特別編-The Valentine's day in 2021-
2月14日(日)
特別編-The Valentine's day in 2021-
冬休みが終わってから1月末までは、卒業論文の執筆と発表会の練習に追われた。
栞や僕は去年の間にある程度書いていたため、論文の執筆については割と早い段階で終わり、発表会の練習に集中できた。ゼミの教授や大学院生の先輩から、発表するときのコツや、本番で想定される質問について指南していただいた。
1月末に4つのゼミによる卒業論文発表会が行われた。
発表順は僕らの入っているゼミが最初。しかも、
練習をたくさんしたおかげもあり、僕は普通に発表することができた。他のゼミの教授や学生からの恐怖の質問タイムも乗り越えられた。他のゼミの教授からもお褒めの言葉をいただけて嬉しかった。
最初に発表したので、あとの学生の卒業発表からは気楽に聞けた。最初の方で発表した人の特権だと思う。
ただし、栞の発表だけは聞いている僕も緊張してしまう。ちゃんと発表できて、教授や学生達の質問に乗り越えられるかどうか心配で。
ただ、練習の成果があって、栞は卒論の内容をしっかりと発表。質問タイムでも非常に落ち着いていた。分からない質問に対しても誠実に対応していたし。それが良かったのか、教授達からは高評価だった。
僕らの卒業論文発表は無事に終了。論文の書き直しや修正などを求められることもなかったので、僕らの卒業論文はこうして終わった。
年度末の休みに入り、大学関連の行事で参加するのは、3月下旬に行われる卒業式だけとなった。今のところは開催される予定だけど、新型コロナウイルスの感染状況によっては中止となってしまう可能性もあるという。無事に開催されることを願う。
年度末休みに入ってからは、バイト以外ではほとんど自宅で過ごしている。卒論で忙しくて録り溜めていた深夜アニメを観たり、積読していたラノベを読んだり、栞とオンラインで呑み会をしたりしている。ゼミでオンライン打ち上げもしたな。
1月中は卒論に集中していたからあっという間に時間が過ぎたけど、休みに入ってからは楽し過ぎて時間の進みがとても早い。このままだと、大学の卒業式の日や、社会人となる4月はすぐに来てしまいそうだな。
そして、2月14日。
今日はバレンタインデー。年度末の休みに入ってからは初めて栞と会う予定だ。午後に栞の家に行くことになっている。
お互いの家族の体調も良く、感染者の濃厚接触者にもなっていない。そのため、予定通りに僕は栞の家に行くことに。公共交通機関は使わず、自転車で向かった。
「栞、こんにちは。ひさしぶりだね」
「ひさしぶりだね、悠介君!」
栞の家に行くと、栞が出迎えてくれた。およそ2週間ぶりに会ったので、僕は栞をぎゅっと抱きしめ、何度かキスした。
僕は栞の部屋に通され、彼女と一緒に――。
「ルゼちゃん、お誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
ルゼちゃんというのは、日常系漫画『ご注文はねこですか?』という作品に出てくる女性キャラクターのことだ。栞は凜々しくも可愛らしいルゼちゃんが大好きであり、誕生日の2月14日にこうしてお祝いするのが恒例になっている。
去年の秋クールに放送されたTVアニメ第3期のBlu-ray第1巻を観ながら、栞特製の苺のショートケーキを食べることに。
「うん、甘くて美味しいね! さすがは栞だ」
温かいブラックコーヒーによく合う。
「良かった。学年末のお休みに入ったし、去年よりも時間がたっぷりとあるから気合いを入れて作ったんだ」
「そうだったんだ。きっとルゼちゃんも喜んでいるんじゃないかな」
「そうだといいな」
えへへっ、と栞は嬉しそうに笑う。
以前は二次元の女性でも栞をここまで夢中にさせることに嫉妬したけど、今は僕もルゼちゃんを好きになって一緒に祝っている。ルゼちゃんのために栞が用意したケーキやタルトも食べられるし。
ちなみに、ルゼちゃんに向けてと、テレビの目の前に小さく切り分けたショートケーキが置かれている。何だか神棚に置く供物みたいだなぁ。
「そういえば、去年の今頃は就職活動をしていたんだよね、悠介君」
「そうだね。年度末の休みに入って、本格的に動き出そうって意気込んだ矢先にコロナだったからね」
「日本で拡がるとは予想もしなかったもんね。説明会や面接が中止になったり、オンラインになったり。お互いに春のうちに就職先が決まったのは本当に運が良かったよね」
「うん。もしかしたら、今も就活していたり、学生の間に決まらなかったりする可能性も考えたくらいだったし」
それだけ、新型コロナの感染の拡がり方が凄くて、それによる影響は大きかった。就職先が決まって、卒論も無事に終わって、お互いに健康な状態でバレンタインデーを迎えられるのは幸せなことだと思う。
それからもショートケーキをゆっくりと食べ、50分ほどのBlu-rayを見終わる直前に完食した。その間に、栞は自分のショートケーキを完食し、テレビの前に置かれたルゼちゃん用のショートケーキも完食していた。さすがは甘党。
「ケーキごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした。とても美味しかったよ、栞」
「ありがとう、悠介君。……じゃあ、そろそろ悠介君にバレンタインデーのプレゼントをあげるね。ちょっと待っててね!」
「分かった」
栞はショートケーキのお皿とフォークを持って、部屋を出て行った。
バレンタインデーのプレゼントか。きっと、チョコレートだろう。どんなチョコレートなのか楽しみだなぁ。スマホを弄りながら栞のことを待つ。
「お待たせ」
数分ほどで栞が部屋に戻ってきた。プレゼントを隠しているのか、左手は後ろの方に回している。
「お皿とかの片付けをしたら遅くなっちゃった」
「気にしないで。待つのは嫌いじゃないし」
「ありがとう。じゃあ、悠介君。ハッピーバレンタインだよ!」
そう言うと、栞は左手を前の方へ。左手で青い小さな袋を持っていた。その袋を僕は受け取った。
「開けてもいいかな。一粒食べたいんだ」
「どうぞ」
栞の許可をもらったので、僕は袋を結んである白いリボンを解く。袋を開けると、中にはハートのチョコレートがいくつも入っていた。
「ハートがいっぱいだ。普通のチョコレートだけじゃなくて、白、桃色、緑もあってカラフルだね」
「白はホワイトチョコレート、桃色はいちごチョコレート、緑色は抹茶チョコレートだよ。卒業論文の発表の日から、今日まで悠介君と直接会っていなかったから……悠真君への想いが強くなってたくさんハートを作りました」
「そうだったんだね。じゃあ、普通のチョコレートを食べようかな」
「どうぞ!」
僕は普通のチョコレートを袋から一粒取り出し、口の中に入れる。
「おっ、苦みがしっかりしていて美味しい」
僕は甘いチョコも好きだけど、カカオ多めの苦味の強いチョコも大好きだ。そんな僕の好みに合わせて栞は作ってくれたようだ。
「良かった。悠介君は苦みの強いチョコも好きだからね。色んな味のチョコがあるから楽しんでね」
「ありがとう。あとは家でゆっくりと楽しむよ」
「うん!」
そう言うと、栞は僕にキスをしてくる。唇を重ねるだけじゃなくて、舌をゆっくりと絡ませてくる。さっきまでショートケーキを食べていたからか、栞の唇や舌から優しい甘味が感じられて。
やがて、栞から唇を離す。そんな彼女の顔はうっとりとしており、僕と目が合うとニッコリと笑った。
「作っているときに味見をしたら苦かったんだけど、今は甘味も感じられたよ」
「僕も栞から甘味をたっぷり感じた。ショートケーキを食べたからかな」
「ふふっ、きっとそうだろうね。……来年以降も、バレンタインデーには悠介君にはチョコをプレゼントしていくよ」
「ありがとう。毎年楽しみがあって嬉しいな」
来年からは社会人としてバレンタインデーを迎える。来年のバレンタインデーは月曜日になるのかな。今と同じく別々に暮らしていたら、バレンタインデー当日にゆっくりとは過ごせないかもしれない。それでも、こういうことはこれからも楽しんでいきたい。
学生時代最後のバレンタインデーは、いつも通りに過ごせることを凄く幸せに感じられた日になったのであった。
特別編-The Valentine's day in 2021- おわり
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