイヤは目を細めた。かざした手のひらに、炎が揺らめく。僕は思わず身構えた。カイヤが一体何をするつもりなのか、わからずにいた。頭の中で警鐘が鳴る。でも、何が、一体、何。カイヤ。
「【人物画】をユークは枯らせない。俺たちは自ら命を絶たなきゃいけない。あるいは俺は……俺とお前を燃やして灰にするためにここで目覚めたんだろう」
「カイヤ、何する気――ロゼ・アクアレー――」
「でも俺は、お前を同じ炎に包みたくない。自分の死に際くらい、俺を言い訳にしないで決めて。ほんとにお願い。それだけが俺たちの望み」
僕が呪文を唱え終わる前に、カイヤは炎で僕を攻撃してきた。僕はとっさに避けることで精いっぱいで、詠唱を中断させてしまう。煙に咳込みながら、赤い光の奥にカイヤの影を探した。
「カイヤ! カイヤ! やめろよ!」
「でもこうしないと、お前決められないだろ?」
カイヤは、なぜだか楽し気に笑う。
「ユークはこの世界を消したくないと言った。俺は消せよこんちくしょうって思ってる。俺という絵がこの世界からもなくなることで、やっとゲームスタートだ。主人公さんよ、お前の物語は自分で決めて」
カイヤの身体が燃えていくのが見えた。僕は手を伸ばす。けれど、また黒い煙に包まれて息が苦しくなり、動けなくなる。
「カ………げほっ、カイ、ヤ」
「たのしかった」
カイヤは穏やかにそう言った。燃えるからだが灰になって床に散らばる。火は床にも壁にも燃え移った。僕は動けなかった。どうしよう、どうしよう、どうしようと混乱して。気づいた時には、冷たいものが目じりから流れて、顎を伝って、ぽたぽたと襟を濡らしていた。
「はは」
カイヤの顔が半分になった頃。カイヤは笑って、……わざと僕を嘲って、言った。
「やっぱりお前、俺に行かないでっては言えないやつなんだよな」
僕は弾かれたように顔をあげた。
だって手遅れだ。どうしたらいいのかわからない。わからないと思考停止しているうちに、カイヤの身体は灰に変わっていく。
僕の目から、ぶわりと涙があふれ出した。そうか、そうだな、と思って。
僕は存外冷たいやつで、存外冷静なのだ。今だって、混乱しているつもりになっているだけだ。今自分がやるべきことがなんなのかは、もうわかってしまっている。
「……っ、カイ、ヤ」
僕は嗚咽交じりの声を、喉から絞り出した。
「また、な」
「ばか。二度と俺と会おうとすんな」
カイヤはからからと笑って、黒い灰になり、ちぎれた。僕は赤々と燃える家の中を飛び出して、襲い来る煙から逃げ出した。
*
『絵哉へ
僕、君を描いてから一度も人間を描かなかったんだ。怖かったから。だから花の絵ばかり描いていたんだけど、なぜかとても売れたんだ。ああ、あと、勿忘草。あれは毎年ちゃんと植えたよ。あとね、君が土手にばら撒いた種は、少しだけ花を咲かせたけど、あの土手、なくなったんだ。だから君の植えた種は潰れてしまった。まあ、そうなってもいいと思ったから、あんな風に適当に蒔いたんだろうけど。
僕は、君がいなくなった時、一瞬本気で死のうかなって思ったんだ。でも、とりあえず、君と約束したろ。ルーマニアの修道院を見に行きたいって。高校でバイトして、一緒に行こうってさ。結局、僕は周りに推されて大学まで行ったから、渡航するのは遅くなってしまった。今もまだ大学生なんだけど、今は交換留学中なんだ。モルドバの芸術大学に通ってる。なんでそこにわざわざ行くんだって周りからは色々と言われたんだけどさ、この国は日本が色々と支援しているらしくて、時々日本と交流美術展も開かれたりしてるんだ。だから、まあ、そんな感じの理由を並べて、納得してもらったんだよ。
本当は、どこでもよかったんだ。医療が杜撰なところであれば。』
花の魔法と画家 星町憩 @orgelblue
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