9月1日(火)

特別編-End of Summer in 2020-




 2020年夏。

 それは栞と僕にとって学生最後の夏でもあった。

 春の間に就職活動が終わったため、この3ヶ月は卒業論文関連に集中することができた。卒論のテーマも決められたので順調に進んでいる。栞も同様。

 大学でもプライベートでも、栞と会うときは新型コロナウイルスの感染を防止するための対策を取るように心がけている。それもあって、栞も僕も体調を崩したり、新型コロナに感染したりすることはない。

 個人的なことについては理想通りに進んでいるが、世間的には当初予定していた2020年夏とは違う日々となった。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、東京オリンピックとパラリンピック、夏の甲子園、ロックフェスなどジャンルを問わず大規模イベントが軒並み中止。オリンピックとパラリンピック中心に盛り上がる夏になると思ったが、例年よりもかなり静かな夏の日々となった。

 また、夏の間にも感染が拡大したため、秋や冬に予定されているイベントの多くも中止や延期になったり、ネット配信での実施になったりと、当初の予定からの変更を余儀なくされている。

 去年の今頃は、まさか未知のウイルスによって、世界中がここまで混乱する事態になるとは思わなかったな。




『悠介君。かんぱーい』

「かんぱーい」


 今日もパソコンの画面を通して、栞と一緒にリモートで呑んでいる。僕はハイサワー、栞はカシスオレンジのカクテルを呑む。

 以前はどちらかの家で泊まるときを中心に呑んでいたけど、新型コロナが感染拡大した頃から、こうしてリモートで呑むことも日常の一つになった。僕達にとっての『新しい日常』とか『ウィズコロナ』の一つと言えるだろう。


『あぁ、カシスオレンジ美味しい!』

「ハイサワーも美味しいよ」

『じゃあ、一口交換……はできないんだよね』

「リモートだからね」


 対面で呑むときは一口交換することもある。ただ、新型コロナの感染拡大を防止するためには、それもやらない方がいいのだろう。しかし、対面で呑めることが嬉しく、ついやってしまうことがある。


『今日から9月なんだよね。早く暑さが収まってほしいよね』

「そうだねぇ」


 今年の夏は7月末までずっと梅雨で、涼しい日が多かった。しかし、梅雨が明けてからずっと暑い日が続いた。


「夏休みが終わるまでには、ある程度涼しくなってほしいよな」

『そうだね』

「毎年この時期に思うけれど、これから3ヶ月の間にかなり涼しくなるなんて信じられないよね」

『分かる。でも、毎年ちゃーんと涼しい気候になって、秋が終わる頃はかなり寒くなるんだよね。あと、いつもならハロウィンや学園祭があるし、クリスマスや年末年始にも近づいて、楽しい気持ちになっていくけど、今年は卒論があるんだよね』

「そうだね。……まずは夏休みの終盤にある中間発表に向けて準備しないとな」


 うちの学部では、夏休みの終わり頃に複数のゼミが集まり、卒論について中間発表をする決まりとなっている。

 うちのゼミにいる大学院生の先輩によると、発表では他のゼミの教授や学生からの質問や突っ込みを受けるのがお決まり。そして、それが中間発表で乗り越えなければならない壁らしい。しかも、一緒に中間発表をするゼミの一つの教授は厳しいことで有名。いかに質問を想定し、答えを用意するかが鍵なのだそうだ。


『中間発表が無事に終わって、感染拡大が落ち着いてきたら、2人でゆっくりとどこかに行きたいね』

「うん。そうできるように頑張ろう」


 この調子なら、卒論の中間発表は大丈夫だろう。ただ、新型コロナの感染状況はどうなることか。これから涼しくなり、流行り始めるウイルスはあるので。落ち着いてくれれば幸いである。

 学生最後の秋はどうなることやら。平穏な秋になればいいなと思う。




特別編-End of Summer in 2020- おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る