12月24日(木)
特別編-Merry Christmas in 2020-
12月に入り、年末年始の雰囲気が濃くなるにつれて、寒さが増していく。
今年は就職活動と卒業論文があるので、去年の段階で例年とは違うクリスマスや年末年始を過ごすとは思っていた。
しかし、2020年になってすぐ、新型コロナウイルスが流行し始め、現在も感染拡大が続いている。本当に予想外のクリスマスや年末年始になりそうだ。
僕と栞の通っている潮浜国立大学でも、新型コロナウイルスに感染する学生と講師が複数人確認された。
ただ、幸いなことに、僕らの所属するゼミの関係者に感染者はいない。昨日は今年最後のゼミの集まりがあったけど、教授もゼミに所属する学生も全員参加した。今のところ体調を崩した人はいない。
今日から僕らは学生生活最後の冬休みに突入した。
そして、今日はクリスマスイブ。
栞も僕も。そして、お互いの家族が健康であれば、栞の家でクリスマスパーティーをすることになっている。
午前中に体温を測り、僕の家族は全員平熱であり、特に体調に異常はない。
栞の方も家族全員平熱で、体調は問題ないという。感染者の濃厚接触者にもなっていないので、僕は栞の家でお泊まりをすることになった。
夕方になり、僕は栞の家に向かって出発する。今日も明日も雨が降らない予定なので、栞の家には自転車で向かう。今日は晴れて温かく、自転車に乗るのが心地いいくらいだ。
途中、コンビニでケーキを食べるときに呑む予定の、カシス味のスパークリングワインを買った。
夕食は栞特製のパーティーメニューを、彼女のご家族と一緒に楽しむ。ローストチキンやナポリタンなどとても美味しかった。
栞も僕も20歳を過ぎているので、夕食からお酒を楽しんだ。ただ、栞の部屋で2人きりのクリスマスパーティーをする予定なので、ほどほどの量にしようと心がけた。それもあって、夕食が終わっても体がポカポカする程度で収まった。
料理を食べていることもあってか、栞も普段と比べて、あまり酔いは回っていないようだった。
夕食を食べ終わった後は、栞の部屋で食休みをする。
夕食を結構食べたので、90分のアニメ映画のBlu-rayを観てから、2人きりのクリスマスパーティーをすることに決めた。
Blu-rayを観ている間は栞とずっと寄り添い、何度も笑い合った。これも互いに健康だからこそできること。それまで当たり前にできていたことが、今はとても幸せに思えた。こう言ってはいけないのかもしれないけど、新型コロナによってそれまでの「当たり前」が実はとても幸せなことだったのだと気づかせてくれる。
「面白かったね!」
「うん、面白かったな」
「このBlu-rayは何度も観ているけど、悠介君と一緒に観るのが一番いいね。……悠介君。そろそろケーキを食べようか」
「そうだな。お腹もそれなりに空いてきた」
「分かった。じゃあ、クリスマスケーキと悠介君の買ってきてくれたスパークリングワインを持ってくるね。……少々時間がかかるかもしれません」
栞がそう言うのは、きっとサンタクロースのコスプレをするからだろう。毎年、2人でクリスマスケーキを食べるとき、栞がサンタコスをするのが恒例となっている。
「分かった。楽しみなことはいくらでも待てるし、焦らないでいいからね」
「ありがとう。じゃあ、ここで待っていてね」
「ああ。……その前にお手洗いを借りるね」
「どうぞ」
2階にあるお手洗いで用を済ませ、俺は栞の部屋で一人待つことに。
これまで、数え切れないほどに栞の部屋で過ごしてきているのに、何だかドキドキする。まもなく、栞のサンタコスを堪能できるからだろうか。栞の着るサンタクロースの服のデザインが毎年違っているし。
栞へのクリスマスプレゼントを持ってきているかどうか、自分のバッグの中を見ると……よし、あるな。家を出発する前に何度も確認したのに、何か不安になっちゃうんだよな。
栞のベッドに寄りかかりながらゆっくりとする。
背後から栞の甘い匂いが香ってくる。それがとても心地いい。今年は新型コロナもあって、例年よりも栞と会う回数は少なかったからかな。
――コンコン。
扉からノックが聞こえてくる。栞が戻ってきたのかな。
「はーい」
この部屋の主ではないけど、そう返事をして、ゆっくりと扉を開ける。するとそこには、
「悠介君! メリークリスマス! 栞サンタ2020だよ!」
サンタクロースのコスプレをした栞が立っていた。今年はノースリーブのミニスカートバージョンか。デコルテ部分の露出度が高く、セクシーさも感じられる。サンタの帽子を被っているので可愛らしさもあるが、22歳の栞の色気を感じるな。
そんな栞サンタはショートケーキに俺が買ってきたスパークリングワインのボトル缶、空のワイングラスを乗せたトレーを持っていた。
「今年の栞サンタも凄く可愛いよ」
「ふふっ、ありがとう」
栞はトレーをテーブルに置くと、自分のスマホで俺と一緒にツーショット自撮りをする。栞サンタソロの写真も撮りたいので、僕は栞にお願いして栞サンタのみの写真をスマホで撮影した。
僕は2つのワイングラスに、スパークリングワインを注ぐ。
「じゃあ、乾杯するか」
「うん! じゃあ、メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
ワイングラスを栞の持つグラスに軽く当てて、カシス味のスパークリングワインを一口呑む。
「あぁ、美味しい」
今は冬だけど、温かい部屋の中で飲む冷たいものって結構美味しいんだよなぁ。
「美味しいね! やっぱり、カシス味のお酒は好きだなぁ」
「栞はカシス味のカクテルを呑むことが多いもんな。だから、コンビニでこのスパークリングワインを買ってきたんだ」
「そうだったんだ。……嬉しい。さあ、クリスマスケーキを食べよう! 今年はどういうケーキを作ろうか迷ったけど、王道の苺が乗ったショートケーキにしました!」
「美味しそうだ。じゃあ、いただきます」
フォークでショートケーキを一口サイズに切り分け、苺と一緒に口の中に入れた。そんな僕のことを、栞はすぐ近くでじっと見つめている。
「う~ん!」
スポンジとクリームの優しい甘さと苺の酸味がよく合っている。
「凄く美味しいよ、栞」
「良かった!」
嬉しそうにそう言うと、栞は自分のショートケーキを一口食べる。笑顔でモグモグと食べている姿が子供っぽくて可愛らしい。
「栞。そろそろクリスマスプレゼントを渡さないか?」
「いいね! プレゼントタイムにしよう!」
「うん」
僕はバッグから栞のクリスマスプレゼントが入った白い紙袋を取り出す。栞と向かい合う形で正座する。
「じゃあ、まずは私からプレゼントするね。メリークリスマス」
「ありがとう」
栞から細長く、あまり厚みのない黒い箱を受け取る。その箱には青いリボンが蝶々結びで結ばれていて。どんなプレゼントなんだろう。
リボンを丁寧に解いて箱の蓋を開けると、中にはネクタイが入っていた。黒い生地に青と白の斜めストライプ模様だ。
「おっ、ネクタイだ。かっこいいなぁ」
「来年の春には社会人だから、ビジネスシーンで使えるものがいいと思って」
「そこまで考えてくれているんだね。ありがとう。これから大切に使っていくよ」
普段の仕事はもちろんだけど、入社式などの大事な場面でもこのネクタイを使うことにしよう。
「僕も同じような考えでクリスマスプレゼントを買ったよ。メリークリスマス」
「ありがとう」
僕は栞にクリスマスプレゼントの入った紙袋を手渡す。
栞はワクワクした様子で紙袋の中から、白い箱を取り出した。赤と緑の2色のリボンを解き、ゆっくりと箱を開ける。気に入ってくれると嬉しいな。
「うわあ……! ネックレス!」
そんな可愛らしい声を出すと、栞の顔にぱあっ、と明るい笑みが浮かぶ。
そう、僕から栞へのクリスマスプレゼントはシルバーのネックレス。
「栞も就職が決まって、来年の春から社会人だろう? そういうシンプルなデザインだったら、プライベートはもちろん仕事のときにもいいかなと思ってさ」
「そういうことだったんだね。ありがとう! とっても嬉しいよ! さっそくつけてみてもいい?」
「もちろん」
俺がそう言うと、栞はプレゼントしたネックレスを手にとって身につけていく。そのときに見える腋が何とも艶やかだった。
「どうかな? 悠介君……」
「おおっ……」
ネックレスをつけた栞はさっき以上に大人っぽく見える。
「とても似合っているよ、栞」
「ありがとう。……写真撮ってもいいよ」
「遠慮なく」
僕はネックレスをつけた栞サンタをスマホで撮影する。そして、彼女とのツーショット自撮り写真も。……今年のクリスマスのいい思い出になるな。帰ったら、プリントアウトしてアルバムに貼っておくか。
「悠介君。素敵なクリスマスプレゼントをありがとう」
「いえいえ。こちらこそどうもありがとう」
「……お礼にキスしてもいい?」
「もちろんさ。……メリークリスマス、栞」
「メリークリスマスだよ、悠介君」
栞は僕のことをぎゅっと抱きしめて、僕にキスをしてきた。
栞の唇からは苺の甘酸っぱい匂いがほんのりと香ってきて。キスが気持ちよくて、僕は両手を彼女の背中に回した。
その後は栞特製のクリスマスケーキと、僕の買ってきたスパークリングワインを楽しんだ。
お風呂に入って、栞のベッドで寝るまで……僕はずっと栞の側にいて、クリスマスイブの甘い夜の時間を過ごした。
来年以降はお互いに社会人としてのクリスマスとなる。そしていつかは、恋人ではなく夫婦としてクリスマスを過ごせれば何よりである。
特別編-Merry Christmas in 2020- おわり
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