第3話

 気候が穏やかではないある村では、貧しいけれども昔の言い伝え通り、毎日小さな祠に供物をささげ、収穫祭の日には奮発して飴をお供えしていた。

 そして今日はその収穫祭の日である。

 出店を出せるほどの余裕はなかったが、酒を飲んで笑いあったりしているところへ騒ぎを聞きつけたのか、真っ白な布を纏った子どもがまっすぐやってきた。

 興味深そうに騒いでいるのを眺めている子どもに気付いた一人の酔っぱらいは目を丸くした。が、すぐに手をすり合わせて「ありがたやー、ありがたやー」と言った。

 腰の曲がったお年寄りたちは驚いた様子だったが、「今年のあめがみ様は可愛らしいねぇ」と、やっぱり手を合わせて拝んだ。

 村長らしき人物は怪訝そうに首を傾げて「はて、今年のあめがみ様役はこんな小さな子だっただろうか」と呟いたが、やっぱり他の者のように手を合わせて来年の豊作を願った。

「今年の供物でございます」

 と、巫女服を着た少女がその小さな子の前で跪き、供物を差し出すと、子どもは目を輝かせた。

「あめくれるの?」

 村人たちは内心首を傾げたかったが、かろうじてこらえた。小さな子どもだから台詞を間違えても仕方ないだろう、と。

 少女は再び頭を下げたまま言った。

「あめがみさまへの供物でございます、どうぞ、お納めください」

 子どもは受け取ると、キャッキャッと嬉しそうにはしゃいだ後、「いただきます!」と言って食べてしまった。

 村人たちは唖然としたが、そんなこと子どもが気にするはずもなく、全部口に含むとどこかへ行ってしまった。


 しばらくして、飲み直しをしながら、今度から神様役は大人にしよう、とか話し合っていたが、結局は童姿の神様、という言い伝えを守るべきだ!という意見が多く、こういう事もある、神様には正直に話して許してもらおう、という方向で落ち着いた。

「にしても、あんな綺麗な子、見たことないな」

「きっとあれだ、宮司様がどっかから連れてきたんだ」

「ちげえねぇ」

 そういって笑いあっているところへ、ちょっと汚れた白い布を纏った少女が近づいてきた。

「あれ?さっき渡したはずなんだが…」

 と、怪訝そうに首を傾げる者たちを気にせず、少女はいった。

「ねえねえ、飴頂戴。飴くれなきゃ悪戯するぞ?」

 と。



 数日後、祭りのやり直しをするべきか話し合われたが結局、そのままで行くことになった。きっと、あの子どもはよかれと思ってきれいな白い布をどこかからもってきて、わざわざ神様役をやって盛り上げてくれたんだろう、と笑い話になった。

 だが、数年間、日照りも、冷害も、水害もなく、豊作が続いたので「これはほんとにあめがみ様がやってきたのかもしれんなぁ」と老人たちがあの子どもを思い出しながら笑いあうようになったのは、また別の話である。

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とある地方の昔ばなし ~飴玉くれなきゃ悪戯するぞ?~ みやま たつむ @miyama_tatumu

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