12月1日(金)

特別編-End of Autumn in 2017-




 12月となり、今日から大学生になってから初めての冬が始まる。

 中学生のときや高校生のときとは違って、12月中に期末試験を行なわない。科目によっては期末試験というものが存在せず、総まとめのレポートを提出する。ただ、それも提出は1月になってからなので、今年中はのんびりできそうだ。

 去年までは年末は期末試験で忙しかったので、のんびりと過ごして年を越すことができるなんて夢のよう。その代わり、年が明けてからが大変だけれど。ただ、今年の受験に比べればマシだろう。



 午後5時過ぎ。

 僕と栞は今日受ける講義が全て終わったので、2人で一緒に下校することに。キャンパスの外に出ると、空はすっかりと暗くなっていた。


「そういえば、12月になったから今日からは冬なんだよね、悠介君」

「そうだね」


 といっても、11月までにも12月並みの寒い日が何日もあったので、冬を先取りしている感覚だった。正直、今日から冬になった感じが全くしない。

 ただ、今週くらいに入ってからイルミネーションの装飾が増えたり、駅やお店にクリスマスセールのポスターが貼られたりしていることから、いよいよ2017年も年末モードになってきたと思う。


「秋は悠介君と2人きりで旅行に行って、ハロウィンには一緒にコスプレをして、学園祭を一緒に楽しんで……盛りだくさんだったな」

「そう考えると、この3ヶ月は色々とあったね」


 9月はずっと夏休みだったこともあってか、今年の秋はとても早く感じた。高校生までとは明らかに時間の流れが違うのでそう思ったのかも。それでも、今、栞が言ったように2人きりの旅行、ハロウィン、学園祭など楽しいことがたくさんあって、講義にもついていけているので楽しいキャンパスライフを送ることができている。


「学園祭では悠介君は大活躍だったよね。女の子がたくさん来てさ」

「……僕は普通にお抹茶を点てただけなんだけどね」


 学園祭で茶道サークルは一般の方にお抹茶を振る舞ったり、点て方を教えたりした。1年生である僕と栞も参加した。坂井先輩曰く、去年よりも断然に女性の来客が多かったとのこと。


「茶道に興味を持ってくれる子がたくさんできたと思えばいいかな。来年以降、サークルに入ってくる人が増えるといいよね」


 1年生は僕と栞を含めて数人しかいないから。しかも、男子は僕だけ。今後、男子学生が入ってきてくれると嬉しいけれど、学園祭の様子を思い出すと……そうなる可能性は薄そうかな。


「何人でもいいから後輩が入ってくれると嬉しいかな。私は女の子がいいけど」

「……同性の方が安心だよね」


 だから、僕が大活躍したって言ったのか。栞のことを考えたら、男子よりも女子の方が安心できるか。実際にどうなるかは来年の春以降のお楽しみってことで。


「話は変わるけれど、今年もあと1ヶ月なんだよね。でも、年越しまではのんびりすることできそう」

「うん。栞の卒業した中学や高校も12月に期末試験だった?」

「そうだよ。だから、期末試験が終わるまでは大変だったけれど、終わればスッキリとして年を越すことができた。受験の年は別だけれど。今度の年越しはどんな感じで迎えるのかちょっと楽しみなんだ」

「そうなんだ。僕は、とりあえず年内は試験もレポートもないから、去年までよりも楽でいいなって思っているけれど」

「ふふっ」


 と、栞はクスクスと笑っている。この可愛い笑みをもっと明るいところで見たいな。


「確かに去年までよりは楽だよね、私もそう思ってるよ。でもさ、去年までと同じように……クリスマスや年末年始は一緒に過ごそうよ。そうすれば、大学生になっても今までと変わらず楽しいと思うから」

「うん。できるだけ一緒にいよう」


 受験の年も含めて、毎年、クリスマスや年末年始は栞と一緒に過ごしてきた。どんなに勉強が大変で辛くても栞と一緒だと心が安らいで、本当に楽しかった。来年もそういう時間を彼女と一緒に過ごすことができると思うと今から嬉しくなる。


「私、冬って凄く好きなんだ。クリスマスやお正月。年が明けてからはバレンタインデーもあって」

「確かにイベントがたくさんあるね」

「……うん。でも、一番の理由は……こうして悠介君の温もりが一番心地よく感じられる。だから、私は冬が好きなの」


 そう言って、栞は腕を絡ませてきた。手を繋ぐときよりも彼女の温もりがたくさん伝わってくる。その温もりには甘い匂いがあるように思えた。


「……僕も好きだよ」


 栞のことを一番感じることができる季節だと思うから。

 そんなことを話していると、僕達は大学の最寄り駅に到着する。帰宅ラッシュの時間に入り始めているからか、段々と人が多くなっていく。


「ねえ、栞。そこの自販機で売ってるホットココア、一緒に飲もうよ」

「……うん」


 甘くて、温かい。そして、そんな時間が心地よい。それはきっと今年の冬も変わることはないだろう。

 こうして、大学生になってから初めての冬が静かに始まるのであった。




特別編-End of Autumn in 2017- おわり

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