12月1日(日)

特別編-End of Autumn in 2019-




 2019年の秋、令和最初の秋は、台風などの悲しくて辛い災害もあれば、ラグビーワールドカップなど楽しい大会もあり、色々な意味で盛りだくさんな季節だった。

 個人的にはインターンシップを終え、9月の間は栞と一緒に再びサークル活動やバイトに勤しんだ。

 10月になってからは再び大学生活が始まり、栞と一緒に過ごす時間が再び増えていった。ただ、去年までとは違って就活関連のセミナーや、企業説明会に参加するようになり、その際は栞と別行動となることもあった。それもあってか、栞と一緒にいる時間がとても幸せに思える季節にもなった。




「あぁ、温かくて気持ちいい」

「そうだね、栞」


 僕は栞と一緒に銭湯に来ており、カップルおすすめの貸切温泉に入っている。

 去年の今ぐらいの時期、箱根へ温泉に入りに行ったことがあり、そのときはとても気持ちのいい時間を過ごした。だからか、11月の半ばくらいの時期から、今年もまた2人きりで温泉に入りたいと栞が言ってきたのだ。

 そこで、俺がスマホで調べてみると、僕らの住んでいる地域から電車で30分ほどのところに立派な温泉施設があるのが分かった。貸切温泉の予約状況を確認したら、今日が空いていたので予約したのだ。


「11月くらいから寒い日も増えてきたし、温泉がとても気持ち良く感じられるよ。お湯も温かいし、脚も自由に伸ばせるし。予約してくれてありがとう、悠介君」

「どういたしまして。俺も去年入った温泉がいいなって思っていたからさ。だから、今年も栞と一緒に温泉に入ることができて嬉しいよ」

「悠介君……」


 栞は僕のことを覗き込むようにして見ると、その流れでキスをしてきた。あぁ、貸切温泉を予約して良かったな。

 栞の方から唇を離すと、彼女は上品に笑う。


「体だけじゃなくて心までポカポカするね」

「ははっ、僕もだよ」


 ただ、身も心も温かくなりすぎて、のぼせてしまわないように気を付けないと。


「温泉がこんなに気持ちいいなんて、小さい頃は全然思わなかったな。僕が家族で行った温泉、結構熱いところもあったし」

「分かるなぁ。私も熱いのはただただ辛かった。でも、お母さんが『10秒だけでいいから、肩まで浸かりなさい』って言うから、我慢して入ってた」


 そういったときの栞の様子、ちょっと見てみたかった。


「この温泉も結構熱めのお湯だけど、気持ちいいって思えるのはそれだけ私も大人になった証拠なのかな」

「そうだろうね。ただ、栞と一緒に入っていなかったら、こんなにも気持ち良くはなかっただろうな」

「……もう」


 ふふっ、と栞は声に出して笑うと、俺と向かい合うような姿勢になり、俺の体をぎゅっと抱きしめてきた。


「私だって同じだよ、悠介君。1人で入っていたら、ただ温かいだけで気持ち良くは感じられなかったと思う」

「……そっか。栞と同じ気持ちで嬉しいよ。あと、こうして栞のことを抱きしめると物凄く気持ちいいよ」

「……私も」


 そう言って、にっこりとした笑みを見せてくる栞がとても可愛い。俺はそんな彼女の背中に両手を回す。本当に女性らしい柔らかさを感じる。


「これからはよりお風呂や温泉が気持ちいい季節になるから、何回かは悠介君と一緒にお風呂に入りたいな。毎年恒例だけど、クリスマスや年末年始のときは絶対に」

「そうだね。約束しよう」

「うん!」


 そう言って、栞はゆっくりと目を瞑る。今度は俺からしてほしいということだろうか。そんな彼女の唇に吸い込まれるようにしてキスをした。

 クリスマスや年末年始といったイベントがあるから、個人的には冬は好きな季節だ。あとはバレンタインデーもあるし。

 ゼミや就職活動関連のことで、令和最初の冬は去年までと比べて忙しくなりそうだ。栞の力にもなることができればいいなと思う。

 あと、こうして栞と一緒にのんびりできるときは、とことんリラックスしたい。そんなことを考えながら栞のことを今一度強く抱きしめ、彼女と温泉の温もりを堪能するのであった。




特別編-End of Autumn in 2019- おわり

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