10月31日(木)-後編-

 ハロウィンパーティーが終わって、栞と僕は私服に着替え、坂井先輩と原田先輩と大学を後にする。先輩方にとって学生の間に過ごすハロウィンは今年が最後なので、4人で大学の最寄り駅の近くにあるファミレスで夕食を食べた。

 明日は午後にしか講義がないので、今夜は栞の家で泊まることになっている。なので、栞の家の最寄り駅である上津田駅で先輩方とは別れることに。


「今年もハロウィンの夜を一緒に過ごせるなんて嬉しいな」

「そうだね」


 そういえば、大学に入学してからハロウィンの夜は毎年どちらかの家で一緒に過ごしているな。ここまで来たら、来年のハロウィンもそのような形にしたい。


「まさか、今年はコーヒーメーカーを当てることができるなんて。私もたまにコーヒーを飲むし、コーヒー好きのお父さんとお母さんが喜びそう」

「思いがけないプレゼントになったね」


 きっと、栞のその気持ちが、御両親は一番喜びそうな気がする。


「僕は今年もハズレで賞だったな。来年こそは4等でもいいから当てたいな」

「ふふっ、そうなるといいね」


 1年後、ハロウィンパーティーのくじ引き大会で有終の美を飾ることができるように祈ろう。そのときも栞は何かしらの商品をゲットしそうな気がする。

 途中のコンビニでスイートポテトとアイスティーのサワーを買って、栞の家にお邪魔をする。

 家に入ると、栞はパーティーのくじ引き大会でゲットしたコーヒーメーカーを御両親に見せ、家族と僕で一緒に使おうと言った。そのことに父親の大介さんは感涙し、母親の恵美さんはそのことにクスクスと笑っていた。

 入浴後にいただく予定なので、スイートポテトとサワーを冷蔵庫に入れ、僕らは2階にある栞の部屋に入った。


「お父さん、凄く喜んでいたね」

「そうだったね。あまりに泣いているから、僕までもらい泣きしそうになったよ」

「もう、悠介君ったら。……ねえ、悠介君。今夜は一緒にお風呂に入らない? 寒くなってきたし、1人よりも2人で入った方がより気持ちいいと思うから」


 そう言うと、栞は俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。

 今日は先輩方が天羽女子高校の制服を着たから、出会ってから高校を卒業するまでの栞のことを何度も思い出した。高校時代に比べると結構大人っぽくなったけれど、抱きしめると温かいことや、甘くていい匂いがすることは当時から変わらないな。

 僕は左手を栞の背中に回して、右手で彼女の頭を優しく撫でた。


「もちろんだよ、栞。一緒にお風呂に入ろうか」

「うん! ありがとう!」


 栞は笑顔でキスをしてくる。抱きしめ合ったことでドキドキしている中でキスをされると、浴室よりもベッドの方に行きたくなってしまう。

 ただ、そんな衝動を何とか抑えて、僕は栞と一緒にお風呂に入る。

 最近は朝晩中心にかなり冷え込むようになったので、お湯の温もりがとても心地いい。湯船の中で栞にぎゅっと抱きしめられたことで、更に心地よく感じられた。令和初のハロウィンはとても幸せなものになったと早くも思う。

 お風呂から出た後、帰る途中で買ったスイートポテトとアイスティーサワーを持って彼女の部屋に戻る。


「お風呂気持ち良かったね」

「うん。温かくてとても気持ち良かった。秋も深まってきたけれど、きっと、冷たいサワーが美味しく感じられるんだろうな」

「ふふっ、そういうことを言うなんて悠介君も大人になったよね」

「僕も21歳になったからね。栞だって大人になったと思うよ。今日のメイド服姿や、お風呂に入ったときの姿を見てそう思った」

「……て、照れちゃうな」


 えへへっ、と頬を赤くしながら栞は文字通りの照れ笑い。凄く可愛いのでテーブルに置いてある自分のスマートフォンで撮影した。


「もう、悠介君ったら。恥ずかしいよ」

「あまりにも可愛かったもので。写真に残しておきたくて」

「……そう言われちゃったら、消してなんて言えない」


 そう言う栞から笑みが消えることはなかった。

 スイートポテトとアイスティーサワーをテーブルの上に置いて、僕らはクッションに腰を下ろす。


「悠介君。今年はまだ言っていなかったから。乾杯は『トリックオアトリート』って言おうよ」

「おっ、ハロウィンらしくていいね。じゃあ、トリックオアトリート」

「トリックオアトリート」


 缶を軽く当てて、僕らはアイスティーサワーをゴクゴクと呑んでいく。


「あぁ、美味い!」

「レモンの味が爽やかで美味しいね! 今の季節でも、お風呂を出た直後だと冷たいものが美味しく感じられますわ~」

「ははっ。20歳を越えたからこそ味わえる感覚なんだろうな」

「えへへっ、そうだね。悠介君と一緒に成人になることができて良かったぁ」


 さっそく酔っ払っているのか、栞はとても柔らかい笑みを浮かべながら、僕の胸に頭をすりすりしてくる。本当に可愛らしいな、僕の恋人。


「さあ、スイートポテトも食べようか」

「うん!」


 さて、スイートポテトの方はどうかな。コンビニによって結構違ってくるけれど。


「うん! ホクホクしてて美味しいね!」

「そうだね。さつまいもの甘味を活かしているね。優しい甘さで僕好みだ」

「美味しいよね。サワーにも合いますわ」


 栞は再びアイスティーサワーをゴクゴクと呑むと、とても満足そうな表情を浮かべる。今はカクテルやサワー中心に呑んでいるけれど、栞って結構お酒好きだよな。お酒をたくさん呑んだり、お菓子をたくさん食べたりする生活になると、来年のハロウィンで天羽女子の制服を着ることに黄色信号が灯りそうだ。

 たまにスイートポテトを食べさせ合いながら、今年のハロウィンのスイーツタイムを楽しんだ。


「あぁ、美味しかった!」

「スイートポテトもサワーも美味しかったね」

「うん! くじ引きで当てることができたり、悠介君と一緒にお風呂に入ったり、スイーツを楽しむことができたりして幸せだよ。この後は悠介君と一緒に寝ることができるんだもん」

「そうだね。明日の講義は午後からだし、ゆっくりと寝ることができるね」

「うん! ゆっくりと寝れるなら、ベッドの中で悠介君に色々ないたずらしてほしい気持ちもあるけれど。……あっ、言っちゃった」


 栞は楽しげな笑みを浮かべて、俺のことをぎゅーっと抱きしめてくる。アイスティーサワーを一缶呑んで完全に酔っ払っているな。これまで以上に体が熱くなっていて、入浴後であり、スイートポテトやサワーを食べたからか、とても甘い匂いがしてくる。


「悠介君。……だめ?」

「……もちろんいいよ」


 その後、僕らは栞のベッドに入り、ハロウィンが終わる間近までベッドの中で楽しい時間を過ごした。

 この時期になると、栞の温もりがより心地良くなると思う。来年は大学生最後のハロウィンであり、卒論などで大変な時期かもしれないけれど、栞と一緒に楽しく温かい時間を過ごすことができれば何よりである。




特別編-Halloween in 2019- おわり

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