12月24日(月)
特別編-Merry Christmas in 2018-
大学の授業は先週の金曜日で一旦終わりとなり、一昨日から年末年始の長期休暇に入っている。
2018年もクリスマスイブとなった。平成最後のクリスマスは僕や栞にとっては成人になってから初めてのクリスマスなので、例年とは違って特別な感じがする。
去年と同じように日中は栞とデートを楽しんだ。そのときは去年、栞がクリスマスプレゼントでくれた青いニットキャップを被って。栞も僕が去年プレゼントした赤いマフラーを巻いてくれて嬉しかった。
去年は僕の家でイブの夜をゆっくり過ごしたので、今年は栞の家で過ごすことになった。もちろん、お泊まりもする予定だ。
「お出かけするのもいいけれど、寒い日にはこうして暖かい部屋の中でゆっくりするのが一番だね、悠介君」
「そうだねぇ、栞」
栞の御両親と一緒に夕食を食べ、今は栞の部屋でコーヒーを飲みながらゆっくりとしているところだ。
「今年も無事に悠介君と一緒にクリスマスを迎えることができそうで嬉しいよ」
「うん。一緒にいるのが当たり前になってきているけれど、考えてみればこうして毎年一緒に迎えられるのって幸せなことだよね。付き合い始めた年から、どっちかの家で一緒に過ごしているもんね」
「そうだね。出会って恋人になったのが高校1年生の頃だから……もう、今年で5回目なんだ。それでも、初めて一緒に迎えるようなドキドキ感があるよ。20代最初のクリスマスだからかな」
「それはあるかもね。20代になったから、去年までとは違う感じはするかな」
大学生という身分は去年と変わりないけれど、10代と20代では何かが違うような気がして。20歳になってから変わったことといえば、今日みたいに一緒にお泊まりするときにお酒を呑むようになったことかな。
「悠介君、お腹空いてきた?」
「うん、空いてきたよ」
「分かった。じゃあ、今からケーキとスパークリングワインを持ってくるから。その準備もあるからちょっと時間かかっちゃうかも」
「分かった。僕はここでゆっくりしているから」
「うん! じゃあ、行ってくるね」
そう言って、栞は楽しげな様子で部屋を出ていった。準備をするから少し時間がかかるというのは、絶対にケーキとスパークリングワインだけが理由じゃないと思う。
僕は自分のバッグの中を見る。……うん、ちゃんと栞へのクリスマスプレゼントは入っているな。家を出発するまでに何度も確認したけれど、どうしてもバッグの中にプレゼントがあるか見ておきたくなるのだ。
「それにしても、来年で付き合ってから5年になるのか……」
栞と出会ったときや付き合い始めたとき。当時から、栞といつまでも一緒にいたい思ったことは何度もあったけれど、5年後の自分がどうなっているかは想像したことはなかったかな。じゃあ、そこから更に5年後というと、
「付き合ってから10年のときか……」
そのとき、僕と栞は26歳になるのか。大学を卒業してすぐに就職ができたら、社会人4年目。そのくらいになると、仕事も慣れてくる頃なのかな。お互いに大人になって、同棲しているだろうか。もしかしたら、もう結婚生活を送り始めているとか。考えれば考えるほど、色々なことを妄想してしまう。
――コンコン。
扉の方からノック音が聞こえた。きっと、栞だろうな。
「はーい」
ゆっくりと部屋の扉を開けると、そこには、
「悠介君! メリークリスマス! 栞サンタ2018だよ!」
去年よりも更に露出度がアップしたサンタの服を着た栞が立っていた。20歳になって成人を迎えたからか、両肩だけじゃなくてお腹まで露出させている。セクシーですねぇ。こういうサンタコスチュームってどこで売っているんだろう。そんな栞はチョコレートケーキとスパークリングワイン、グラス2つを持ってきていた。
やっぱり、栞サンタのための準備があって時間がかかったのか。もうすっかりとクリスマス恒例になったな、栞サンタ。
「メリークリスマス。今年も可愛いサンタさんが来てくれたんだね。嬉しいよ。ただ、それだけ露出が多いと風邪を引きそうだから、早く部屋の中に入って」
「……うん。結構寒い。ただ、悠介君が喜んでくれて良かった」
栞は部屋の中に入り、テーブルにケーキなどを乗せたトレーを置いた。
「悠介君、写真撮る?」
「うん。撮りたいなって思っていたんだ」
僕は2018年の栞サンタの写真をスマートフォンで何枚か撮る。アルバムで去年の栞サンタの写真を見てみると、やっぱり露出度も上がっているし、そういう服装だからかこの1年でかなり艶っぽくなったなと思う。
「ありがとう、栞」
「よーし、じゃあさっそくケーキを食べよっか。ちなみに、このスパークリングワインにはちゃんとアルコールが入ってます」
「……ちゃんと入っているんだね」
どうやら、栞は大人になって迎える初めてのクリスマスを大人らしく過ごすつもりのようだ。そんな栞と一緒に楽しく過ごそう。
僕らはクッションに座って、互いのグラスにスパークリングワインを注ぐ。
「ねえ、悠介君。こういうときの掛け声ってどうやって言えばいいのかな。大人っぽい言い方ってあったりするのかな」
「クリスマスだし、そこはメリークリスマスがいいと思うよ」
「それもそうだね、じゃあ……悠介君。メリークリスマス」
「メリークリスマス」
栞とグラスを軽く当てて、僕はスパークリングワインを一口呑む。
「……美味しい」
葡萄の甘味がちょうど良く、炭酸のような辛みもあって。ただ、アルコールが入っているので、さっそく体がポカポカしてきた。
「美味しいねぇ、悠介君」
栞はさっそく酔っ払ってきたからかほんのりと顔を赤くして、いつも以上に柔らかい笑みを浮かべている。こういった姿を見ることができるのも、大人ならではかな。
「栞、チョコレートケーキも食べようよ」
「うん、そうだね」
栞はさっそくチョコレートケーキを食べ始める。良かった、このままスパークリングワインを呑んだら、きっと酔いつぶれて寝てしまうところだっただろうから。
「美味しいよ。悠介君も食べて」
「うん」
スマートフォンで写真を撮ってから、僕もチョコレートケーキを一口食べてみる。
「苦味の強いチョコレートクリームなんだね。僕好みだよ。凄く美味しい」
「ふふっ、良かった。昨日、頑張って作った甲斐があったよ」
僕の好みを考えて作ってくれたのかな。もうクリスマスプレゼントを栞サンタからもらった感じがする。
「ありがとう。栞に僕からクリスマスプレゼントがあるんだ」
「そうなんだ、嬉しいな! 私もあるんだよ。ちょっと待っててね」
「うん」
僕はバッグから栞に渡すクリスマスプレゼントを取り出して、テーブルの上に置く。喜んでくれると嬉しいな。
栞も勉強机の引き出しから包装紙に包まれた箱を取り出し、テーブルの上に置いた。僕がプレゼントしようとしている箱とさほど大きさが変わらないけれど……まさか。
「じゃあ、一斉に開けてみようか」
「うん」
僕らはプレゼントを交換し、栞から受け取ったプレゼントをさっそく開けてみることに。
「こ、これは……」
「考えることは悠介君と似ているのかもね」
栞からもらったクリスマスプレゼントは、月の形をしたシルバーのネックレスだった。ただ、僕が栞にプレゼントしたものは――。
「ハートの形をした金色のネックレス。凄く綺麗だよ、ありがとう」
「こちらこそ、綺麗な月のネックレスをありがとう」
「良かった、気に入ってくれたみたいで。ただ、悠介君もネックレスをくれるなんて。何だかより嬉しいよ」
「僕も嬉しい。何にしようか迷ったんだけど、バイトで結構お金はあったし、20歳にもなったからこういったアクセサリーもいいかなと思って」
「私も同じような理由かな。ただ、たまにパソコンやスマートフォンのやりすぎで目が疲れるって言っていたから、ブルーライトカットのメガネにしようかなとは思ってた。それに、講義のときはメガネをかけるし、メガネ姿の悠介君もかっこいいと思いまして」
「あぁ、なるほどね。健康のことを考えてくれて嬉しいよ」
そういえば、普通のメガネは持っているけれど、ブルーライトカットのメガネは持っていなかったな。
栞もスマホのゲームをやるし、家ではテレビもよく観るそうだ。栞のメガネ姿も見てみたいし、来年の誕生日やクリスマスプレゼントの参考にさせてもらおう。
その後、再びチョコレートケーキとスパークリングワインを楽しんだ。たまにケーキを食べさせ合ったりして。
ワインを呑む度に栞の顔が赤くなり、表情が柔らかくなっていく。その変化が面白くて、栞のことを何度もスマートフォンで撮影した。
「あぁ、ケーキもワインも美味しかった。ごちそうさまでした」
「ごちそうさま。栞、ケーキを作ってくれてありがとう」
「ううん、いいんだよ。悠介君が美味しそうに食べてくれて凄く嬉しい。これも一つのクリスマスプレゼントかな。これとネックレスの他にもう一つプレゼントがあるんだ。それもとっておきの」
「へえ、どんなプレゼントなの?」
「……私がクリスマスプレゼント」
にっこりと笑みを浮かべながらそう言うと、栞は僕のことを抱きしめて口づけをしてきた。栞の口からチョコレートケーキとワインの甘さが混ざった匂いが伝わってくる。
あと、やっぱり、栞がとっておきのクリスマスプレゼントだったか。素敵なプレゼントを抱きしめる。
「栞とこうして一緒に過ごすことができるのが一番のプレゼントだよ」
「……私も。悠介君と一緒にクリスマスを過ごせて幸せだよぉ」
「ははっ、僕も幸せだよ」
「……それにしても、ワインを呑んだからか、それとも悠介君と抱きしめ合っているからなのか体が熱くなってきちゃった。ねえ、悠介君。今夜はクリスマスだし色々なことをしたいなぁ。特に大人なこととか」
「大人なことがどういうことなのかが分からないけど、クリスマスの夜をたっぷりと楽しもうね」
「……うん!」
それから、僕は栞と一緒にクリスマスの夜の時間を楽しく過ごした。栞に大人なことが何なのか教えてもらいながら。栞もたくさん笑って楽しそうで嬉しかった。
平成最後であり、僕らが成人になって最初のクリスマスはとても愛おしいものになった。新しい時代になる来年以降のクリスマスも、栞と一緒に楽しく過ごせればいいなと思うのであった。
特別編-Merry Christmas in 2018- おわり
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