特別編-The White day in 2021-

3月14日(日)

特別編-The White day in 2021-




 3月上旬頃、大学の学生専用ホームページで、秋学期の成績と卒業・進級判定が発表された。僕も栞も、卒業論文関連の科目について単位を取得し、見事に卒業判定を受けた。これで、僕らは卒業式に出席するだけとなった。




 3月も半ばとなり、晴れている日を中心に暖かいと思える日が多くなってきた。

 今も年度末休みだし、いい気候になってきたので、栞と一緒にどこかへ出かけたい気持ちが膨らんでいく。

 しかし、3月7日までのはずだった東京、神奈川、千葉、埼玉への緊急事態宣言は、2週間延長され3月21日までとなった。もし、宣言が解除されたら、日帰りでどこかお出かけしようかと栞と話していた。なので、再延長決定を知ったときは残念な気持ちに。

 3月25日に行われる予定の卒業式は、今のところは実施される予定のまま。ただ、新型コロナウイルスの感染状況よっては中止になる可能性がある。どうか、少しでも流行が抑えられ、卒業式が無事に実施されることを願う。




 今日はホワイトデー。

 栞がバレンタインデーにチョコをプレゼントしてくれたお礼に、今年も手作りのスイーツを作った。僕の家で栞と一緒に食べる予定だ。今日のために、お互いしっかりと感染対策を講じてきた。

 僕の家族も、栞の家族も体調は良好。濃厚接触者になっている人もいない。なので、予定通り、栞が僕の家に来ることになった。


「こんにちは、悠介君」

「こんにちは、栞。待ってたよ」


 午後2時過ぎ。

 栞が家にやってきた。淡い桃色ロングスカートに白い縦ニットセーターという服装がよく似合っている。スマホやパソコンでテレビ通話をたくさんしているけど、実際に会うのが一番いいな。

 栞はマスクを外すと、僕にニッコリと笑顔を見せる。とても可愛い。


「悠介君の作ったスイーツを早く食べたくて、自転車を全力で漕いできたよ」

「ははっ、そうか。嬉しいな」


 栞の額がほんのりと汗ばんでいる。自転車を一生懸命漕いできた証拠だろう。


「じゃあ、さっそくスイーツを食べようか。用意するから、栞は僕の部屋に行ってて」

「はーい」

「あと、飲み物は何がいいかな?」

「自転車漕いで体が熱いから……アイスコーヒーが飲みたいな。スイーツもあるしブラックがいいな」

「アイスコーヒーのブラックだね。了解」


 僕も同じ飲み物にしよう。今日は晴れていて暖かいからな。

 栞はリビングにいる僕の両親に挨拶をすると、2階にある僕の部屋へ1人で向かう。

 僕はキッチンに行き、アイスコーヒーとバレンタインデーのお返しのスイーツ……ガトーショコラを用意する。栞の好みに合わせて甘めに作っている。

 両親もショコラを食べたいと言ったので、僕らだけじゃなく両親の分も切り分ける。

 リビングに持っていくと、両親はさっそくガトーショコラを一口。甘くて美味しいと言ってくれ、甘い物好きの母親はとても満足そうだった。

 2人分のアイスコーヒーとガトーショコラを用意して、僕は自分の部屋と持っていく。


「栞、お待たせ」

「待ってました!」


 栞は僕のベッドにもたれかかるような形でクッションに座っていた。そんな栞はとても幸せそうな笑みを浮かべている。


「栞。ベッドにもたれかかっているけど……自転車を漕いだから疲れちゃった?」

「それもあるかな。でも、一番は……ひさしぶりに悠介君に会ったから、悠介君の匂いを堪能したくて。それで、ベッドに寄り掛かってたの」

「可愛い理由だ。さあ、今年もホワイトデーのスイーツを作ったよ。ガトーショコラだ。栞の好みに合わせて甘めに作ってみた」

「そうなんだ! 嬉しいな!」


 栞の笑みが明るいものへと変化していく。栞はチョコレートはもちろんのこと、チョコ系のスイーツも好きだからな。

 僕はテーブルにガトーショコラとアイスコーヒーを置く。すると、栞は持ってきたバッグからスマホを取り出し、ショコラとコーヒーをさっそく撮影していた。

 トレーを勉強机に置き、僕は栞の斜め前のクッションに腰を下ろす。


「じゃあ、さっそく食べよう!」

「うん。気に入ってくれると嬉しいな」

「きっと気に入るよ! 悠介君の作ったスイーツはどれも美味しいから。いただきます」

「いただきます」


 そうは言うけど、僕はガトーショコラを食べずに、栞がショコラを食べる姿を見る。栞には何度もスイーツを食べてもらってきたけど、緊張してしまうな。

 栞はフォークでガトーショコラを一口サイズで切り分け、口の中に入れる。その瞬間に栞は柔らかな笑顔が浮かぶ。もぐもぐする度に、満面の笑みになっている。


「う~ん! 甘くてとっても美味しいよ!」

「良かった。美味しいって言ってくれて嬉しい」

「本当に美味しいよ。ほら、悠介君も食べよう?」

「そうだね」


 僕もガトーショコラを一口食べる。

 お店で買うものよりも甘いけど、我ながらよくできている。美味しそうに食べている栞を見て、強くそう思う。

 僕の作ったガトーショコラがかなり気に入ったのか、栞はとても速いペースでショコラを完食した。


「ショコラごちそうさまでした! とても美味しかったです!」

「良かった」

「……今年もホワイトデーにスイーツを食べられて幸せだよ。この1年は色々なことがあったからね」

「そうだね」


 就職活動と卒業論文だけでなく、新型コロナウイルスもあったからな。就活と卒論が無事に終わって、コロナに罹ることなく1年を過ごせたのは幸運だった。


「卒業式はちゃんと行われるのかな」

「日程は、緊急事態宣言が開けた後だからね。何にせよ、健康じゃないと卒業式には参加できない。感染対策をしっかりしていかないとね」

「そうだね、悠介君」


 卒業式まであと10日あまり。

 卒業式の日には会場の大学で、ショコラを食べたときのような栞の嬉しそうな笑顔を見たい。




特別編-The White day in 2021- おわり

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