10月31日(火)-前編-

特別編-Halloween in 2017-




 1日の気温の差が激しいと言われる秋だけれど、今年の秋は1日中寒い日が何日も続くことがある。秋晴れの昼間は暖かくて、陽が沈んだ夜は肌寒い……という秋らしい日は意外と少なかったりする。

 今月になって大学1年生の後期がスタート。選挙権が18歳に引き下げられたことで、初めて投票した衆議院議員選挙や、2週連続で週末に台風が襲来するなど色々とあったけれど、大学生活は前期とさほど変わらないので、2週間くらいで慣れた。

 ただ、後期に突入してから、大学ではあることで盛り上がりを見せていた。


「ハッピーハロウィンだよ! 悠介君!」


 そう、今日のハロウィンに向けて、大学全体で盛り上がっていたのだ。あと、ハロウィンってどこがハッピーなんだろう。悪いイメージはないけれど。

 後期が10月スタートということもあってか、食堂のメニューの一部がハロウィン仕様になり、売店で売られるお菓子や飲み物の一部が秋限定のものに。

 今日限定で大学ではハロウィンコスチュームで講義を受けることを許可されていた。ただし、肌の露出が過度でないものとしている。コスチュームをしていいのは大学の敷地内のみ。国公立大学だからお堅いイメージがあったけれど、意外と大胆なことをするんだなと思った。臨時の更衣室まで準備されているし。


「悠介君、吸血鬼の恰好似合うね!」

「栞の魔女の恰好も似合ってるよ」


 僕と栞も今日はハロウィンコスチュームで講義に臨んだ。

 講義を担当する教授や講師の方も、コスプレ用の帽子を被ったり、ハロウィンかぼちゃの缶バッジをスーツの胸ポケットに付けていたり、スライドをハロウィン仕様のデザインにしたりと意外とノリノリだった。

 普段よりも楽しい気分の中で僕と栞は今日の講義が終わると、坂井先輩と原田先輩に会うために茶道サークルの活動室へと向かう。ちなみに、僕と栞の着ているコスプレの服はそこにあったもの。


「お疲れ様です、坂井先輩、原田先輩」

「ハッピーハロウィンです! 遥香先輩! 絢先輩!」


 茶道サークルの活動室には既に坂井先輩と原田先輩の姿が。ちなみに、坂井先輩は栞よりもちょっと肌の露出度が多い魔女のコスチュームで、原田先輩は女盗賊のコスチュームだった。


「ハッピーハロウィン! 栞ちゃん! 新倉君!」

「ハッピーハロウィン。栞ちゃん、新倉君」


 ハロウィンだからいつもより元気な坂井先輩と、こういうときでも普段と変わらず爽やかな笑みを浮かべる原田先輩。これが素なのか、それともコスチュームに合わせた反応なのか。原田先輩のコスチュームテーマである女盗賊はクールなイメージがある。


「2人ともよく似合ってるよ!」

「ありがとうございます! 先輩方も可愛いです」

「ふふっ、ありがとう。絢ちゃんなんて、女の子から自分のことを盗んでってたくさん言われたんだから。でも、絢ちゃんは決まって気持ちは受け取るけど、盗むのは私だけってかっこよく言ってくれるんだよね……」


 坂井先輩は原田先輩のことを見ながらデレデレしている。2人は大学で指折りの有名カップルで仲がとてもいいから、原田先輩の反応は自然だと思うけれど……女盗賊に体も心も盗まれる魔女というのはかなりシュールじゃないだろうか。


「へえ、どんな感じなんでしょう。気になりますね。……絢先輩、私のことを盗んでくれますか?」


 栞がそう言うと原田先輩はクスッと笑って、


「気持ちだけ受け取っておくよ、栞ちゃん。でも、君には血まで盗んでくれるかっこいい吸血鬼君が側にいるじゃないか。盗んでほしいってお願いをするなら、私よりも彼の方がいいんじゃないかな。ちなみに、私が盗むのは……こっちの遥香っていう魔女だけさ」

「そうですよね!」


 栞は嬉しそうな笑みを浮かべて僕の手をぎゅっと握ってきた。

 原田先輩、僕の想像していた言葉よりも断然にかっこいい言葉をさらりと言えるから凄い。学年問わず女子学生から大人気なのが分かる気がする。ちなみに、彼女に抱きしめられている坂井先輩はとても幸せそうだ。


「……あの、先輩方に伺いたいんですけど、ハロウィンの日はコスプレしていいというのはうちの大学の伝統なんですか?」

「そうだね。10年くらい前から始まったみたい。もちろん、私や絢ちゃんも入学した去年は驚いたよ。去年はコスプレしていない1年生は多かったかな。私と絢ちゃんはやったけれどね」

「……先輩方のときもそうだったんですね。いや、僕と栞……今日、この恰好で授業を受けたんですけど、半分以上の学生は普通の服装でしたよ。むしろ、教授や講師の方がワンポイントでもハロウィン仕様だったのが安心したくらいで」


 といっても、僕の吸血鬼の恰好はスーツが基本形で、栞の魔女の恰好も小さな女の子が着ても大丈夫なくらいの露出度の低さだからいいけれど。


「そうだったんだね。長くここに勤めている教授や講師は多いからね。2年生になれば、きっと今年は普段着だった人もみんなコスプレするよ! こっちは8割くらいがコスプレしていたよ。ね、絢ちゃん」

「うん。まあ、こういった服までコスプレしているのは女子が多かったかな。男子はハロウィンっぽいデザインの服や帽子を被っていたくらいで」


 なるほど、うちの大学ではそういうノリの生徒は女子の比率が高いようだ。まあ、ハロウィンのコスプレって考えてみると女性のイメージが強くて、男性でやろうとすると僕の吸血鬼や原田先輩の盗賊くらいしか思いつかない。


「でも、夕方から体育館で行なわれる学友会主催のハロウィンパーティーでは、コスプレをした1年生がたくさん来るんじゃないかな」

「そうだね、絢ちゃん。もうすぐで学祭だし、前哨戦……っていう言葉はちょっと違うかもしれないけれど、ハロウィンパーティーで学校の雰囲気を良くして、学祭へと向かっていくのがここ数年の流れらしいよ」

「そうですか……」


 前哨戦というよりは前夜祭のイメージだな。ハロウィンパーティーをすることによって、大学全体で盛り上がって、そのまま学祭に向けて頑張っていこうという狙いかな。

 そういえば、茶道サークルは学祭でお茶会を開くんだっけ。お抹茶を出したり、実際に茶道体験をしてもらったりするとのこと。高校から茶道をやっている栞や坂井先輩に教えてもらって、僕も一通りの作法は覚えた。


「あと30分くらいでハロウィンパーティーが始まるんじゃない?」

「そうだね、絢ちゃん。じゃあ、みんなで校内を散歩しながら会場に行こうか」


 これまで他の生徒にこの恰好を見られたから、できれば4人で静かに過ごしたいんだけれどな。


「どうしたの、悠介君。具合でも悪いの?」

「そうじゃないよ。ただ、僕はここで茶道サークルのみんなと過ごす方がいいかなと思っただけで……」

「友達から聞いた話だと、パーティーに行くとトリックオアトリートの言葉にちなんでお菓子がもらえるらしいよ。あと、くじ引き大会で豪華景品がもらえるとか。そうですよね、先輩」

「栞ちゃんの言うとおりだよ。去年は絢ちゃんが3等を当てて食堂で使える1万円分の食券をもらったよね」

「そうだったね」

「……急に行きたくなってきました」


 お菓子がもらえたり、くじ引きで豪華な景品がもらえたりするんだったら話は別だ。こういうことをするのは1年に1度だと考えたらいいか。

 その後、僕達はキャンパス内を散策して、パーティー会場に向かう。さすがにここではコスプレをしている人が大半だった。

 ハロウィンパーティーのくじ引きでは……僕は何も当たらなかった。

 ただ、最後まで参加したので、「ハズレで賞」として大学特製の3色ボールペンをもらったのであった。

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