第四話 理想と真相!

 悪党達を懲らしめたポポン達は城の正門まで来ていた。

 どうやらリオンがお姫様に用があるらしく、城に入るために来たのだ。

 だが、中に入ることは出来ずにいた。


「だから、城の中に入れろって」


「ならん。国王夫妻から国民以外はいれてはならないと仰せつかっている」


「頭が固え奴だな。オレは姫さんに用があるんだ。入れろ」


「ならん」


 門番とこうして言い合いを続けているばかりで、一向に中に入れない。

 もうすこし物腰柔らかに言えば検討ぐらいしてくれるんじゃないだろうか。


「大事な話があるんだっつの。このままだとこの世界が」


「わけのわからないことを言うな。とにかく、入れることはできん」


「あのなあ……」


 リオンはどうやらそろそろ我慢の限界に達しそうだった。

 ポポンはリオンを怒らせる前に門番に伝える。


「あの、僕たち、お姫様を襲った悪党達を倒してきたんです。だからそのお礼というか、城に入れてはくれないでしょうか……?」


「何? 奴らをか?」


「あぁ、本当かどうか知りてえなら城の裏口を見て来い。そこに縛ってある」


 門番は何やら思案すると他の兵を呼び、確認するよう言った。


「嘘ならば、帰ってもらうぞ」


「嘘じゃねえから入れろ」


「先程から騒がしいですね、何事ですか」


 言い合いを尚も続けていると、門の向こうから何やら高級そうな服を着た女性がやってきた。


「さ、宰相。こやつらが姫に会わせろと無茶な要求をしてくるのです」


「そんな輩、すぐに追い返しなさい」


 ピシャリと言い放つ宰相。

 しかし、そのすぐ後に走ってきた兵が大慌てで言う。


「う、裏口に、縛り上げられた盗賊たちを発見しました」


「何?」


 宰相は兵から話を聞いていた。

 門番はこちらを見て、驚きを隠せない様子だった。


「ほほ、本当だったのか」


「入れろ」


 さすがにこれで入れるだろうとホッと胸をなでおろすポポン。

 だが、兵から話を聞き終え、指示を出していた宰相は、こちらをまだ疑いの眼差しで見ていた。


「なるほど、貴方たちが奴らを退治した、だから入れてほしいというわけですね?」


「その通りだ、入れろ」


「ですが、こうも考えられるのでは? 彼らを囮に、城へと潜入しようとしている。つまり、貴方たちも彼らの仲間であると」


 言われて気づく。

 確かにそういう風にとられてしまってもおかしくない。

 ポポンは自分の軽率な発言に後悔した。

 だがリオンは動じることなく答える。


「あいつらはオレが倒した。オレはあいつらの仲間じゃねえ」


「ならば、何かそれを証明するものはありますか」


 そんなものない……

 このままでは城に入れてもらうことはできない。

 リオンはどうするのだろう。


「んなもん知らねえよ、どうやって証明すんだそんなの」


 唖然とした。

 言い切ってしまった。

 お終いだ……


「そうですか、ではどうぞお引き取りください」


 呆れた様子で宰相はポポン達を突き放す。

 が、リオンは尚も食らいつく。


「オレは姫さんにこいつの件について話をしにきた」


 そういって、リオンは珠を取り出した。

 すると、怪訝そうにしていた宰相がカッと目を見開きリオンへツカツカと靴を鳴らし近づく。


「貴様、なぜそれを持っている!!」


 今まで低いトーンで喋っていた宰相が声を荒げた。

 思わずポポンはびっくりして毛が逆立った。

 宰相はリオンの手から珠を奪い取ろうとするが、ひょいとリオンは躱す。


「落ち着け、よく見ろ。こいつはあんたらの持ってるのとは別物だ」


 フーフーと威嚇するように息をしていた宰相はリオンのその言葉にすこし落ち着きを取り戻した。


「……、どうやらそのようですね。すいません取り乱しました」


 その姿にそれをみていた門番も驚きを隠せないといった様子でポポンと目が合った。

 よほど驚いたのだろう。


「その様子だと、この珠が何なのかくらいは知ってるのか?」


「当然です、その珠は、我が一族に伝わる宝珠……、何故それと同じものを貴方が?」


 そういう宰相にリオンは、首を傾げる。


「宝珠、か。やっぱあんたじゃ話になんねえな。姫さんに会わせろ」


 宰相はきょとんとして、リオンを見る。

 しかしすぐに神妙な面持ちになると門番に告げる。


「門を、開けなさい」


「は? いやしかし」


「いいから開けなさい。これは命令よ」


「ははっ!」


 その命令を聞いた門番はすぐさま門を開ける。


「ようやく開けてくれたな」


「姫様に手を出したら容赦しませんよ」


「大丈夫だ、用があんのは珠の方だ」


「……案内しましょう、こちらです」


 宰相に連れられ、城へと入る。

 大螺旋階段を上がり、上へと上がっていく。


「貴方たちの名前を伺ってもよろしいですか」


「まずはそっちから名乗れよ」


「そうですね、失礼。私は、ラビエール。この国の宰相を務めている者です」


「オレはリオン、騎士だ」


「えと、僕はポポンて言います。旅記者をやっています」


「リオンさんに、ポポンさんですか。お二人はどういう関係なんですか」


「今日会った」


「そうですか」


 お互いの自己紹介をしながら長い階段を昇っていく。

 螺旋階段から下を見ると大広間があり、そこには人がひしめき合っていた。

 暫く上がって、渡り廊下を渡ると、豪華な扉があった。


「姫様はこちらです。私が監視していますので、下手な真似はなさいませんよう」


「わかってるよ」


 リオンは鬱陶しそうにしてラビエールに扉を開けるよう催促する。

 そしてその扉が開けられる。

 中から、日差しが漏れてきて、その眩しさに目を瞑る。

 逆光になってよくわからなかったが、扉をくぐる。

 扉を閉じるころ、目も慣れてきて目の前に綺麗なドレスを着た者が立っているのが見えた。


「姫様、突然ですがお客様です。姫様にお話があると」


 ラビエールの言葉に応えるようにゆっくりとこちらを振り返るお姫様。

 長い髪と耳を揺らしながらこちらを見たお姫様に、ポポンは思わずドキッとしてしまった。


「わたしに、お話? そんなお客様、予定にありました?」


「オレはお客様じゃねえ。オレはリオン、騎士だ」


 リオンがそういうと、お姫様はフフッと微笑した。


「面白い人、フフッ、どんなお話をしてくれるの? 騎士様」


 どうやら、興味は持ってくれているようだった。


「別に面白い話をしようとして来たわけじゃねえ。姫さん、あんたの持ってるその珠をこっちに渡せ」


「貴様! やはりそれが狙いか!」


 ラビエールが一瞬でナイフをリオンの喉元へと突き付ける。


「ラビエール、やめて」


 しかし、お姫様もリオンも動じていなかった。

 ポポンは冷や汗を拭くので精一杯だった。


「人が提案をしてくるときには何か理由がある。それを教えてくれたのは貴女でしょう」


「しかし姫様、それとこれとは話が」


「おいラビエール、お前より姫さんの方がよくわかってるみたいだぜ? はやくそのナイフ降ろしてくれ」


「っく……!」


 二人に言われ、ラビエールはナイフを仕舞う。

 

「申し訳ありません騎士様。ラビエールも気を張っているのです。許してあげてください」


「別に、どうも思っちゃいない」


「名乗るのが遅れましたね。わたしはこの国の姫、と言われているウサミ―という者です」


ウサミ―姫は長い耳をぴょこぴょこさせながらニコリとして会釈した。


「それで、なぜ騎士様はわたし達の宝珠が欲しいのですか?」


「……あまり聞かれたくない話なんだが」


「では、善処します。ラビエール」


 その言葉にラビエールはびくりと体を揺らす。


「しかし、姫様!」


「退きなさい。これは命令ではなく、お願いです」


 ラビエールは複雑な顔をして渋々部屋を出て行った。


「ポポン、すまねえがお前も出て行ってくれ」


「え? 僕も?」


 てっきり、一緒に話を聞けるものだとばかり思っていたポポンは面食らってしまった。


「お前も巻き込むわけにはいかねえ。お前の手伝いのおかげで助かった。それには感謝してる。だがもう借りは返しただろ」


 リオンの言葉に、ポポンはぐうの音も出なかった。

 この場にポポンが留まれば、リオンは本当の事をウサミ―姫に話さないかもしれない。

 ポポンは退くしかなかった。


「わかった、それじゃあ……」


 ポポンもラビエールに続いて部屋を後にした。



****



 部屋を出たポポンは同じく部屋を追い出されたラビエールに案内され、避難している人がいる大広間へと案内された。

 そこでは、城下町の人々を家へと帰らせるために兵たちが誘導していた。

 中にはギサウ族ではない旅の人々もおり、それぞれが旅支度をしたりしていた。

 そしてその中に、ある人影をポポンは見つける。


「リサ! ここにいたんだね!」


「ポポン! どこいってたの、心配したわよ!」


「ごめん、でもリサはどうしてここに?」


 リサは盗賊たちが現れたことを記事にしようと出て行ったのではなかったのか。


「あの時は私もすこし興奮しててね。てっきり国が傾くんじゃないかと思って、記事を書こうと思ってたんだけど、様子をみてておかしいなと思ったの」


「おかしいってどういう風に?」


「クーデターだと私は思ってたんだけど、ただ単に街を荒らすだけでなんというかこう信念がないというか……」


「彼らはただの盗賊だったよ」


 それを聞いてリサはがっくりとうなだれた。


「はぁ~、やっぱりかあ。なんだただの盗賊だったかあ。だったら記事にしなくて正解だったわね」


 詳しく聞くとどうやら、あの盗賊たちが街のそこかしこで暴れており、街を出られず、城へと匿ってもらったらしい。


「それにしてもポポン、なんであいつらが盗賊だって知ってるわけ?」


「いやそれは、ある人と一緒に退治したというか」


「何ですって? あなたが?」


「いや、僕は何もしてないよ……。それよりも、なんで記事にしなくて正解なの?」


 ポポンは、リサが彼らが盗賊ならば記事にしなくて正解だと言った。


「そんなの、決まってるでしょ。珍しくないからよ」


「珍しくない? それだけ?」


「そうよ、でもその盗賊を退治したっていう人は興味あるわね」


「ちょ、ちょっとまってよ。盗賊が珍しくないってどういうこと?」


「今時そんなニュースばっかよ。盗賊に襲われただの、誰かが殺されただの、どこぞの大商人が破産しただの」


「そ、そんな」


「……ポポン、あなたちゃんと色んな記事読んでる?」


 そう言われてポポンはハッとする。

 自分の見たいものだけを見ていたのではないか。

 知りたくないモノ、都合の悪いモノは見ないようにしていた自分に気付く。

 リサはため息をつく。


「いい? ポポン。外の世界はね、あなたの思ってるより、悲惨よ」


「……!」


 その言葉にはかつて父が言った言葉と同じ雰囲気を感じた。


「私もね、最初は外の世界に憧れを持ってた。知らない物が溢れてる素晴らしい世界なんだろうって。なんで皆外の世界の事を知ろうとしないんだろうって」


 リサの言葉の一つ一つがポポンの胸に刺さる。

 

「外の世界に出て私は知った。この世界には幸せより、不幸の方が多いんだって。皆見ないふりをしてるだけなんだって」


 それは、ポポンの知りたかったことであり、知りたくなかった事だった。


「でも、でもねポポン。これだけは忘れないで」


 もう嫌だった。

 聞きたくなかった。

 何故出てきてしまったのだろう。

 知らぬ存ぜぬで里にこもっていればよかったのに。

 ポポンは目を背け、耳を塞ごうとした。


 だが、リサはポポンの顔を掴み目をしっかと見据える。

 ハッキリと聞こえる声で、言った。

 

「幸せは少なくても決して零ではないの」


 その言葉は、やはりポポンの胸に刺さった。

 だがそれはつららのようにじわりと溶け出し、ポポンの胸の内にあった何かがあふれ出す。

 

「じゃあ、僕は間違ってなかったの?」


「それは、誰にもわからない。だけど、間違いだと言い切ることは出来ないわ、誰にもね」


 リサはふっと笑みを見せた。

 どこか哀し気に……


「私は、外の世界に来てよかったと思ってる。例えそこが不幸や絶望に満ちた世界でも」


 リサは、ポポンよりも多くの物をこの外の世界で見てきたのだろう。

 彼女は、ポポンの先輩だ。

 そして彼女は、ポポンがいずれたどるかもしれない未来でもある。

 だからこそ、リサは伝えたかったのかもしれない。

 自分と同じようにならないでと。


「ポポン、あなたを外の世界によんでしまったのは私。だから文句があるなら私に言いなさい」


「そんな、文句だなんて」


「だからポポン、目を逸らさないで。耳を塞がないで。あなた自身が外の世界を視るの。そして伝えるの」


「それが、僕にできること?」


「あなたは今日の爆発の時、恐れることなく向かっていった。きっとあなたなら、本当の事を知れる。だから、それを皆に伝えるの」


 私にはできなかったからと、そうリサは言い零した。

 

「じゃあ、私はもういくわ。元気でねポポン」


 去っていくリサに、ポポンは声をかけれなかった。

 かける言葉を、知らなかったから……

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獅子騎士ライオナイト ぬーやん @huneko

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