特別編 in 2020
2月14日(金)
特別編-The Valentine's day in 2020-
今シーズンも暖冬と言われていた。
前シーズンの冬も暖冬と言われ、それは嘘っぱちのように思えたけど、今シーズンは予想通りに暖かい日が多くなっている。
なので、今シーズンは平和に冬が過ぎていくかと思ったら、年が明けて新型コロナウイルスが中国で爆発的に流行している。今月に入ってからは、クルーズ船など、日本でも多くの感染者が確認されている。最近は就活関連で色々な場所に行くので、例年以上に感染症対策をしっかりしなければいけないな。
一昨年や去年のように、年が明けてから、僕と栞は秋学期の期末試験や最終課題があったけれど、どの科目もしっかりとできたと思う。多分、単位を落とすこともないだろう。今期受講している科目の単位が全て取れたら、あとは卒業論文関連の単位だけで大学を卒業できる予定だ。
今年も2月の初旬から、およそ2ヶ月間の年度末休みに突入した。
去年までと同じようにバイトやサークルもあるけれど、今年は就活関連で大型のイベントや企業説明会に行く日が多い。それは栞も同じ。だから、休みに入ってからの方が、栞と一緒にいる時間が減ってしまった。これは覚悟していたことだけれど、実際にそうなると寂しい。
ただ、今日は必ず栞と一緒にゆっくり過ごすと決めていた。バレンタインデーだからだ。
昼過ぎに栞の家へと向かう。明日もお互いに就活関連の予定はなく、僕のバイトも午後に入っているので、今日は栞の家にこのまま泊まる予定だ。
「ルゼちゃん、お誕生日おめでとう!」
「おめでとー」
僕は栞と一緒にチーズタルトを食べ始める。
今日はバレンタインデーだけではなく、『ご注文はねこですか?』という日常系アニメ作品に登場するヒロインの1人・ルゼちゃんの誕生日でもある。かっこいいけれど可愛らしい一面もあるルゼちゃんが栞は大好きであり、彼女の誕生日を毎年祝っている。
栞がここまでルゼちゃんを好きだと知った当初は、二次元の女性キャラクター相手に嫉妬したけれど、数年も経つと素直に誕生日を祝えるようになった。
「あぁ、ルゼちゃん可愛いなぁ」
去年の秋に発売されたOVAを観ながらチーズタルトを食べているけれど、ルゼちゃんの登場シーンになった途端、栞はうっとりとした表情に。……やっぱり、ルゼちゃんにちょっと嫉妬してしまうな。
「ところで、悠介君。就活の方はどう?」
「解禁は3月だけど、商社や金融関連会社のイベントや企業説明会には行ってるよ。本当に色々な会社があるなって思うよ。栞の方はどうかな?」
「私も同じ感じ。保険業界のイベントに行ったよ。会社はたくさんあるけれど、これから就活中にたくさんお祈りされるのかなって思うと今から不安。遥香先輩や絢先輩のように就職先決まるかな」
栞の言う遥香先輩と絢先輩というのは、大学の茶道サークルでの先輩で、僕達よりも1学年上だ。栞にとっては高校からの先輩。先輩方は順調に就職先が決定した。
「栞なら大丈夫だと思うけどな。友人やサークルメンバーはもちろんのこと、先生方とのコミュニケーションもしっかり取れているし。あと、笑顔がとても素敵」
「突然。素敵だって言われると、嬉しいけれど照れちゃうよ。コミュニケーションがしっかりしていて、笑顔が素敵なのは悠介君の方だよ」
僕のことを見つめながら言ってくれる栞。そんな彼女にキュンとする。
「……さっきの栞の言うことが分かったよ。嬉しいけれど、照れるね」
「でしょう? あと、私達もこういう話をする歳になったんだね。出会って恋人になった頃には、就活のことなんて考えもしなかったよね」
「高校1年の春だからな。就活はおろか、大学受験についても全然考えてなかったよ。高校生活が始まって、栞っていう素敵な人と恋人同士になれて幸せだってずっと思ってた」
「ふふっ、私も同じだったな。あとは、部活で茶道の作法を覚えるのを頑張ろうって」
「高校時代は茶道部だったもんね、栞は」
僕は大学の茶道サークルに入ってから茶道を始めたので、栞やサークルの先輩方に作法を教えてもらったな。
栞と出会って、恋人になってからおよそ6年か。小学校に入学した子がまもなく卒業すると思うと、長い間、栞と付き合ってきたんだなと思う。
「じゃあ、出会った頃よりもだいぶ大人になった悠介君に、とっておきのプレゼントをあげるね。ちょっと待っててね」
栞はそう言うと僕の頬にキスをして、部屋を後にした。
とっておきのプレゼントと言っていたけれど、今日はバレンタインデーだし、きっとチョコレートだろう。そう思いながら、僕はホットコーヒーを一口飲んだ。
それから2分ほどで、
「悠介君! ハッピーバレンタインだよ!」
部屋に戻ってくるや否や、栞はとびきりの笑顔でそう言ってくる。この笑顔を面接試験で見せたら、受験した会社は全て合格するんじゃないだろうか。これでお祈りする会社が出たら、僕が両手を合わせてその会社をお祈りしてやろうじゃないか。
「はい、プレゼントだよ」
栞から水色の袋を受け取る。
「ありがとう、栞。さっそく開けてもいいかな?」
「もちろんいいよ」
僕は青いリボンを解いて、水色の袋を開ける。その瞬間にチョコレートの甘い匂いがふんわりと香ってきた。袋の中を見てみると、ハートのチョコレートはもちろんのこと、星や花の形をしたチョコレートも入っている。
「色々な形のチョコレートが入ってるね」
「ハートだけだと面白くないと思って、星や花の形をしたチョコレートも作ったの」
「そうなんだね。バラエティ豊かでいいと思う。さっそく食べていいかな?」
「もちろん! どうぞ!」
「よし、じゃあ……ハートの形のチョコレートをいただきます」
袋からハート型のチョコレートを一つ取り出し、口の中に入れた。
ゆっくり噛んでいくと、カカオの苦味とほんのりとした甘味が口の中に広がっていく。
「うん、美味しい! 苦味が強くて僕好みだよ」
「悠介君は苦味の強いチョコレートが好きだから、カカオ多めで作ってみました」
「その話を聞いたらより美味しく感じられるよ」
「……嬉しい」
栞はそう呟くと僕にキスをしてくる。舌も絡ませてくるのでチョコレートの味が甘く変わった気がした。何だか、これで来月解禁される就職活動を頑張れそうな気がしてきた。あと、来月のホワイトデー、しっかりとお返ししないと。
令和最初のバレンタインデーも、栞のおかげでとても素敵な日になった。
いよいよ、来年は学生最後のバレンタインデーになるのか。卒論発表も終わり、就活も終わり、あとは卒業を待つだけの状態でバレンタインデーを迎えられれば何よりである。
特別編-The Valentine's day in 2020- おわり
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