3月14日(水)

特別編-The White day in 2018-




 とても寒かった冬もようやく終わって、今月から季節も春となった。その便りが届いたかのように、3月に入ってから暖かい日も多くなってきている。日によっては初夏のような気温にもなって。

 ただ、平昌五輪で日本が最多のメダルを取ったこともあり、気持ち的には熱くなった冬の日もあった。冬のオリンピックも面白いんだな。そだねー。

 2ヶ月ほどの長い学年末の長期休暇は栞と一緒に過ごしたり、バイトをしたり、サークルに参加したり……と色々なことをして楽しむことができている。

 そして、今日……3月14日はホワイトデー。去年は大学入試の結果待ちで、とても寒かったけれど……今年は初夏のような暑さだ。


「窓を開けると涼しいね」

「そうだね、栞」


 ホワイトデーということもあって、去年と同じように栞は僕の家に遊びに来ている。

 まさか、涼しいのが心地よく思えるなんて。僕も栞も花粉症ではないのでこうして窓を開けても平気だ。


「もう春だし、暖かいホワイトデーはいいね」

「そうだね。去年の秋ぐらいから寒い日ばかりだから、こんなに暖かいのが嘘のように思えてくるよ」

「そだねー」


 栞の言う「そだねー」の可愛さは金メダル級だと思う。


「そろそろおやつの時間だし、ちょっと待ってて」

「うん!」


 栞、とても楽しそうな笑みを浮かべている。

 僕はキッチンに行き、ホワイトデーのプレゼントのマカロンと、一緒に食べようと思って昨日作ったチョコムースを用意する。

 プレゼントは割と早く決まったけれど、今日一緒に食べるスイーツは何にしようか迷った。けれど、天気予報で暖かくなることを知り、冷たいスイーツがいいと思って去年と同じムースにした。ただし、去年はイチゴ味だったので今年はチョコレート味。

 栞と僕の分の温かい紅茶を淹れて部屋へと持っていく。


「栞、お待た……せ」


 僕の部屋で1人きりになったからか、栞は僕のベッドでぐっすりと眠っていた。温かいからなのかふとんも掛けずに。彼女の着ているワイシャツがちょっとめくれておへそが見えてしまっている。気持ち良さそうに眠っているので起こすのも気が引けるな。


「ただ、このままじゃ風邪引いちゃうよ」


 ふとんを掛けると暑苦しくなってしまいそうなので、めくれているワイシャツを元に戻すか。そう思って、栞の着るワイシャツを掴んだ瞬間だった。


「悠介……くん?」

「栞、おはよう」

「……まだ明るいし、窓も開けているのに。その……我慢できなくなっちゃったのかな? もしかして、これがホワイトデーのプレゼントなの? 私のことを起こしてくれてもいいんだよ?」


 栞は何を勘違いしているのか、顔を赤くしながらそんなことを言ってくる。もしかして、僕がめくれた状態のワイシャツを掴んでいるから、変なことをされると思ったのかな。


「ワイシャツがめくれておへそが見えているから、元に戻そうと思ったんだよ。風邪を引かないように」

「……そ、そうだったんだね。今日は暖かいから眠くなっちゃって。そうしたら、あら不思議。すぐ近くにふかふかのベッドがあるではないですか。しかも、悠介君の匂いが付いているではないですか。だから、気付いたらベッドの上で仰向けになってて、すっと眠っちゃったんだよね」

「確かに、温かいと気持ちいいから眠くなるよね」


 その気持ちはよく分かるんだけれど、栞って僕の部屋に来ると高確率で僕のベッドに潜っているような気がする。


「何か、紅茶のいい匂いがするけれど」

「栞と一緒にチョコムースを食べようと思って持ってきたんだよ。もちろん、ホワイトデーのプレゼントもあるよ」

「そうなんだ!」


 すると、栞は素早く体を起こして、テーブルの側で正座をする。僕の作ったチョコムースをスマートフォンで撮っている。


「美味しそうだね」

「今日みたいに暖かい日は冷たいスイーツがいいかなと思って」

「そうだね。去年の苺のムースも美味しかったから期待しちゃうな」


 苦いものが苦手な栞のために、甘めにして作ったけれど、栞の口に合うかどうか。今朝、試しに一つ食べたときは大丈夫だったけれど。


「じゃあ、いただきまーす」


 栞はチョコムースを一口食べる。緊張の瞬間である。


「うん、甘くて美味しい!」


 幸せそうな笑みを浮かべながら栞はチョコムースを食べ進めてくれる。その光景を見てチョコムースを作って本当に良かったなと思う。個人的には苦いチョコが好きだけれど、たまにはとても甘いチョコスイーツもいいよね。

 栞に食べてほしいのはチョコムースだけじゃなかったんだった。栞の可愛らしい笑顔を見てマカロンを渡すのを忘れるところだったよ。


「栞、バレンタインデーの時はチョコをありがとう。ホワイトデーのプレゼント」

「ありがとう! 開けてもいい?」

「うん、もちろん」


 リボンを開けて、栞は袋の中からイチゴ味のマカロンを一つ取り出す。


「マカロンだ!」

「うん。イチゴ味のマカロンを作ってみたんだ」

「……本当に悠介君ってお菓子作りが好きなんだね。いただきます」


 栞はマカロンを一口で食べる。モグモグしている彼女の姿を見ると癒やされるなぁ。


「美味しい! ありがとう。あとは家で大切に食べるよ」

「うん」

「……じゃあ、プレゼントのお礼をするね」


 そう言うと、栞は僕のことをぎゅっと抱きしめ、口づけをしてきた。チョコムースとイチゴ味のマカロンを食べたからか、栞の口からはイチゴチョコの甘い匂いがしてくる。


「……こんなにも美味しい口づけもあるんだね、悠介君」

「確かに、甘い匂いがして普段よりもいいね」

「うんうん。ムースやマカロンよりも美味しいかも」

「……可愛いな、栞は」


 思わず栞の頭を撫でてしまう。今の栞の言葉にキュンとくるけれど、それよりも微笑ましい気持ちの方が大きい。

 初夏のような暖かさとなった2018年のホワイトデーは、温もりがとても感じられる時間となった。気持ちが温かくなると、甘味がいつもより深く感じられるなぁと思うのであった。




特別編-The White day in 2018- おわり

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