10月31日(火)-後編-

 ハロウィンパーティーが終わった後に、僕は栞と一緒に食堂で夜ご飯を食べ、大学を後にする。もちろん、服は元の私服に着替えて。

 明日は午後から講義ということもあって、今日は栞の家に泊まることになった。何度目か分からないくらいにたくさん泊まらせてもらっている。もちろん、栞が僕の家に泊まりに来たこともたくさんある。

 大学の食堂で夕ご飯も食べたので、栞の家にお邪魔をすると真っ先に彼女の部屋へと向かった。


「今日は楽しかったね、悠介君」

「そうだね。今日はずっとコスプレをしていたから、ようやく日常に戻ることができたような気がするよ」

「確かに。ああいった時間を過ごしたから、こうしていつもみたいに……悠介君とのんびりと2人で過ごすことが大好きなんだなって思える」


 そう言うと、栞は僕のことをぎゅっと抱きしめ口づけをしてくる。栞の温もり、匂い、柔らかさ……とても安心する。


「……口づけをすると、9月に2人きりで旅行に行ったときのことを思い出すね」

「そうだね」


 9月の終わり頃まで夏休みだったので、僕と栞は9月の平日に2人きりで旅行に行った。電車に乗って2時間ほどで行ける旅館に1泊2日で。

 旅館の近くには浜辺があったので、僕と栞は9月の静かな海で遊んだ。8月の賑わいもいいけれど、可愛らしい水着姿の栞と一緒にいたので、人が全然いなくても十分に楽しめた。

 旅館では美味しい料理を食べて、混浴の貸し切り温泉があったので栞と一緒に入って、部屋ではたくさんイチャイチャして……1枚のふとんで体を寄り添わせて眠った。

 そんな旅行のことを思い出すと、今でもドキドキしてくる。旅行中の栞の姿がとても可愛らしくて、またあのときのような栞を見たいと思ってしまうから。


「悠介君と同じだよ。私もドキドキしてる」

「……分かってるよ」


 抱きしめていると、栞の体から確かな鼓動が伝わってくるから。


「また、一緒に旅行に行きたいね。特に冬だと温泉が気持ちいいから」

「じゃあ、年末年始の休みには日帰りでもいいから温泉に行こうか」

「うん! 楽しみだなぁ」


 栞、本当に楽しそうにしている。夏休みに貯めたバイト代もまだ残っているけれど、後期の大学生活も慣れてきたので、そろそろ何かのバイトを始めてみようかな。


「そうだ、悠介君。お腹空いてない?」

「そう……だね。大学の食堂で夕ご飯を食べてから1時間は経っているから。小腹が空いてきたかも」

「じゃあ、ちょうどいいかも。実は今日のためにかぼちゃプリンを作ったの。紅茶と一緒に持ってくるね! 悠介君は適当にくつろいでて」

「うん」


 栞は一旦、部屋を出ていった。

 かぼちゃプリンか……そういえば、今月に入ってからコンビニでハロウィンスイーツが発売されていたな。

 ベッドに寄り掛かると、ふんわりと栞の匂いが香ってくる。彼女の匂いは季節問わず感じることができるけれど、いつ感じても心地よい。今朝起きてから栞はベッドに入っていないはずなのに、何故か温もりを感じた。それは栞への好意が生み出したのだろうか。今日はコスプレをしたからか、いつもより疲れて……眠くなってきた。


 ――カシャ。

「うわあっ!」


 スマートフォンで写真を撮影した音だってことは分かっていた。でも、まるですぐ近くに雷が落ちたかのような衝撃が僕にはあったんだ。


「ご、ごめんね! 悠介君、そんなに驚くとは思わなくて」


 気付けば、僕のすぐ側には慌てた様子の栞がいた。紅茶の香りが僕らを包み込もうとしていた。


「いや、いいんだよ。ベッドに寄り掛かっていたら、眠気がきてウトウトしちゃって。コスプレして疲れたのかも」

「そうだったんだ。悠介君の寝顔が可愛くてつい撮っちゃった」

「……そっか」

「さあ、かぼちゃプリンを食べよう? たくさん作って、昨日……1つ食べてみて美味しかったから、味は大丈夫だと思うけど」

「料理が上手な栞が大丈夫だって言うなら、きっと大丈夫だよ。楽しみだ」


 テーブルの上には紅茶と、透明なカップに入ったかぼちゃ色のプリン。普通のプリンとはひと味違うんだろうなと見た目からワクワクさせてくれる。

 僕はさっそくかぼちゃプリンを一口食べる。


「……美味しい」


 かぼちゃの優しい甘さと、牛乳の優しいコク。かぼちゃが入っているからか、口当たりも普通のプリント比べてなめらかな印象を受ける。


「良かった、悠介君が美味しく食べてくれて」

「何だか、ようやくハロウィンって感じることができているよ」

「ええっ、今日は大学でずっと一緒にコスプレしていたじゃない」

「そうだけど、普段はやらないから非日常な感じがして。それに、去年のハロウィンは僕の家に栞が来てくれて、2人でゆっくりと過ごしたから……今年も栞と2人きりになれて良かったなって思ってるよ」

「……うん」


 そう言って頷くと、栞の顔が見る見るうちに赤くなっていく。


「ねえ、悠介君」

「うん?」

「……ト、トリックオアトリート」


 僕のことを見つめながら、栞はハロウィンの決まり文句を言ってきた。そういえば、コスプレをして周りの目を気にしすぎていたから、栞にあげるお菓子を買ってなかった。


「ごめん、今はないや。明日、大学の売店で栞の好きなお菓子を一つ買ってあげるよ。このかぼちゃプリンのお礼も兼ねて」

「……分かった。でも、今、お菓子をくれないからいたずらしちゃうね」


 そう言うと、栞は僕のことを押し倒して口づけをしてくる。いたずらだからなのか強引に舌を絡ませてくる。


「……かぼちゃの味がして美味しいよ、悠介君」


 唇を離すと栞はとても嬉しそうな表情をしてそう呟いた。何だか、今の一言を聞く限り……僕がお菓子あげても口づけをしてきていたような気がする。


「栞こそ、かぼちゃプリンの甘い味がして美味しいよ」

「……そ、それは良かった」


 ふふっ、と栞は顔を更に赤くしながらも笑っている。とても可愛いな。

 去年よりも寒く感じる大学1年生の秋も、ハロウィンは去年と同じように温かい気持ちになることができたのであった。




特別編-Halloween in 2017- おわり

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