居酒屋Distance

宮爪 モカ

第1話再開

「だからねぇ、私が悪いかっての。」

嗚呼これである。酔っぱらいはこれだから手がかかる。

「私はね、ちゃんとやったんだよ?なぁのに課長はさァ」

「本当にちゃんとやったんですか?」

「ひどいなー明日香ちゃん。居酒屋の娘さんにはオフィスガールの気持ちがわからないのか…私は悲しいよ…」

およよと泣き出す彼女。

決まって彼女がやってくるのは火曜日。

月曜に折れる人が多いのになんで月曜には来ずに火曜なのって聞けば秘密、と。

まぁあらかた予想はついているんだけど。

尚美とは大学のサークルが一緒だった。

就職した彼女は見事OLに。落ちた私は居酒屋でバイト。

絶賛フリーター中だ。

まァ居酒屋は火曜のみで他はコンビニだったりスーパーだったりするんだけどね。

「ねー明日香ちゃーん。もういっそ同棲しようよー。そうしたらお金浮くしー私明日香ちゃんに嫌いじゃないしーお互い独り身ジャーン」

「あんたそういうのは彼氏にいなさいよ…」

呆れながらいう。

「え?だから独り身だってば。だってぇー、私が人生で一度も彼氏ができたことないこと知って嫌味?ひどいよ明日香ちゃん」

「いやいや…あんた可愛いし…。口閉じればキレイだし。口さえ開かなかったらバカじゃないのがわかるんだけどね」

「さっきから明日香ちゃん私のこと罵倒してばっかりだけどどうしたの?ストレスでもあるの?話聞こうか?」

「ない!」

「ならなんでぇ…」

「えぇ…」

寝た。ここで寝た。どうせなら最後まで言ってくださいな。お嬢様。

告白してくる人を次々と振った告白キラーと呼ばれようとそんなこというとは贅沢者ですぞ。



卒業式で告白した。返答は聞かずに逃げた。

人生で初めて好きになった人だった。

気づいたら顔見てるし、気づいたら貴女のこと考えてるし。

本当に無意識って怖い。

今まで私は彼氏はいた。

そりゃ並み以上の顔なのは申し訳ないが自覚あるしね。

高校時代、群を抜いて女子から人気があった男子から告白された。

カーストがバリバリあった我が校で振るというのは今後の学校生活の“死”を意味した。

告白されただけで嫉妬されるのにさらに振ればもうナイフでもも投げられるんじゃないのってぐらい。

別に私は好きでもなかったけどOKした。

そりゃあ一緒にいたら愛情だって湧くよ。

でもねー…、おじいちゃんおばあちゃんに優しくなるような“好き”と“嫌い”も湧かない人だった。

彼から別れを切り出してくれたのが唯一の報いだけど。

まあDVはひどかったね。

だからどちらかというと愛想を疲れたって言い方が正しいのかな。

はい、それがトラウマで世間体でいうレズになりました。

告白して逃げて。フリーターになって3年。

再度であったのは居酒屋だった。

入店してすぐに明日香とわかった。

声は彼女からかけてきた。驚いた。そりゃ告白して逃げた人にそんな話しかけないでしょと思っていたからね。

元々普通じゃなかった彼女だからこそだったのかな。

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