第7話 幼なじみは永遠に
幼なじみは大切だ。
お互いを、トモ、ショウ、カナ、マリと呼び合う4人の関係が、もう20年以上も続いていた。
幼稚園で出会い、同じ小学校と中学校を卒業し、同じ高校に進んだ。周囲には、「4つ子」といわれていた。
大学受験では、4人とも東京進出を狙った。その希望は達成され、入学後には同じ沿線で寄り添うように暮らした。ひとり分ずつ食事を作るのは面倒だし不経済なこともあり、誰かの部屋に集まることもしょっちゅうだった。もちろん、成人した後は「食べる」だけでなく「飲む」ことのほうがメインになっていた。
「俺たち4人って、やっぱり変な関係だよな」
極度の
「それは、私たち女子組が合わせてあげてるからだよ。ねえ、マリ?」
「そうそう。大サービスでね」
マリがカナに同意すると、ショウがいつもまとめた。
「だから、俺たち4人はみんなタイプが違うからこそ仲がいいんだってば。近親憎悪をしなくて済むからね」
すると、いつもカナがマリの巨乳をぐいとつかんで聞くのが定番。
「じゃあ、仮に地球上にマリと私しか女子がいなくなったとして、あんたたちはどっちを選ぶ? 私みたいな絶世の美女か、マリみたいなナイスバディか? 男子のおふたり、さあどっち?」
これは、4人が思春期を迎えた頃から何度も繰り返し話されたテーマだった。男子組は、そのときどきでカナがいいとかマリがいいとか言っていたけれど、真面目に考え始めると必ず、「どちらも捨てがたい」という結論になった。
そのことは、女子組も同じだった。大柄で一見スポーツマンタイプのトモは実は運動が苦手なのだが、冷静沈着で面倒見のいいリーダータイプ。小柄なクセに運動神経のいいショウは感性に鋭く、論理的で頭も切れる知性派。両者とも、それなり以上のイケメンだから、女子組から見ても「どちらも捨てがたい」という結論になるのだ。
学生生活を終えると、4人は別々の会社に就職した。それでも4人はバラバラになることもなく、たびたび会って飲んでは仕事の愚痴を言い合ったりした。そんなとき、4人はいつも幼なじみという存在に感謝していた。
状況が急変したのは、社会人になって5年目に入ったときだった。
「俺たち、結婚することになった」
突然、トモが言った。相手はカナだった。
「えー。内緒にしてたなんてズルいよー」
マリの抗議に、カナは「えへへ」と舌を出しておどけた。
しかし、この結婚にはちょっとした問題があった。
「結婚すると決めたのはいいんだけど、カナが俺と結婚して改姓すると『大場可南子』になっちゃうんだよ。『大馬鹿な子』じゃ、あんまりじゃないか」
トモは、本気で嘆いた。
「私は、その名前でもいいと思うの。だけど、トモがそう言うから……」
カナが続けると、マリが根本的な疑問を投げかける。
「トモのほうがカナの家に入って田原姓になるとか、夫婦別姓にするとかの可能性はないの?」
「婿入りの件は、俺が長男だということで両親のNGを食らった。夫婦別姓は、子どもができたときに面倒になりそうなんで、できれば避けたい」とトモ。
「いろいろ考えたら、私が改名するのがベストの解決法っていう結論に達したわけ。調べてみたら、下の名前を変えることはわりと簡単にできるみたいだから」とカナ。
「なーんだ、そこまで決めてあるなら、答えは簡単。なるべく、いい名前にしてよね」
マリは、素直に応援の弁を述べた。
「ちょっとタイム!」
声を上げたのは、しばらく黙っていたショウだった。
「トモに先を越されちゃったけど……」
ポケットから小さな箱を取り出すと、ショウはマリの前で開いた。
「マリ、俺と結婚してくれないか」
――答えは、YESだった。
だが、こちらのカップルにも改姓の問題があった。マリがショウと結婚すると『水田麻里』になってしまう……。「水たまり」には、マリもさすがに抵抗があった。
すると、マリが
「私、改名して『可南子』になりたいな。この名前、大好きだから」
これには、カナもすぐに同意する。
「じゃあ、私は『麻里』がいい。『子』がつかない名前に憧れてたのよ」
こうして女子組は互いの名前を交換する形で、戸籍上の手続きも済ませた。ただし、4人のなかでの呼び名はカナとマリのままという約束で。
*
3年後のある日――
4人で飲んでいると、ショウが突然告白した。
「ごめん。実は俺、ずっとカナと浮気してた」
すると、トモが続く。
「なんだ、そっちもか。俺とマリも、もう2年になる」
男子組の告白で、その場を沈黙が包んだ。それを一瞬で破ったのは、カナだった。いつものように、「えへへ」と舌を出しながら……。
「今度は名前だけじゃなく、奥さんごと交換すればいいんじゃない?」
全員に異論はなく、即座に離婚と再婚が決定した。
――やはり、幼なじみは大切だ。
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