12月31日(木)-前編-
特別編-Year End and New Year of 2020~2021-
2020年もついに大晦日となった。
毎年、年を迎える瞬間は僕か栞の家で栞と一緒にいることに決めている。2020年は栞の家で迎えたので、2021年は僕の家で迎える予定だ。
ただ、今年は新型コロナウイルスの流行もあり、互いの家族の具合が悪かったら、この計画はなしにしようと決めていた。
幸いにも、お互いの家族も健康であり、感染した人の濃厚接触者にもなっていなかった。なので、予定通り、僕の家で栞と一緒に新年を迎えることになった。
「大晦日に初詣に来るなんて人生初だよ」
「僕も初めてだよ」
午後2時頃に栞が家にやってきたので、僕は栞と一緒に近所にある神社へと2021年分の初詣に行く。
どうして大晦日の今日に行くのかというと、新型コロナウイルスの感染の可能性を少しでも押さえるためである。
栞と付き合い始めてから、毎年元日に初詣に行っているが、これから行く神社も、栞の家の近所にある神社も多くの人が参拝に来る。そのため、今年の漢字にもなった『密』な状況になってしまう。
神社のホームページを確認すると、密な状況を避けるために、2020年の間に初詣の前倒しや三が日以降の初詣も推奨していた。おみくじやお守りなども、年内のうちから買えるとのこと。そのため、2021年分の初詣は前倒しすることに決めたのだ。
「でも、いつもと違う形の初詣もいいなって思うよ。思い出深くなるし」
「そうだね。栞と一緒に来られるなら、僕はいつでもいいんだけどね」
「ふふっ」
栞は楽しそうに笑った。
栞と一緒に話していたからか、あっという間に近所の神社に到着した。大晦日でお休みの人も多いこともあって、神社の中には参拝客の姿がちらほらと見える。それでも、例年の初詣に比べるとかなり少ない。
神社の中に入り、手水舎に行く。新型コロナ対策か、例年はある柄杓が撤去されていた。
案内板によると……手をかざすとセンサーが反応し、竹を伝って水が出てくるという。その水で手と口を清めてください、とのこと。
「ハイテクになってるね、悠介君」
「そうだな。全然気づかなかった」
普段、大学に行くときも神社の前は通らないからな。
案内板の通り、僕らは竹のところに手をかざし、流れ出てくる水で両手と口を清める。冷たい水なので、これで手と口が綺麗になった感じがする。
手水舎を後にして、僕らは参拝の列に並ぶ。もちろん前の人と、横に並んでいる栞とはある程度の距離を取って。いわゆるソーシャルディスタンスというやつだ。
間隔を開けているので、それなりに長さのある列にはなっている。ただ、人数が少ないため、数分ほどで僕らの順番が回ってきた。
「はい、栞」
「ありがとう」
僕は栞に5円玉を渡した。栞と出会い、一緒にいられるこのご縁を大切にしましょうという意味で、初詣で賽銭をするときは毎年5円にしようと決めている。
僕と栞は賽銭箱に5円玉を入れ、二礼、二拍手、一礼。
来年・2021年は3月に大学を卒業し、4月に僕は総合商社、栞は保険会社に入社する予定だ。2人とも社会人生活が上手くスタートできますように。そして、コロナが終息に向かって、平和な生活が送れますようにと願った。
「悠介君は2021年について、どんなお願い事をした? 私は2人ともちゃんと卒業して、新生活が送れることと、コロナが終息するようにってお願いしたんだけど」
「僕も同じだよ」
「そうなんだ。来年は私達にとって節目の年だし、新型コロナのご時世だもんね。同じようなことを願うよね」
「そうなるよな。……来年の運試しってことで、おみくじ買うか」
「そうしよう!」
栞に手を引かれ、僕らはおみくじ売り場へと向かう。
いつもは巫女服姿をした女性に100円玉を手渡しするが、今回はトレーに100円玉を置き、たくさん置かれているおみくじを1つ取る形になっていた。
おみくじ売り場から離れて、僕らはおみくじを開ける。さて、2021年は――。
「おっ、大吉だ!」
「私も大吉だよ!」
マスクで口元は見えないけど、今の声色と、栞の目で彼女がとても嬉しがっているのが分かる。
「お互いに大吉か。2021年はいい1年になりそうだね!」
「そうだね」
お互いに健康で一緒に2021年を迎えられるのは、この大吉のおみくじの効果なんじゃないかと思えてきた。
栞という恋人が隣にいるので、まずは恋愛運を見るか。
『よし。』
……大吉なだけあって随分とシンプルだな。でも、いい意味の一言で良かった。
次は勉学についてかな。卒業論文を提出するし、発表会もあるから。ここで何かやらかしたら大学を卒業できないからな。
『よし。但し、努力を怠るな。』
おぉ、いいことが書かれている。但し書きが書かれている方が信憑性が増していいな。怠けずに論文の執筆と発表を頑張ろう。
あとは……4月から社会人になる予定なので、仕事についても見ておこう。
『よし。順調。』
ということは、順調に社会人生活をスタートできるのかな。全ては自分の行い次第だけど、おみくじに『よし』と書かれていると安心できる。
何かあったときに思い出せるように、スマホでおみくじを撮影した。
「よし、これでいいな。栞、おみくじを結んでくるよ」
「私も結ぶよ」
「じゃあ、一緒に結ぶか」
僕は栞と一緒におみくじの結び場へと向かう。
まだ大晦日ということもあってか、いつもと比べて結ばれているおみくじの数はかなり少ない。ただ、そのおかげでおみくじは結びやすかった。
「よし、結べた」
「私も。いつもは結べそうな場所を探すのも大変だけど、今年は楽だったね」
「まだ年内だしね。きっと、明日からはたくさん結ばれていくんだろうね」
「そうだね。……まだ大晦日だからか、甘酒の屋台はないんだね」
「コロナがあるから、新年になっても屋台は用意されないんだ」
「そうなんだ。……それを聞くと凄く寂しいな」
はあっ、と栞は溜息をつく。この神社でも、栞の家の神社でも、初詣に来ると屋台で甘酒を買うのが恒例だったからな。
「今回は屋台の甘酒は飲めないけど、家の近くに温かい甘酒を売っている自動販売機があるんだ。今回はその甘酒を買って、家で飲まないか?」
「そうしよっか! じゃあ、とりあえずそれぞれ甘酒を買うけど、紅白の結果次第で甘酒の代金を相手に渡そっか」
「ははっ、分かったよ」
そういえば、紅白で応援していた組が負けたら、相手に甘酒を奢るのも恒例だったな。
僕らは神社を後にして、途中の自動販売機で甘酒を買った。家に帰って甘酒を飲むととても甘く感じるのであった。
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