10月31日(水)-前編-

特別編-Halloween in 2018-




 平成最後の秋。その始まりである9月は雨が多かった。珍しく晴れた日には真夏のように暑くなったので、秋になったという感じがあまりなかった。

 ただ、大学の後期がスタートする10月になると、朝晩を中心に寒くなる日が多くなり、陽も短くなってきた。ようやく秋本番と言える気候になった気がする。今までの中で最も暑かった平成最後の夏が遠い昔のように思えてくる。

 気付けば秋も残り1ヶ月ほどに。そして、今日、10月31日といえば、


「悠介君! ハッピーハロウィンだよ!」


 そう、ハロウィンである。どこがハッピーなのかはよく分からないけれど、栞が楽しそうにしているので気にしないでおこう。


「悠介君、執事さんのコスプレ似合ってるね」

「ありがとう。栞もスクールアイドルのコスプレが似合っていますよ、お嬢様」


 栞はスクールアイドルのコスプレ、僕は執事のコスプレをしている。これらは坂井先輩や原田先輩の漫研所属のご友人から借りているものだ。栞のスクールアイドル姿があまりにも可愛いので、スマートフォンで何枚も写真を撮ってしまった。


「ありがとう、嬉しいな。悠介君、執事だけれどスーツ姿だからか、こうしていると私のマネージャーに思えてくるよ」

「確かにそれは言えてる」


 マネージャーというと地味な感じはするけれど、変なコスプレをするよりはよっぽどいいかな。スーツ姿なのでとても過ごしやすいし。


「私はスクールアイドルのコスプレだけれど、ここは大学だからピッタリだね」

「確かにそうだね。ただ、その姿で講義を受けるのはシュールな気がするけれど」

「ふふっ、この格好だとさすがに普段と違うなって思うよ。ただ、悠介君はあんまり違和感ないよね。高校生みたい」

「制服にも見えるもんね」


 マネージャーとか高校生とか好き勝手に言われてしまっているな。

 どうして、栞や僕がコスプレをしながら講義を受けようとしているのかというと、僕らが通っている潮浜国立大学では、ハロウィンである今日に限って、コスプレしたまま講義を受けてもいいことになっているからだ。教授や講師の方々もこの企画を面白がっていて、しっかりとコスプレしてくる方もいる。

 また、夕方には学友会主催のハロウィンパーティーが開催される。坂井先輩や原田先輩曰く、これは1週間後に開催される学祭の前夜祭のような位置づけとのこと。


「去年も思ったけれど、うちの大学って、こういうイベントのときは大学全体で盛り上がるよね」

「意外だよね。私も去年は戸惑ったよ。ただ、せっかくのイベントなんだから存分に楽しまないと」

「そうだね。一緒に楽しもう」


 栞って意外とこういうイベントを思いっきり楽しむタイプだ。去年のハロウィンイベントもそうだし、高校のときも学園祭をとても楽しんでいたっけ。

 そんな微笑ましいことを思い出しながら、今日も講義を受けることに。水曜日は2限と4限しか講義が入ってないので結構楽だ。

 ちなみに、どちらの講義でも、担当した先生はハロウィンかぼちゃのバッジを胸に付けたり、講義資料のデザインがハロウィン仕様になっていたりしていた。今年も先生方はハロウィンを楽しんでいるようだ。

 いつもと雰囲気は違うけれど、講義は普段通りに行なわれたのであった。



 午後5時。

 今日の講義が終わったので、僕は栞と一緒に茶道サークルの活動室へと向かう。


「あっ、栞ちゃんに新倉君。講義お疲れ様」

「お疲れ様! そして、ハッピーハロウィン! 栞ちゃん、新倉君!」

「ハッピーハロウィンです! 遥香先輩! 絢先輩!」

「ハッピーハロウィンです。坂井先輩、原田先輩」


 茶道室の中には、メイド服姿の坂井先輩とゴシックドレス姿の原田先輩がいた。2人とも、とても似合っているな。可愛らしいコスプレをする女子学生は結構いるけれど、先輩方は群を抜いて可愛らしいと思う。もちろん、一番可愛いのは栞だけれど。


「栞ちゃんも新倉君もよく似合っているね」

「遥香の言う通りだね。ただ、こうして見てみると、新倉君が栞ちゃんのマネージャーに見えるけれど」

「栞にも同じようなことを言われましたよ」


 やっぱり、マネージャーに見えてしまうか。アイドルと一緒にいるスーツ姿の男性といったらマネージャーだもんな。


「遥香先輩と絢先輩もよく似合っていますよ!」

「ありがとう、栞ちゃん。メイド服は高校の学園祭以来着ていなかったから、何だか懐かしい感じがするよ」

「言われてみれば、大学生になってからは初めてか。高校の頃も可愛かったけれど、今の方が色気が増していてとても素敵だよ、遥香」

「……もう、絢ちゃんったら。絢ちゃんもそのドレス姿、凄く素敵だよ。背が高くて、綺麗な絢ちゃんだからこそ映えるっていうか……」

「……嬉しい言葉だよ、遥香」

「絢ちゃん……」


 坂井先輩と原田先輩、幸せそうな表情をして見つめ合っている。2人の世界ができているな。さすがというか、相変わらずというか。ただ、2人のコスプレは同じ作品のキャラクターであり、そのキャラクター達も作中で恋に落ちる関係なので、先輩方にはピッタリなコスプレと言えるだろう。


「先輩達を見ているとこっちまで幸せになるね、悠介君」

「……ほっこりとした気分になれるよね」

「ほのぼのするね。じゃあ、私も……」


 そう言って、栞は楽しそうな様子で僕のことを抱きしめてくる。コスプレとはいえ、アイドルの姿になっている栞に抱きしめられるとは贅沢な感じが。もちろん幸せでもあるので、僕も彼女のことを抱きしめることに。


「今の2人を見ていると、見えないところでマネージャーとこっそりと愛を育んでいるアイドルのコスプレに見えるね、遥香」

「言われてみればそうかな。でも、随分とマニアックなシチュエーションだね、絢ちゃん。そういえば、ハロウィンパーティーがもう始まっているから、1年生の子達はそっちに行ったよ。私と絢ちゃんは2人と一緒に行こうと思って待っていたの」

「そうだったんですね」


 今年度になって、1年生の女子学生が数人ほど茶道サークルに入ってきた。そういえば、今日のことを教えてから彼女達、特にハロウィンパーティーを楽しみにしていたな。きっと、彼女達も可愛らしいコスプレをして楽しんでいることだろう。


「じゃあ、私達もパーティーに行きますか?」

「そうだね。会場で1年生の子達と合流しようか。みんなのコスプレも可愛いよ」

「みんなレベル高いよね。私にとっては遥香が一番だけれど。あと、今年はくじ引きで何か当てたいな。一昨年みたいに食堂で使える食券とか」


 そういえば、パーティーにはくじ引きもあったな。去年は当たらずに、「ハズレで賞」という名の参加賞で、大学特製の3色ボールペンをもらったっけ。僕も何か賞品をゲットしたいと思う。



 その後、僕らは学友会主催のハロウィンパーティーに参加した。

 会場で1年生の子達と合流すると、原田先輩の言うように彼女達のコスプレはとてもレベルが高かった。あと、僕の執事服が似合っていたのか、彼女達は喜んでくれて一緒に写真を撮った。

 パーティーは去年と同様、会場に行くとお菓子をもらうことができて、メインイベントのくじ引きが行なわれた。

 すると、原田先輩は2等の最新型の携帯音楽プレーヤー、坂井先輩は4等の文房具セット、栞は3等の食堂で使える食券1万円分をゲットした。

 この流れに僕も乗ろうと思ったけれど、茶道サークルとしての運が尽きてしまったのか、2年連続で「ハズレで賞」の3色ボールペンをもらってしまうのであった。

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