7月7日(土)

特別編-Tanabata Night in 2018-




 僕らの住んでいる関東地方は今年、史上初の6月中の梅雨明けとなった。

 それでも、まだまだ梅雨の明けていない地域があり、特に西日本ではここ何日かずっと大雨が降っている。

 今日は、午前中は曇っていた関東地方だったけれど、午後になると晴れ間が見えてきて、日が暮れたあたりから星空が見えるようになった。七夕の夜としては最高なんじゃないだろうか。


「雲も取れて良かったね、悠介君」

「そうだね。あそこら辺が天の川かな」

「きっと、織姫さんと彦星さんも会っているんだろうね」

「うん。一緒に世界中の夜景を見下ろしているんじゃないかな」


 織姫と彦星が見えている風景はどんなものなのだろうか。

 彼らは1年に1度しか会っていないけれど、僕と栞はほぼ毎日会っている。そう考えると幸せなことなんだと改めて思う。

 今、僕は栞と一緒に鳴瀬駅の近くで開催されている七夕祭りに来ている。本当は昨日と今日の開催だったけれど、昨日は雨で中止になったので、今年は今日と明日の2日間の開催となる。


「昨日が中止だったからか、今日はたくさん人がいるね」

「今日が七夕だもんね。午後から晴れてきたし、行ってみようって思った人も多いんじゃないかな」

「しかも、今日は土曜日だもんね。あっ、あそこに短冊コーナーがあるからお願い事を書いていこうよ」

「うん、そうしよう」


 僕らは短冊コーナーへと向かう。みんなお願いしたいことがあるのか、たくさんの人によって行列ができている。僕らのようなカップルがいれば、家族連れや、学生数人のグループもいる。


「汗も掻いているからか風が気持ちいいなぁ」

「うん。意外とそこまで暑くないね」


 体の中で一番温もりを感じるのは、栞と繋いでいる右手じゃないかと思うくらいだ。その温もりも心地よく感じる。

 短冊コーナーの横には笹の木が何本かあり、既に多くの短冊が飾られている。赤、青、黄色、ピンク、緑など様々な色の短冊があるので綺麗だ。


「悠介君、私達の番だよ」

「おっ、思ったよりも早かったね」

「そうだね。書き終わったら見せ合いっこしようよ」

「いいよ」


 笹に飾ったら自ずと書いたお願い事が分かっちゃうと思うけれど。ただ、栞にとって、短冊を見せ合うのがいいのかもしれない。

 僕らは隣同士で短冊に願い事を書くことに。

 僕に見せたくないのか、栞は手でピンク色の短冊を覆っている。

 栞は見てこないけれど、僕も真似して手で覆いながら水色の短冊にお願い事を書く。僕の願い事はあの日から変わっていないけれど。


「悠介君、書けた?」

「うん、書けたよ」

「じゃあ、短冊を見せ合おうか」

「いいよ。せーの!」


 僕と栞は自分の書いた短冊を見せ合う。


『好きな人とずっと一緒にいられますように。 日高栞』


『大好きな人といつまでも一緒にいられますように。 新倉悠介』


 言葉は多少違うけれど、栞も僕も願っていることは同じか。これは偶然なのか、それとも必然なのか。


「同じだね、悠介君」

「同じになったね。凄く嬉しいよ」

「……私も」


 すると、栞はとても嬉しそうな笑顔を浮かべ、僕の手をぎゅっと掴んできた。偶然だろうが必然だろうが、願いが重なったことは事実。そのことがとても嬉しく思う。


「じゃあ、短冊を飾ろうか」

「うん!」


 僕と栞の短冊をすぐ側に飾る。風に吹かれると2つの短冊は触れ合う。この短冊のようにいつまでも栞と一緒にいられるといいな。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか、栞」

「うん。途中でカクテルを買って初体験してみたいな」

「じゃあ、コンビニで何か買って僕の部屋でゆっくりと呑もうか。星空でも観ながらさ」

「うん!」


 5月に僕が、6月に栞が誕生日を迎えて20歳になり、お酒を呑むことができるようになった。成人になって間もないので、まだアルコールの弱いお酒しか呑めないけれど。楽しく、ほどよく呑んでいければいいなと思う。

 高校に入学してばかりに出会った僕らも、今や20歳か。4年以上もこうして一緒に栞といられるのは嬉しい。願わくはいつまでも愛おしき人とともに。




特別編-Tanabata Night in 2018- おわり

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