僕だけの物語

石橋悟

僕だけの話

 空に手を伸ばしたとき、太陽まで手が届きそうだと思った。だから僕は太陽を手に入れることにした。

 空っぽだった頭の中に、太陽が入った。まだ太陽という言葉しか入ってないけれど、いつかきっと本物の太陽を頭に入れたいと思う。

 目標を設定しただけでは目標に到達する事はできない。欲しいと言って持ってきてくれるのは 、せいぜい6才までだ。

 僕は太陽を頭の中に入れるため、少しばかり努力する事にした。

 普段読まない物理の本と科学の本を物置から引っ張り出した。学校で使うのに既に物置に仕舞われていることに己の勉強へのモチベーションの低さを感じた。

 僕は教科書を読む。でも、すぐ止めてしまった。なぜなら教科書というのは物事の基本を教える物ではあるが、太陽の手に入れ方などそういったものは載っていないからだ。

 だから僕は常識を信じ無い事にした。教科書に載っている事を、正しくないと断じる事にする。僕だけの理論を作ろうと思う。世界で信じられていることを否としようと思う。


 そうやって幾年月が経っただろうか。


 気づけば僕の家族はとうに死んでいた。そしていつの間にか世界は変化していた。

 草花生い茂る野原に綺麗な小川、そして綺麗な空。宝石箱かと見紛うかのような世界だったはずだ。そこにポツポツと家があった。それがいつの間にか工場が乱立し、排煙が青かった空を黒色に染めていた。宝石箱?いや、これは既に地獄だ。

 だから僕は太陽を手に入れる事を諦めなかった。太陽を手に入れれば、きっと世界も元に戻るだろうなんて、よくわからないことを考えていた。

 

 また長いときが経った。


 遂に僕は太陽を手に入れる準備ができた。

 その時世界は氷に覆われていた。

 僕はヒョイと太陽へと向かった。

 改めて見る太陽はとても小さかった。もともと小さかったのか、それとも僕が大きいのかはよくわからないけれど、兎に角僕は、むんずと太陽を掴んだ。とても熱かった。

 ようやく僕は初めの目標を達成した。僕は太陽を手に入れた。

けれど何か満たされない。よくわからない穴が僕の心に空いていた。だから僕はその穴に太陽を突っ込んだ。少しだけ満たされた気持ちになった。


 僕は僕の人生を振り返る。

 人生は太陽のことだけで埋め尽くされていた。経年の劣化で僕の記憶は殆ど残っていなかった。太陽の事は知っているけれど、僕は家族のことすら思い出せない。

 とても幸せだった気がする。でも辛かった気もする。だから僕はよく分からなくなって、遠く光る星々が見守る中、一人泣いた。

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僕だけの物語 石橋悟 @ishibashi_Red_Shoes

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