1月1日(水・祝)-後編-
新年最初に目覚めると、そこには僕を優しく見つめている栞の姿があった。付き合い始めてから5年以上経つけど、目を覚ますと栞がいるのって凄いことなんじゃないかと思えた。2020年は幸せな1年になりそうな気がした。
栞の御両親と一緒におせち料理とお雑煮を食べる。20歳を越えて、バイトをしているのも関わらず、栞の御両親からお年玉をいただいた。大切に使おう。
食休みをした後、僕は栞と一緒に近所にある神社に初詣へ行くことに。そのときは、今までと同じように、栞からプレゼントされたニットキャップを被って。
栞も以前に僕がプレゼントしたマフラーを巻いてくれていたことが嬉しかった。
晴れていることもあってか、神社に到着すると性別や世代を問わず初詣の参拝客が多くいた。元号が令和に変わった直後に、元号初詣としてここに参拝したけれど、あのときと比べても断然多い。
「さすがに正月の初詣だと人が多いな」
「そうだね。5月に元号初詣したときとは全然違うね」
「僕も同じことを思ったよ。今更だけど、元号のときまで初詣するのは少数派なのかな」
「ふふっ、そうかもね。でも、たくさんお参りした方が、いいことがたくさんある気がするよ」
「……確かに」
礼儀正しくして、お賽銭ちゃんとしていれば、たくさん参拝するに越したことはないか。今日もちゃんと参拝しよう。
僕と栞は参拝者の列の最後尾に並ぶ。
「今年も晴れていて良かったよね」
「ああ。風もあまりないし、これなら並んでいられそうだ」
温かいのは陽差しだけじゃなくて、しっかりと僕の手を繋いでくれる栞の手もだけど。これなら、いくらでも待っていられると思う。
参拝の長い列に並んでからおよそ20分。あっという間に僕と栞の番になった。
「はい、栞」
「ありがとう」
僕は栞に5円玉を渡した。栞と出会い、一緒にいられるこのご縁を大切にしましょうという意味で、初詣で賽銭をするときは毎年5円にしようと決めている。
僕と栞は賽銭箱に5円を入れて、二礼、二拍手、一礼。
最後の礼のとき、去年と変わらずに栞と一緒にいることができますようにとお願いした。今年は就活や卒論が待っているので、それぞれ未来への道を見つけて、学生生活を無事に終えられることもお願いした。
「ねえ、悠介君。どんなことをお願いした? 私は就活や卒論があるけれど、悠介君と一緒にいられるようにってお願いしたんだけど」
「僕も同じようなお願いをしたよ。就活と卒論は大切だから、僕らの就活と卒論が無事に終えられるようにって」
僕がそう言うと、栞は嬉しそうな笑みを浮かべて、僕の手をぎゅっと握ってきた。
2020年の年末に、今年も一緒に過ごせて良かったねと笑って言い合えるよう頑張りたい。今年は就活と卒論があるから、例年以上に頑張らないといけなさそうだけど。
「ねえ、悠介君。今年もおみくじをやっていこうよ」
「2020年最初の運試しをするか」
今年はどんな結果になるだろう。去年は確か小吉だったかな。できれば、去年よりもいい運勢であってほしい。
栞に巫女服を着させたら絶対に可愛いだろうなと思いながら、僕はおみくじを引く。
「やった! 去年と同じ大吉! 悠介君はどうだった?」
「僕も大吉だよ」
今年は特に重要な一年になるだろうから、大吉を引くことができたというのは嬉しい。そして、ほっとする。
それぞれの項目も見てみるか。栞という恋人がいるから恋愛運から見てみよう。
『よし。』
と書かれていた。きっと、大吉だからこんなシンプルに書かれているんだろうけど、逆に怖いな。栞の気持ちも考えて今年も付き合っていこう。
あと、恋愛の他に気になるのは……学生だから学問かな。学生最後の運勢は。
『努力が結びつくでしょう』
と書かれていた。きっと、今学期の試験も、4年生の卒論もしっかりと取り組めばいい結果になるのだろう。大吉だからと油断せずにちゃんと学業も頑張ろう。
おみくじの結果をスマートフォンで撮影する。就活や卒論など今年は例年よりも悩んだりする場面が多くなるだろうから、そういうときはこのおみくじを見ることにしよう。
僕らはおみくじをしっかりと結んで、2020年の初詣は終わった。
「2020年の初詣もこれで終わりだね」
「終わっちゃったね。じゃあ、今年も甘酒を飲まない? 私、初詣に飲む甘酒を楽しみにしているの。甘いものが好きだけど、甘酒はこういうときにしか飲まないから」
「僕も甘酒はこのときにしか飲まないな。だから、実は今回も初詣では栞と一緒に甘酒を飲もうと思っていたんだ」
「ふふっ、そっか。前は甘すぎて半分以上あげていたけど、今年はちゃんと飲めるかな?」
「去年は全部飲めたけど、あれは僕の家の近くの神社だったからね。一昨年はここの甘酒だったんだけど、甘すぎて二口くらいでギブアップしたんだよなぁ。あれから2年経ったけれど、全部飲めるかなぁ」
「この2年の間で20代になったし、時代も令和になったし、きっと飲むことができるよ!」
栞は意気込んだ様子でそう言ってくれるけど、それらはあまり関係ないんじゃないかと思う。
ただ、20歳になってからお酒を呑むようになった。そのお酒は甘めのカクテルやサワーが多い。2年前よりも甘いのが好きになっているから、当時に比べれば甘酒を飲むことができそうな気がする。
「じゃあ、栞。去年と同じく、紅白で白組が勝ったから甘酒を奢ってもらおうかな?」
「分かった!」
甘酒の屋台へと行き、栞に甘酒を奢ってもらう。昨日、紅白を観ているときから、白組が勝ったら甘酒を奢ってもらおうと決めていた。
甘酒を買った僕らは、近くにあるベンチに座って飲むことに。
さて、2年ぶりだけど、どうかな。僕はさっそく甘酒を一口飲む。
「……うん。毎年思うけど、甘酒という名前通り甘いな」
「本当に毎年恒例の感想だよね。もはや、その言葉を含めて初詣って感じがしてきた」
確かに、思い返してみれば、甘酒を飲んだときって今のような感想を言っていた気がする。だって甘いんだもん。
「ただ、一昨年と比べて今年はまだいける気がする。栞と一緒にサワーやカクテルを呑むことが多いからかな」
「何だか嬉しくなってくるよ。もし飲みきれなかったら、私が飲んであげるからね」
そう言って、栞は自分の甘酒をゴクゴクと飲んでいる。まだまだ熱いのに。さすがは栞と言うべきか。
僕は少しずつ甘酒を飲んでいく。温かいので、飲んでも口の中に甘さがかなり残る。体がポカポカしてきた。
「あぁ、美味しかった!」
「早いね。僕はまだ半分くらい残ってるよ。結構熱かったでしょ。僕のもまだ湯気がしっかり立っているし」
「熱かったねぇ。でも、とても甘かったから、私には飲みやすかったな」
「そうなんだ。さすがです」
僕は栞の頭を撫でた。年々、栞の甘党ぶりに拍車がかかってきている気がする。
栞に見守られながら、僕は甘酒を飲んでいく。冷めてきたので、最初に比べると飲みやすくなってきたぞ。
「悠介君、頑張って。ただ、無理はしないでね」
その一言を加えるところが栞らしい。
そんな栞の応援もあってか、ゆっくりだけれど甘酒を飲み続けていき、
「……よし、飲みきった!」
「やったね!」
栞は僕に拍手を送ってくれる。2年前は少ししか飲めずにギブアップしたので、物凄い達成感だ。
甘酒も飲み終わったので、僕らは栞の家に向かって歩き始める。
「悠介君。今年は学生生活最後の1年になるけれど、できるだけ一緒にいたいと思ってる」
「僕も同じことを思っているよ。ただ、就活や卒論が大変で、去年までに比べると一緒にいられる時間が減るかもしれない。だからこそ、栞との時間をより大切にしたい。今年は東京オリンピックとパラリンピックがあるし、そういったことは栞と一緒にたっぷりと楽しみたいな」
「……私も」
すると、栞はその場で立ち止まり、僕の方を向いてくる。僕と目が合うとゆっくりと目を瞑った。キスしてってことか。
ここは道端だし、近くには人がいるので、僕は栞に短めのキスをした。それでも、栞は満足そうな笑みを浮かべていた。
「今年もよろしくお願いします、悠介君」
「こちらこそ、今年もよろしくお願いします、栞」
2020年は学生生活最後の1年。僕らにとって節目の1年になることは間違いない。良かったと思える1年になるように頑張っていこう。
特別編-Year End and New Year of 2019~2020- おわり
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