魔王♀「よう来られた勇者よ。早速だが抱いておくれ」

@yaibakiri

第1話

勇者♂「ことわ……えっ」


魔「ふむ……その反応を見るに妾の肢体も捨てたものではないらしいな」プニプニ


勇「ちょっ! ヤメロ!」


魔「では止めよう。妾は主の嫌がることはせん」


勇「あ、いや……」


魔「それともそれは『もっと』という意味かえ?」ムギュッ


勇「そ、そうではなくてだな!」


魔「お主をからかうのは面白いが話が進まんな。勇者よ。先も言うたが抱いておくれ」


勇「(からかっていたのかよ!!)……何故だ? 篭絡するつもりならば無意味だぞ」


魔「知っておるよ。あらゆる肉体・精神異常無効に慄いたのはむしろ妾たちのほうだからのう。

そしてその能力の弱点をお主自信が把握し警戒しておることをも知っておる」


勇「……ならばこうして言葉を交していることさえ慈悲だと理解しているはずだ」


魔「故にこそ、こうして乞いておるのだ、勇者よ」


勇「………………」


魔「妾はお前を1人にしたくはない……」


勇「………………」ギリッ


魔「気づいておるはずじゃ。お主は強くなりすぎた。そして賢くなりすぎた。今お主をヒト側へと留めておるのは守りたい仲間への情だけだ。しかしその仲間にすら恐れを抱くものが出てきておる」


勇「俺をどうこう言うのは構わない。しかし仲間の侮辱は許さん」


魔「そのつもりはないが、気に障ったのならすまぬ。しかし勇者よ。お主が考えておる方法では誰も死なぬのだ」


勇「なに……?」


魔「そも妾は『戦って死ぬ』などという生優しい生物ではないのだ。正しい方法を正しい手順で正しい時期に行なって初めて滅する。巨大な呪いのようなモノなのだ」


勇「………………」


魔「そしてお主もそれに近い。お主は最早お主が出せる力では死ねぬ。さりとてお主以上の出力を誇るモノなど天に輝く太陽以外にありはしないのだ。妾を含めてな」


勇「そうであったとして、どうしてお前を抱く必要がある」


魔「知れたこと。もうお主の相手をできる女娘は妾しかおらぬ。故にこそお主はこれまでの長い旅路で誰一人として抱かなかったのではないか。

妾と同じように『抱け』と口にした女娘は少なくなかろう? 妾としてはそのような売女どもと同じ事を口にすることが業腹でならぬが、背に腹は代えられぬ」


勇「だから、どうしてお前を抱く必要がある? お前を殺し、俺が消えれば世界は平和だ。それでいい」


魔「そうはならないと思っているからこそ、まだ妾が生きておるのではないか。

お主は局所的な諍い――個人間に収まるような範疇の争いは許容しておるが、それ以上となると途端に神経質になる。それがなければ此処へ来るのは、もう3年は早かった」


勇「………………」


魔「世界を平和にする。言葉にすれば簡単だが、少なくとも妾の出した結論は『そんな方法はない』だ。そしてお主もそのことには気づいている。気づいてなお必死に探しておる。

だが勇者よ。1人ではいずれ間違える。間違えてお主はきっと全てをなかったコトにするだろう。お主のその強さはそれを可能にする」


勇「勝手なことを」


魔「だが当たらずとも遠からず、といったところであろう?」


勇「……その心配は今なくなった気がするがな」


魔「それは重畳。なれば勇者よ」


勇「断る」


魔「……理由を聞いても?」


勇「女に口説かれて抱く男がいるものか」クルリ






勇「花の1つ、指輪の1つも持参するのが甲斐性というものだ」

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