9月1日(土)

特別編-End of Summer in 2018-




「今日から秋なんだね、悠介君」

「そうだね。まだまだ暑いけれど」

「そうだよね。暑い日は涼しいところでゆっくりするのが一番だよね」


 今日はお互いに特に予定がないので、雨が降る中、栞が僕の家に遊びに来て、涼しい僕の部屋でゆったりとした時間を過ごしている。

 昨日で夏が終わり、今日から秋が始まる。

 しかし、夏のような蒸し暑さが居座り、大学の夏休みもあと半分ほど残っているので、秋になったんだなぁ……という実感はあまりない。暑さも寒さも彼岸までという言葉もあるくらいなので、あと20日ほど経てば過ごしやすい気候となるのだろう。

 去年と同じように、今年の夏休みも栞と一緒にデートやサークル活動、バイトをするなどして充実した日々を送っている。

 坂井先輩や原田先輩の誘いで、今年も栞と一緒にリゾートホテルでのアルバイトをやり、その流れで旅行気分も満喫できた。数年ほど前に、ホテルの総支配人が先輩方にお世話になったとはいえ、僕らにまでたくさんバイト代を出していただけるなんて。しかも、滞在費は無料。本当に有り難い話だ。


「今日から秋ってことは、昨日で平成最後の夏が終わっちゃったんだね」

「そうだね。来年の4月末までには平成が終わるからね。平成は続いているけれど、平成の夏は二度と来ないから、昨日までの日々が遠い昔のことのように感じてくるよ」

「言われてみれば確かに。過ぎた夏は二度と戻ってこないのは毎年変わらないけれど、元号という意味で、来年の夏は今年までとは違うと思うと急に寂しくなるね」

「確かに……」


 栞の言うように、過ぎた夏が二度と戻ってこないのは毎年変わらないはずだ。なのに、平成最後というだけでどこか虚無感があるのはなぜなのか。僕らが生まれてから元号が変わるのがこれが初めてだからだろうか。この夏が平成最後だと分かっているからこそ感じるのかもしれない。


「今回は夏だったけれど、3ヶ月後には秋、半年後には冬、生前退位となれば来年の5月1日には平成という時代そのものに寂しさを覚えることになるのかもね」

「そうなりそうだね、悠介君」


 ふふっ、と栞は笑っている。今日もとっても可愛らしい。

 平成最後の夏、平成最後の秋、平成最後の冬、4月末で終わるけれど平成最後の春か。個人的には夏が一番切なく響いてくる。


「僕はとても楽しかったけれど、栞は平成最後の夏はどうだった?」

「そうだね……去年と同じように、サークルやバイトとか、もちろん今みたいにお互いの家に行き来して悠介君と一緒にいられたからとても楽しい夏になったよ。でも、今年はかなり暑かったから、サークルの集まりでキャンパスまで行くのはキツかったかな……」

「なるほどね。暑さで言えば、僕は……特に期末試験の時期が一番暑かったから、キャンパスに行ったら疲れちゃってテストがしんどかったな……」

「うんうん。キャンパスに行くこと自体が一つの試験って感じがしたよ」

「確かにそれは言えてる」


 ただ、僕や栞が履修している科目は、期末試験がなく課題レポートで済ませるものが多かったのでまだ良かったよ。多分、単位を落としてしまうこともないだろう。

 それにしても、今年の夏はとても暑かったなと思う。気温も例年よりもかなり暑かったし。あと、去年以上に栞と寄り添う時間が長かったから。


「でも、あとは……20歳になったこともあって、お酒を呑むようになったのは去年とは違うかな。酔っ払って悠介君に甘えたり、体を摺り合わせたりして……ううっ、今でも思い出すと恥ずかしいよ……」

「僕からしてみれば結構可愛かったけれど、他の男の人に同じことをしないように気を付けようね」

「うん。平成最後の夏に一つ、大切なことを学んだよ」

「そっか。忘れないようにしようね」


 といっても、これまで栞がお酒を呑んだのは僕や坂井先輩、原田先輩と一緒にいるときや、自宅で御両親と呑んだことくらい。

 ただ、栞のお母様曰く、自宅で日本酒に挑戦したら瞬時に顔が赤くなって、数分もしないうちに眠り始めてしまったという。自分がお酒を呑んだらどうなってしまうのかを知るのは大切なので、そういう意味では平成最後の夏はとても重要だったのかもしれない。


「ねえねえ、悠介君。今日から始まった平成最後の秋はどうなるかな?」

「う~ん、大学2年だし去年とさほど変わらないとは思うけれど、何だかんだで忘れられない3ヶ月になりそうな気がするな。とりあえずはこの暑さが去ってほしい」

「もうこの暑さもこりごりって感じかな。3ヶ月後には結構寒くなっているのが今はまだ信じられないというか」

「そう思っちゃうよね。気候がどうであれ、栞と一緒に楽しい秋の時間を過ごすことができれば一番いいかなって思っているよ」

「……うん。それが一番だね」


 そう言うと、栞は急に僕に口づけをしてにっこりと笑ってきた。この大胆さ、お酒を呑んで酔っ払ったときのようだ。そのときの記憶も残るタイプみたいだし、お酒を通じて今までよりも少し積極的になったのかなと思う。

 平成最後の秋。果たして、どのような3ヶ月になり、栞に何か変化があるのか。そう考えると、とても楽しみになってきたのであった。




特別編-End of Summer in 2018- おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る