特別編 in 2019

1月14日(月・祝)-前編-

特別編-Coming of age day in 2019-




 今日は成人の日。

 いつもなら、年明けの授業が始まってすぐにある有り難い祝日だけれど、今年だけは違う。今年は20歳になる年度の成人の日なので、今日開催される成人式に参加するのだ。

 成人式は現在住んでいる自治体や、出身の自治体が開催する式に参加するのが普通のようだ。よって、畑町市に住んでいる僕と、潮浜市に住んでいる栞は別々の成人式に参加することに。最寄り駅は隣同士なのに、市も違えば都道府県まで違う。ちなみに、僕が東京都で、栞が神奈川県。そう考えると電車で3分程度なのに、かなりの距離があるように思えてしまうな。

 今日はお互いに成人式は午前中に行なわれる。なので、成人式が終わったら栞の家の最寄り駅である上津田駅で待ち合わせをして、栞の家で彼女の御両親と一緒に成人のお祝いをすることになった。

 また、今日の成人式は同じ高校に通っていた亜実と一緒に参加する予定だ。彼女は僕と同じ畑町市に住んでいるので同じ成人式なのだ。年が明けてすぐに亜実に誘われたので、栞から許可を得た。その際、


「篠宮さんは同じ成人式に参加できて羨ましいなぁ」


 と言っていた。僕も栞と同じ成人式に参加してみたかったな。また、栞は成人式の前に着物姿の写真を送ってくれるそうだ。


「いい天気だ」


 今日は目を覚ましてからずっと快晴だ。天気予報でも多少は雲が出るくらいで、大きく崩れることはないとのこと。絶好の成人式日和と言えるだろう。土曜日に雪が降ったときにはどうなるかと思ったけれど。

 亜実との待ち合わせもあるので、そろそろスーツへと着替えようとしたときだった。

 ――プルルッ。

 スマートフォンを確認してみると、栞から電話がかかってきた。また、栞から着物姿の彼女の写真が送られてきていた。赤い着物姿の栞がとても可愛らしい。その写真を見てすぐに通話に出る。


「栞、おはよう」

『おはよう、悠介君。今、ちょっとお話ししても大丈夫かな?』

「うん、ちょっとだけなら大丈夫だよ」

『良かった。ついさっき、着物の着付けが終わってね。お母さんにスマートフォンで撮ってもらった写真、見てくれたかな? 写真を送ってすぐに電話かけちゃったけれど』

「見たよ。凄く綺麗で可愛いね」


 成人式が終わってから栞と会うのがより一層楽しみになった。早く成人式が終わってくれないかなと今から思ってしまうほどだ。


『ありがとう。これから両親や中学のときのお友達と一緒に成人式に行くの。会場はちょっと遠いんだけれどね』

「そうなんだ。気を付けて参加してきてね。僕の方は歩いて行けるところにあるから、これからスーツに着替えて亜実と待ち合わせして会場に行くんだ。きっと、僕も中学までの友達と会うんだろうな」

『ふふっ、そうだろうね。篠宮さん、連絡先は交換しているけれど、悠介君からもよろしく伝えてくれると嬉しいな』

「ああ、分かった。じゃあ、成人式が終わったらまずは一言メッセージを送ることにしようか。多分、僕の方が先に上津田駅に行くと思うけど」

『うん、分かった! 久しぶりのスーツ姿の悠介君、楽しみにしてるね。またあとで』

「ああ、またあとで」


 僕の方から通話を切った。まずはそれぞれ成人式を楽しむことにするか。

 今一度、着物姿の栞が写った写真を見ると……やっぱり、凄く可愛いな。こんな素敵な人が恋人だなんて僕は幸せ者だ。

 そういえば、亜実も栞のように着物姿になっているのかな。金髪の人の着物姿ってあまり想像できないけれど、亜実のことなのできっと綺麗なのだろう。

 そんなことを考えながら大学に入学した際に両親に買ってもらったスーツを着た。入学したときと体型が変わっていなくて一安心だ。

 家を出発する直前に、両親にスマホやデジカメで写真を撮ってもらったので、その写真を栞のスマートフォンに送っておいた。

 黒いコートを着て家を出発し、亜実との待ち合わせ場所になっている鳴瀬駅の改札近くに向かい始める。晴れていても空気は冷たい。コートを着て正解だったな。


「おおっ……」


 午前9時50分。

 鳴瀬駅が畑町市の成人式会場の最寄り駅であるためか、駅周辺には成人式の参加者らしき人が多くいた。男性は僕のようにスーツ姿の人がいれば、黒い袴姿の人もいる。女性は着物の人が多いけれど、色のバリエーションが凄いな。それでも、栞のように赤色の着物を着る人が一番多そうだ。

 この中から亜実を見つけることができるのだろうか。亜実に着物姿の写真を送ってもらうようにメッセージを送ろうかな。


「おーい、悠介」


 スマートフォンを手に取ったとき、黒い着物に身を包んだ亜実が僕に向かって元気よく手を振ってきた。こうして見てみると、鮮やかな金色の髪と綺麗な顔立ちで結構目立っているな。何にせよ、すぐに見つかって良かった。

 僕はすぐに亜実のところまで向かう。


「亜実、久しぶり。あけましておめでとう」

「それはこの前誘ったときに言ったじゃない。でも、こうして会うのは2019年になってからは初めてだもんね。あけましておめでとう。今年もよろしく」

「うん、今年もよろしく」


 こうして、着物姿の亜実を見ると、普段とは違うからかかなり大人っぽく見える。実際に年齢としては大人になったんだけれど。


「悠介はスーツの上にコート姿だからか、高校のときとあまり雰囲気変わらないね」

「確かに。高校の制服はブレザーだったし、今日みたいに寒いとこういうコート着たもんなぁ。亜実はとても大人っぽく見える。黒い着物もよく似合っているし、綺麗だね」

「……あ、ありがとう。悠介にそう言ってもらえて凄く嬉しい」


 亜実は頬を赤くし、照れくさそうな様子を見せる。


「褒めてくれたお礼に、あたしの着物姿の写真を撮ってもいいよ」

「そうか。じゃあ、遠慮なく」


 僕はスマートフォンで亜実の着物姿の写真を何枚か撮った。あとで、栞と会ったときに見せてあげよう。

 亜実も僕のスーツ姿や僕とのツーショット写真を撮った。ツーショット写真を撮ったときの亜実はとても幸せそうな様子で。僕のスマホに写真を送ってくれた。変に勘違いをしないと信じてこの写真も栞に見せることにするか。


「そういえば、今更だけれど亜実は僕と一緒に成人式に参加して良かったの? 栞は御両親以外にも、同じ中学出身の友達とも一緒に行くって言っていたけれど」

「それも考えたんだけれど、畑町に住んでいる人の中で最近まで親しくしていたのが悠介だったからね。悠介とは高校3年間ずっと同じクラスだったし、悠介と一緒に参加した方がより思い出深い成人式になりそうな気がして」

「そうか。確かに、この地域に住んでいる大学の友達はいないし、高校までに絞ると一番親しくしたのは亜実だな」


 同じ中学出身の友達も何人か八神高校に進学したけれど、僕とクラスやコースが違って、高校に入学して以降あまり関わりを持たなくなってしまった。

 逆に、亜実とは高校受験のときの予備校から知り合い、高校3年間ずっと同じクラスだったので、栞を除けば一番関わりのある人になった。


「そっか。それに、こういう式典のときって会場に行くと、不思議と中学までの友達と会えそうな気がして。ほら、夏祭りとかに行っても、人が多いのに友達とかとバッタリと会うときってあるじゃない」

「言われてみれば……ありそうな気がするな」

「うん。だから、友達とは会場で会えたらそれでいいかなって。どうしても会いたくなったらメッセージを送ればいいわけだし」

「亜実がそう言うなら僕と一緒に参加しよう。ただ、2人で参加すると、周りの人から僕らのことを勘違いされそうな気もする」

「そうなったら仕方ないよ。それに、日高さんから今日は悠介のことを頼むってメッセージをもらったから。悠介はかっこいいから、この成人式を機に高校までに知り合った女の子から言い寄られそうだからって」

「亜実にそんなことを言っていたんだ。そうだ、栞が亜実によろしくって言っていたよ」


 かつて、亜実は僕を栞から引き離そうとしていたのに。あれから5年近く経って、栞から僕のことを頼むと言われる仲になったんだな。


「じゃあ、そろそろ行こうか」

「そうね」


 僕は亜実と一緒に成人式の会場へと歩き出した。

 確かに女性からの視線を感じることもあるけれど、亜実と一緒に歩いているからか男性からの視線の方が多い気がした。

 会場に行くと、亜実の言うように中学や高校の友人と何度か遭遇した。亜実と2人で来たからか、亜実と付き合っているのかと訊いてくる奴もいた。それは、亜実の友人と会ったときも同じだった。ただ、そのときは栞から僕の監視を任されたのだと亜実は必死に理由を説明していた。



 午前10時半。成人式がスタートした。

 成人式は市長の挨拶や祝辞。畑町市出身の有名人からの祝福のメッセージも含めた応援動画の上映。畑町市に絡めたクイズなど意外と盛りだくさんだった。

 思ったよりも楽しい成人式だった。亜実も楽しんでいるようだった。だからこそ栞の方はどんな成人式なんだろうとか、栞と3人で参加してみたかったなとか。そんなことを亜実の隣で何度も思うのであった。

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