ほんわか少女と生真面目男子

天気晴太朗

春休み編

第1話 イヤイヤ宿題とイタイタ目薬

春うららかな今日この頃。部屋の中には春の陽気でいっぱいです。

明るい部屋の中には1人の男の子と1人の女の子がいます。


生真面目な男の子は机に向かい、カリカリとペンを走らせています。

しかし隣の女の子はとても渋い顔でペン回しをして座っています。


「ねえ、きょーちゃん!まだ宿題やらなきゃいけないの~?」


「もちろん」


「別にやってかなくてもいいんじゃない?他の人も多分やらないよ~!」


「俺が許さない。さっさとやれ」


きょーちゃんと言われたこの男の子、

北郷京助ほんごうきょうすけくんは現在、春休みの宿題中です。

そして彼の尖った鋭い目は横に座っている女の子をこれでもかと言わんばかりに宿題をやらせています。


「ぶ~!いいじゃん別に~!!宿題やっても役に立たないよ~!」


そしてこっちで嫌々やっている女の子は中西華子なかにしかこ

華子は極度に勉強嫌いで人に強要でもされない限り頑なにやろうとはしません。

それを表すかのように、彼女のふわふわなセミロングの髪はブンブンと横に振られていてまるで全身で拒んでいるようです。


「いいか?春休みの宿題っていうのはこれから進級するための復習と予習を兼ねているものであって、これからの自分自身に必要なものなんだ。したらば、宿題というものは己の糧となり、また、知識として血肉となるんだ。そして我々はこの春から中学3年生という学校の最上級生となる!…それがわかるか?華子よ!」


「すやー…すーすー…」


「…って!寝るな馬鹿者!!」


ふと目を離している間にふわふわの頭は眠りについていました。

春休みに入ってだいぶ経つのに宿題に一切手をつけてない華子を見かねて、

京助は宿題を手伝うことにしました。そこまでは順調でしたが分厚いドリルを見て戦意喪失したように

「ふぇ?話し終わった~?」


「まったく…人がこんなに懇切丁寧と教えているというのになぜお前は分かってくれないんだ…」


「きょーちゃんの言っていること難しいんだもん…ふぁあ~~ねむい…」


京助は眉を曇らせ失意の念と共にため息が出ました。

しかし華子は京助の悲しみなどいざ知らず、春の陽気でうとうとしています。

しかしそんな陽気だといい思いが過ぎると神様は思ったのか、

季節の風と共に春の暴君も部屋の中に吹かれてきます。


「まったくお前はなあ……やばい…は、は、はっくしょ~~ん!」


「きょーちゃんだいじょぶ?」


「この時期は花粉が辛くてかなわんなあ…華子、ティッシュくれ」


「は~い。どうぞ~」


棚の上にあるティッシュを華子はめんどくさがって座ったまま動き、全身をピンッと伸ばして1枚取ると風の吹くまま京助の元に送りました。


「華子よ、それでもお前は女なのか…少しは女らしくしたらどうなんだ?」


「どこが女っぽくないの~?」


華子は自分の体をペタペタと触りながら確認しています。

少し膨らみのある胸をぐにぐにとしたり、二の腕を引っ張ったりしていますが自分のどこが女っぽくないのかわからない御様子です。

それを見ている京助はやれやれといった表情で物悲しい気分です。


「そうじゃなくてだな…お前はもっとお淑やかというか、麗しさというか…」


京助は短く整った髪を掻いて決まりが悪いように言いました。

華子は頭に?を付けてよく分かってない様子です。

そうこう話していると春の暴君の第2波がきたそうです。


「ああ…目も痛くなってきた!華子よ、今度はそっちの棚の上から目薬を取ってくれないか!」


「きょーちゃんは大変だね~。ちょっとまってね~」


「頼む早くしてくれ!目がー!目がー!」


華子は立ち上がって窓の方にある棚のほうへ行き、目薬を探します。


「えっと目薬、目薬…あった!」


華子は彼がいつも使っている目薬を見つけて渡そうとしました…が。

ポーンと頭の中の豆電球が光り輝き、ある浅知恵が浮かんできました。


(これを渡しちゃうと多分宿題が再開しちゃう…それだけはなんとか阻止しないと!)


「ん?華子よ、目薬あったか!?目が痛くて開けられん!早くしてくれ!」


「あ~ちょっとまってね~散らかっててなかなか見つからないんだ~あはは…」


(どうしよう流石に悪いかな~?でも宿題したくないからな~)


「仕方ない、俺も探そうか?」


「まって!大丈夫だから目つむってて!」


「お、おう…」


(迷ってる暇はないか~!仕方ない、目薬くん!私の平穏のためだ!すまん!)


頭の中の葛藤を終えた華子は勢いよく「ソイっ!」と窓から目薬を投げました。

哀れにも投げられた目薬はくるくると弧を描き玄関先まで行き、カラン!と音を立てていきました。音に少しびっくりしながら確認してみるとプラスチックだったのが幸いか、2階から見ても割れたりしている様子はありませんでした。


「これで私の平穏は守られたよ…目薬と引き換えにしてね…」


華子はまた独り言を呟いたあと、満足気にくるっと振り向きますと…。


「おい、今のしっかりと見てたぞ」


振り返るとそこには赤い目をした鬼が立っていました。


「えっと…なんのことでしょうか?きょーちゃん?」


「お前の墓には目薬を投げ捨てた女として名を刻んでやろう…」


「ご、ご堪忍を~~!!」


「二階から目薬」というがありますが、2階から目薬を投げたバカはこいつくらいだろう…。

それにしてもいつになったら宿題やってくれるんだろうか。

京助はそんなことを思いながらキツ~く説教しました。


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