第2話 アラアラお母さんとドタバタ娘
「ねえきょーちゃ~ん。もういいんじゃない?耳が痛いよ~!」
「怒られるお前が悪い!」
目薬を落としてから数分後。
華子の耳は説教のおかげか、よれよれとしたご様子です。
しかし「お労しや~」と言いながら自分の耳を慰めている光景には
京助も少しばかり罪悪感が出ました。
「じゃあ俺目薬取ってくるからしっかりそこで正座していろよ!」
「およよよ。わかりました~」
口をへの字にしてご機嫌斜めの子はほっといて、
京助はささっと目薬を拾いにいきます。
しかし、このときへの字だけではなくにんまりとした笑みも出ていたことに
京助は気づくことはありませんでした。
「ったくどこに投げたんだよあいつ…」
玄関先で呟きながら京助は自らの生命の水を探します。
度重なる春の風や、先ほどの説教のせいで京助の目はもう限界に近くなってました。
結膜は炎症して痒い目を掻かないようにするにもそろそろ限界がきました。
「ん?なんか光ってる…?」
道路の向こう側に光り輝く物体を発見しました。
「あ、あった!って、あいつん家の目の前じゃん…」
華子の家は道路を挟んで真向かいの家にありました。
そしてその家には華子が住んでいます。
つまり、華子と京助はお向かいさんということになります。
目薬を拾った京助は何はともあれ、まず水滴を目玉に入れます。
太陽の光で少し痛くなりましたが、
なんとか耐え凌ぎ必死で水滴を入れることができました。
目をつむりながら水の中にあるであろう薬がゆっくりと京助の目を焼かせ、
そしてそのあとに来る癒しが目玉をコーティングさせていきます。
至福と思われる感覚が全身を包みながら、
充血を止めれたという安堵の表情が目に見えてわかります。
少しばかり余韻に浸っていると、どこからかガチャという音がしました。
なんだろう?とゆっくりと目を開けるとそこには一人の女性が立っていました。
「あらら?京助ちゃんどうしたの~?」
「こんにちわ、凛さん」
出てきたのはエプロン姿の華子のお母さんの中西凛さん。歳は30以上のはずですがまだまだ若く感じられ、華子をそのまま大人にした感じの印象を持っています。
初めて会ったときはお金持ちの夫人がテレビから出てきたんじゃないのかと思ったほどでした。
京助はあまりに若く見えるため、おばさんと言うの失礼だと考え名前で読ぶようにしています。
「さっき大きい音がしたけど何か落としたの~?」
「あー…実はさっき目薬落としてしまいまして…」
「あら~まあまあ?大丈夫?割れてない~?」
そう言われ、陽の光で輝いている入れ物を確認してみます。
何度見ても部屋で見たときと変わった様子は見受けられません。
あんな勢いで投げられたのに傷一つ見当たりませんでした。
「割れていません。大丈夫みたいです。安心しました…」
「はぁ~、どうせまたあの娘がしたんでしょ~?家まで声が聞こえてきたのよ~!」
「さっきの声…、そっちまで聞こえていたんですね…」
「そうね、洗濯物を干していたら京助ちゃんの良い声が響いてきたよ~!」
凛さんは自分の娘の体たらくさに肩を落としながら
先ほど怒号を聞いていたようです。
京助はやってしまったと少し後悔。
さっきの怒鳴り声で近所中に聞こえてしまったと考えると
耳が熱くなってしまい、ついつい頬を掻いてしまいます。
「京助ちゃん!いつもいつも華子が迷惑かけてホントごめんなさいね!
ちゃんと後で注意しておくから…」
「あ~…まあ、迷惑になっているのは否定できませんが…」
京助は次の言葉を言おうかどうか悩んだあと、指で髪をかき上げて答えます。
「華子は勉強以外のことはよくやってくれているし…結構いいやつです。
だからできれば怒らないであげてください…」
「…あらあら。京助ちゃんはほんと華子に甘いのね~」
「そんなことはありません!それにさっきの声でわかるように、
今日の分はもう説教はしました。多分十分反省していることでしょう」
「それもそうわね。京助ちゃんがそこまで言うなら、今日は怒らないことにするわ」
うふふと微笑む凛さんは子供っぽくて、
向かいに住んでいるのが京助で本当によかったというご様子でした。
「じゃあ俺そろそろ戻らないと…」
「あらあら?長く引き止めてしまったかしら~?」
「いえいえ…あ!それともう一つ。ちょっと許可して欲しいことが…」
そう言い、京助は思い出したかのようにその話をし始めました…。
「きょーちゃん遅い!」
「…お前、一体何しているんだ」
凛さんとの会話を終えて自宅に戻ってみると、
家の物を物色しウロチョロしていた女の子の姿が。
そして京助が帰ってきたなり、急に停止し廊下で直立をして通せん坊しました。
その堂々とした様子から京助は少しばかり動揺を隠せません。
彼の頭の中は赤信号。パニック状態です。
まず、なぜ勉強していないのか?。なぜ歩き回っていたのか?。
そしてなによりも、
誰もいないからって他人の下駄箱を漁っていいのだろうか…??。
京助は怒ることよりも先に、本当にここは自分の家なのだろうか…という心配で平静を保てませんでした。
しかしマイペースな華子。赤信号の京助にはお構いなしに話しを直進させてきます。
「きょーちゃんがいない間に家を散らかしてしまったのは謝ります!
しかし!私はど~しても見つけたい物があったのです!」
「つまり…?」
「もぉ~見ればわかるでしょ!」
そう言われ見てみると、
ふわふわの髪はゴムでしっかりと止められていて後ろのひと束に結っています。
それに、さっき着ていた上着は脱いだのか七分丈のシャツとなり
いつも履いている愛用のホットパンツという動きやすい格好をしていました。
しかし京助はそれよりも気になるところがありました。
華子が両手に抱えているのは白と黒模様でできたボール。
考えられることはひとつだけでした。
「お前…まさかだと思うが…?」
「そのまさかだよ!きょーちゃん!サッカーしようぜ!!!」
(この元気ハツラツな声はきっと凛さんの耳にも入っているんだろうな~)
京助は華子の家の方をチラっと見ながら考えます。
まるで男の子のようないい文句は
きっと向かいの家にも届いているんだろうと察します。
華子が家に帰ったらどうなるのかと心配しますがそんなことは露知らず、
目の前で犬のようにはしゃいでいる瞳には遊びたいという欲求しか感じ取れません。
さっき凛さんに、もう十分反省しているでしょうと
自信満々に言ってしまった自分が恥ずかしくなってきます。
(なぜ容姿は似ているのにこんなにも違うんだろう…。)
そう思いながらも京助は口には出せず、
しかし、だからこそ自分でも知らないうちに甘やかしてしまうのでしょう。
「はぁー…わかった…。ちょっとだけだぞ」
「やったー!!じゃあ公園にしゅっぱーつ!」
この女の子は言いだしたら聞かない性格。
だから京助は渋々、仕方なく、気が進まないながらも、
今日も華子の頼みを断ることが出来ずに公園へ向かうことにしました。
ほんわか少女と生真面目男子 天気晴太朗 @iyokan
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