第248話 デーモンがあらわれた

「迷える仔羊に……魂の導きを……立ちはだかる者に……静寂の断罪を……」


 聞いた事の無い詠唱だ。ヴィティア・ルーズの足下に、先程までとは違う――……黒い魔法陣が出現した。その大きさも、今までとは比較にならない。禍々しい、邪悪な魔力の存在を感じる。突風が吹き荒れ、村を襲った。

 な、何だ、これは。ヴィティアは別人のような顔をして、魔法を詠唱している。先程までの、ツンとしている筈なのにどこかマゾっ気を感じる娘は、そこには居なかった。

 激しい、そして濃い魔力だ。ここまで凄まじいものは、あまり見ない。否応無しに、身体は硬直する。


「ご主人……!! あれ、魔力枯渇のサインっスよね……!?」


 ナックルと化したスケゾーが、俺に問い掛ける。『あれ』って、ヴィティアの様子の事だよな? 身体は震えて、顔は人と言うよりも悪魔ではないかと思わせる程にやつれている……確かに、よく見てみればそう思えない事も無いが……自分自身の魔法で魔力枯渇って、するもんなのか?

 普通、そんな状態になる前に、まず魔法が使えなくなるだろ。顔が変わってしまうような事態には陥らない筈だ。

 ……いや、既にこの状態は、普通じゃない。『異常』なのか。


「スケゾー。あの魔法、知ってるか? 俺は見た事がない」

「いやあ、オイラは人間界の魔法については何とも……でも、召喚魔法っスよね」

「召喚? そうなのか?」

「召喚魔法って、魔法陣の文様が独特なんで……なんか、それっぽいんスよね」


 確かに、言われてみればそう見えなくもない、が……自身の魔力を枯渇させるほどの魔法陣で、魔物召喚? 聞いた事無いぞ、そんなのは……どうなってしまうんだ……!?

 ここには、リーシュも居る。村もある。召喚されるのだとしたら、何が考えられる? 【レッドプロミネンス】の時に見た魔法陣の、実に二倍以上……オークやゴブリンみたいな、並の魔物って事は無いだろう。

 思わず、青くなってしまった。……スケゾー級の魔物に暴走されたら、俺だって止められる自信なんか、無いぞ……!!


「ま、魔導士様!! これ、大丈夫なんですか!?」


 リーシュが叫ぶ。俺は覚悟を決めて、リーシュを見た。

 ヴィティアが登場して若干、気が緩んでいたが。……これは、危険だ。俺はそれを後ろの村人にも伝えるべく、声を張り上げた。



「全員、逃げろォ――――――――!! 冗談じゃない、これは村が無くなるぞォ――――――――!!」



 いつも飄々としているスケゾーが、今は緊張して、冗談を飛ばす素振りを見せない。それだけで、危機を感じるには充分だ。指を差した方向へ、村人達は駆け出した。……良いぞ、とにかく逃げるんだ。ここではない何処か、出来るだけ遠くへ。

 俺はヴィティアの方へと振り返り、夥しい魔力を持って既に煙すら上げている魔法陣と対峙した。形振り構わず、全身に魔力を集中させる。


「へへ……。この魔力の量……思い出すな……!!」


 おどろおどろしい魔力。ヴィティアの全身からそれは発され、既にヴィティアは意識を失っていた。俺はスケゾーとの共有率を高め、何時でも魔力を引き出せるように準備し、拳を構えた。

 あの、黒いドラゴン以来だ。こんなにも凶悪な魔力を感じるのは。

 何だ……? 魔法陣から、光が発された。それはヴィティアの全身を包み込み、瞬く間に俺の視界を奪う。スケゾーは光にあまり強くない。共有している分、余計に眩しさを感じてしまうが。


「くっ……!!」


 どうにか薄目を開けて、場の状況を確認しようとした。ヴィティアの作った魔法陣から何かが出て来る……突風がヴィティアを魔法陣の外へと吹き飛ばし、ヴィティアは転がって倒れた。

 やっぱり、既に意識なんか何処かに飛んでいる。ヴィティアはこの瞬間、何者かに操作されたんだ。

 光が治まっていく。



「何が出て来るってんだよ……」



 始めに現れたのは、悪魔系の魔物が持つ、側頭部から伸びる二本の角だった。骸骨のように白く固い皮膚に覆われ、目は暗闇で見掛ける猫や狸のように光っている。屈強な身体と、赤紫色の筋肉、人型……広がった魔法陣が小さく見える程に巨大な腕が現れ、それは地面をしっかりと掴み、全身を現した。

 ビリビリと、全身が震える。俺の中で、警鐘が鳴り響いている。


「……やばいかな、流石に」


 一体こりゃ、何だ。人型……悪魔系の魔物である事は確かだ。だが見た目は髑髏のようでも、スケゾーとはまるで姿かたちが違う。

 何よりその、巨大な体躯だ。村に伸びた木でさえ片手で握り締める事が出来そうな巨体は、召喚されると辺りを見回し、場の状況を確認していた。


「此処は……………………何処だ?」


 喋る。落ち着いた雰囲気があった。見上げた巨大な顔は、穏やかな村には全く似つかわしく無い。角ばった頬に暖かみは全く感じられない……『魔物』という言葉がとてもしっくりくる風貌だ。


「……『デーモン』っスか。これは、まずいっスね」


 スケゾーの言葉に重みがある時点で、それが如何にやばいのかがよく分かる。


「デーモン? デーモンってのは、悪魔族じゃないのか?」

「ああ、そうっスよ。オイラと同じ種ですが……オイラ達の世界でただデーモンと言うと、あいつらの事を指すんスよね。『ザ・デーモン』とまで呼ばれている種でして。……まあ、悪魔族の親玉みたいな存在っスよね」


 言葉を軽くしようと努力しながらも、スケゾーの声は若干、張り詰めていた。

 ザ・デーモン。俺にはよく分からないが、これだけの魔力を秘めている魔物だ。強いのだろう……見上げる巨体。見るからに強そうだ。だが、血の気が多いようにも見えない。もしかしたら、事故だと説明すれば何事も無く、帰って貰えるかもしれない。

 ヴィティアは気を失っている。奴の主人は、既にここには居ないのだ。


「む。……人か」


 デーモンが遂に、俺の存在に気付いたようだ。

 ふむ、と下顎を撫で、露出している歯が音を鳴らす。たったそれだけで、恐怖を感じる――……言葉は通じるようだ。会話でどうにか出来るものだろうか。

 手違いで召喚されただけなんだ、関係ないんだ、なんて……召喚した当人は既に気を失っている。それなら、そんな説明でも……


「召喚されたら村を潰せ、と言われているのだが。……この村で間違いはないか?」


 ……駄目そうだな。どう考えても。

 くそ。やはり、戦うしかないのか。だとしても、この巨体とここで戦ったら……奴が意識して村を潰さなくても、勝手に村が無くなってしまうだろう。なら場所を変えるかと言いたいが、この悪魔と戦闘出来るだけのスペースなんて、近くには無かったような気がする。いや、いっそ人の居ないこの場所こそ、戦うのには最適か? 村人は既に逃げているから、村には誰も居ない。少なくとも、人間的な被害は出ないぞ。

 村を捨てれば。


『本当は、『村を観光地にしたい』なんて話もあったよ。その為の貯金だった』


 デーモンが、拳を振り上げた。


「おい……!! やめろ……!!」


 村を壊そうと、デーモンが拳を振り下ろす。

 俺は走り、民家の盾になった。全力で拳を構え、防御の姿勢を取った。

 俺の姿を丸ごと隠すような、巨大な拳が迫って来る。

 ……これは、まずい。


「ぐぇっ……………………!!」


 耐え切れずに殴られた俺の口から、鶏を絞め殺した時のような声が漏れた。当然踏み止まっていられる筈もなく、俺は民家もろとも殴り飛ばされ、空中に吹き飛んだ。

 一瞬、意識が飛んだ。


「ご主人!!」


 スケゾーの声がする。

 これは……、まずい。村を護りながらだとか、そんな事を考えて戦える相手じゃない。何と言っても、その強さが……レベルが違う。

 ようやく地面に着地すると、身体は転がった。骨が折れる音がして、無様にも俺は、地面に倒れ込んだ。


「む。……邪魔をするな、人間」


 間に入った事をようやく気付いたような声で、デーモンは言う。

 再び、拳が振り上げられる。口の端から血の味がしたが、俺は構わずにもう一度、デーモンに向かって走った。

 ここを、焼け野原にするつもりなのだろうか。村を壊す――……当然、村人は居場所を失う。リーシュの装備に金を使ってしまったと聞いた。村の再建は難しいかもしれない。

 俺は歯を食い縛り、デーモンの拳に向かって、その身を投げ出した。


「ぎっ……!!」


 今度はどうにか、踏み止まった。デーモンの拳を押さえ込み、俺は呻き声を漏らした。


「……邪魔をすればただでは済まさんぞ、人間よ」


 うるせえ。

 俺はデーモンの拳を、弾き飛ばした。だが代わりに、反対側の拳に横から殴られる。

 今度は民家など関係なく、俺が吹き飛ばされた。


「魔導士様!!」


 声が聞こえる。

 ……ああ。……これは、駄目かもしれない。


 姿が大きいというのが、村を護る事を難しくさせる要因になっている。たとえ強さが同じでも、小さければもう少し、村を護って戦う事が出来たかもしれない。

 でもこんな奴、適当に足踏みされただけで、勝手に民家の方から崩れて行ってしまう。

 村を守って倒すとすれば、一撃で終わらせる必要があるが。……そんな技は、俺にはない。


「力のある人間だな。……ここで、始末しておこう」


 デーモンは巨体に似合わぬ恐ろしい速さで、両拳を何度も俺に叩き付けた。

 衝撃は重く、痛みは深い。俺は顔を護りながらも、その圧倒的な力を前にして、抵抗する術を持たなかった。

 どうにか丸くなり、痛みを軽減しようともがいた。


『良かった。……魔導士様のお口に合うか、少し不安だったんです』


 だが、倒れない。

 どうにか最後の一歩で踏み止まり、俺は堪えた。歯を食い縛ると俺の中で、様々な光景が蘇って来た。


『これからリーシュは、冒険者になるんだ』


 しっかりしろよ、俺。

 護るんだろう。……この村を、護ると決めたんだろう。例えそれがこれっぽっちも金にならない事だったとしても、俺がやると決めたんだろう。

 なら、やり通せよ……!!


『……魔導士のあんちゃんが、撃退したのか?』

『追い返した……!!』


 期待させただろう。村の人達に、希望を持たせただろう。村が壊されるのを黙って見ているという事は、そんな人達の想いも裏切るって事になるんじゃないのか。

 全部完璧にやり切って。そうしたら、この村はまだ平和でいられる。

 平和ボケでいられるんだ。

 良いだろ、それで……!!

 遂に巨大な拳が、俺のガードを崩した。


「……!!」


 言葉も無かった。

 猛スピードから繰り出される、尋常ではない一撃。吹き飛ばされ、俺はあっさりと――……地面に叩き付けられた。

 砂煙が舞い、視界を覆い尽くす。


『おい、グレンオード。……土下座しろよ』


 俺はきっと、信じたかったんだ。


 暖かい仲間だとか、家族みたいなものが、いつか俺にもできるんじゃないかって。この村を護る事で、いつか俺にもそんな日が訪れたら、それは幸せだろうな、って。

 そんな奴等の大切な場所を、護ってやりたいと思ったんだ。


『ひとを護れないのは、弱いから、ですか』


 俺は。



 俺は、弱くない。



「魔導士様!!」


 駆け寄る人影。大の字に寝転がっていた俺の視界に、飛び込んでくる姿があった。

 流れるような銀色の髪が、俺の頬に掛かる。その娘は俺に手を差し伸べて、不安そうな表情のまま、言った。


「大丈夫ですか!? まだ、立てますか!?」


 リーシュ。

 慌てて起き上がった。リーシュは俺の手を握ると、俺を引っ張って立たせた。


「な、何でまだ、こんな所に居るんだ……!? 俺は逃げろって言っただろ……!!」


 危険な相手だ。戦地に居るだけでも、今は何が起こるか分からない状態だ。まして、剣を満足に振れないリーシュでは、飛んで来た瓦礫ひとつを避ける事だって難しいだろう。

 そんな事、一目で分かる事じゃないか。……何で、逃げていないんだ。俺は思わず、リーシュの肩を掴んだ。

 ここは危ない。今すぐ逃げろ。

 そう、言うつもりだった。

 リーシュは眉を怒らせて、心外だと言わんばかりの様子で、俺に言った。


「魔導士様を置いてなんか、行けませんよ!!」



 ――――俺は、目を見開いて。



『魔法が飛ばねえ魔導士なんざ、要らねえんだよクズが……!!』


 そんな言葉を言われるなんて、俺は、想像もしていなくて。


『なんでお前が生きてんだよ!! 消えろよ!! このっ、疫病神が!!』


 少し、泣きそうになった。

 そんな事、リーシュには言える筈も無かったけれど。


「…………そ、……そうか」


 どうしようもなく、俺はそんな言葉を呟く事しか出来なかった。

 俺の背後で、黒紫色の光が巻き起こった。俺はその異変に気付いて振り返り、思わず冷や汗を流した。

 魔力の量が――違い過ぎる。


「あまり時間を掛ける訳にも行かないのでな。手短に終わらせて貰うぞ」


 闇魔法。……中身は何だろうか。魔物の魔法は人の目には、何が起こっているのかよく分からないモノが多い。デーモンは右の掌に魔力を集めていた。ブラックホールのような魔力の塊は渦を巻き、赤黒い筋肉が盛り上がる。

 これまでの流れからして、このデーモンが実物だという事は無いだろう。未だに首謀者すら現れていない、そう簡単に手の内を晒して来るとはとても思えない。

 ……いや、そうか。待てよ。

 あるじゃないか。こいつとまともに戦う事無く、一撃で都合良く終わらせるスキルが。


「ちょっと、頼みたい事があるんだが……協力してくれるか」

「は、はいっ!? な、なんでしょう……!?」


 そこまで言って、俺は立ち止まった。

 目の前の魔物は、強大な魔力を手の平に溜め込んでいるようだった。どうやら、放つのに幾らかの溜めを必要とするものらしい……少なくともこの攻撃を、どうしたって一度は凌がなければならない。

 中途半端に組んで、どうする。また俺は、あの日の悲劇を繰り返すつもりなのか。

 カウンターを仕掛けた瞬間に飛び出したアードのように、リーシュが俺の攻撃に巻き込まれてしまったら。

 思わず恐怖で、足が竦んだ。


『形だけでも、強くなりたい……!!』


 ……いや、信じよう。


『背中を向けて逃げるくらいなら!! 死んだ方が!! ましです!!』


 リーシュの、覚悟とやらを。


「……俺が隙を作る。……お前が、あの剣が巨大化する魔法で討て」


 リーシュは目を丸くして、俺の言葉に面食らっていた。まさか、自分に振られるとは思っていなかったんだろう……だけど、リーシュのあの魔法は……【アンゴル・モア】とかいう名前のスキルは、熟練の冒険者でも軽々とは使えない程の火力がある。

 コントロールが利かない事だけが弱点と言えばそうだが、この魔物相手なら問題無いだろう。何より、俺が必ず当たるようにすれば良いんだ。

 文字通り、ぶっ飛ばしてしまえば良い。全力で。


「で、でも……私が、ですか……!?」


 リーシュは俺の言葉に怯え、困っている様子だった。

 これだけの大きな魔物を相手にしているんだ。その気持ちは、痛い程に分かる。


 目の前の高い壁を直視すれば、足は震えて立てなくなるだろう。登り始めて下を見れば、落下の恐怖に動けなくなるだろう。

 だから、必要なのは強い覚悟だ。

 前を向く意志だ。

 俺はデーモンを見詰め、隣のリーシュに言った。



「お前は強くなれる」



 リーシュが、俺を見た。


「お前、ただの人間ではないな……?」


 デーモンは俺を見下ろし、そう言った。俺は腕を組んで、不敵な笑みを浮かべる。

 魔法の準備だ。俺の全身は紅い魔力に包まれ、淡く光る。

 この近接戦闘がまるで役に立たない娘に、デーモンを倒す事なんか出来るのか。それは、分からないが……残念ながら俺の魔法一発では、あれ程の火力は出ない。村を護ろうと考えるのなら、リーシュが討つのが最も都合が良い。

 お互いの穴を埋めているんだ。……良いだろ、こんなパーティがあっても。


「もう、俺を倒した気でいるんだろ……? デーモンよお……俺がいつ、ギブアップって言ったよ。調子こいてんじゃねーよ……!!」


 全身の毛穴から、魔力が放出される。

 スケゾーとの共有率を上げると、全身に瞬間的な重みを感じる。熱に浮かされた時のように、鉛のような重い身体。目眩と言うのか、立ち眩みと言うのか、そのような感覚に襲われた。

 だが、それも一瞬の事だ。間もなく俺の身体能力は跳ね上がり、地面を強く蹴ると、俺は村の民家を一つ二つ、軽々と飛び越えられる程の脚力を手に入れる。

 その代わり、反動は厳しいが……まあ、この状況では仕方が無いだろう。


「『十%』……!!」


 あるんだよ、俺にも『奥の手』。


 決定打さえあれば。それさえあれば、この魔物を食い止める事は不可能じゃない。

 確かに総合力は、デーモンの方が強いのかもしれない。だが、瞬間的な爆発力なら。

 こんな召喚体の魔物の一匹や二匹……俺の敵じゃない……!!


 俺はデーモンに向かって、跳んだ。

 デーモンは俺に向かって、禍々しい魔力の塊を投げ付ける。どうやら、俺ごと巻き込んで終わらせるつもりのようだ。

 真っ直ぐに、デーモンの放った魔力の塊の前へ、その身を滑り込ませた。こうして目の前で相対してみると、やはり強大だ。一撃で村が吹っ飛びかねない程の質量……しかし、泣き言は言っていられない。

 左腕を、右に構える。剣を振る要領で、左の拳をそのまま左へと振り抜き、小指から魔力の塊へ……!!


「ぐっ……!!」


 重い……何という重さだ……!! だが……負けるかっ……!!


「――――ォラアアアアアアアッ――――!!」


 俺の筋肉も、二倍程に膨れ上がった。弾き飛ばした魔力の塊は、そのまま海の方向へ。村に直撃する事無くコースを変え、やがて水平線の向こう側に消えた。コントロールしているデーモンの管轄を離れれば、そのまま霧散するだろう。

 デーモンは俺の様子を見て、少しばかり感心しているようだった。民家の屋根に着地すると、俺はリーシュを見た。

 リーシュはもう、準備に入っている。

 再び、俺はデーモンへと視線を向けた。


「嘗て……魔導士業界で、『如何なる魔法も全て飛ばない』と呼ばれた魔法使い見習いがいた。広く噂になったが、魔界で生きるお前は知らないかもしれないな」


 忌々しい過去。塗り替えたい経験。……すべて、俺のものだ。


「だけどそいつは、諦めなかった。やがてそいつは『飛ばない魔法』のスキルを磨き、そして、新たな境地を見出した」

「……何の話だ?」


 デーモンの言葉に、俺は笑みを浮かべた。


「……いいや。……ある、とんでもねえ馬鹿の話さ」


 俺の、オリジナルの魔法。こいつは爆破魔法に爆破魔法を重ね掛けした、俺の十八番だ。

 躊躇無くデーモンに向かって、飛び出した。

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