第2話 「5本けやき」で待ち合わせ
「
不満たっぷりの顔で、
「あの子だって、遅れたくて遅れるわけじゃないでしょ?」
「もう、5分も過ぎたよ」
「今LINEしたから、もうちょっと待ってあげようよ」
「……いいけどさ」
薫は、しぶしぶうなずいた。
3人は同じ女子高の同級生で、いつも一緒に行動する仲だ。今日は期末テストが終わったばかりの日曜日で、カラオケで盛り上がる予定だった。
午後3時から6時までの3時間、歌いっぱなし。ひとりあたり1時間だから、15曲ぐらいは歌える。カラオケ命の3人にとっては、それでも足りないぐらいだった。
3人の家のちょうど中間にあるK駅。
駅前の道路の中央分離帯に5本の大きな木が並んでいて、そこは地元で「5本けやき」と呼ばれる待ち合わせの目印だった。K駅から3つ離れたO駅が最寄りの美智子もその存在は知っていたが、5本の木にそれぞれ名前があり、「雪樹」「月樹」「花樹」「風樹」「季樹」という名札がかけられていることは知らなかった。
「5本けやきの前に、2時50分ね」
というのが、今日の待ち合わせの約束だった。
でも、ひとりだけ到着しないまま、もうじき3時になろうとしていた。
「美容院が終わったらすぐ来るって言ってたのに、どうしちゃったのかなあ?」
薫が言うと、
「ついさっき、『早めに着いたら、本屋で立ち読みでもして時間つぶして待ってる』って言ってたのにね……」
と美智子が答えた。
ふたりはスマホを開いた。LINEのグループトークの履歴を確認すると、そのログが確かに残っていた。
「最後に『美容院出た。ちょっと切りすぎかも……』と書いてたのが1時47分。K駅までは30分もかからないから、ちょっと遅すぎるよね」
さっきまで怒っていた薫も、だんだん心配顔になってきた。
「電車、事故で止まってたりするのかな?」
そう言うと、美智子はスマホで交通情報を調べた。でも、「都内の交通機関に遅れや異常はありません」という表示しか出なかった。
「美智子、どうする? 先に、カラオケ行ってようよ」
早く歌いたくてウズウズしてる薫に押されて、美智子はうなずくしかなかった。
「うん。ちょっと寒くなってきたしね」
天気予報では、今年一番の冷え込みだと言っていた。仕方なく、「K駅に着いたら連絡ちょうだい。5本けやきまで迎えに行くから」とLINEを送り、ふたりは店に向かった。
今日の店は薫の家族の行きつけで、ほかのふたりには初めてだった。K駅前の入り組んだ商店街を抜けて住宅街にさしかかった場所にあるため、道を知らないとちょっと探しにくい。だから、薫はわざわざ5本けやきで待ち合わせにしたのだった。
薫が手慣れた感じで受けつけを済ませ、4人部屋に入った。飲み物を頼むと、薫はすぐに選曲を始める。美智子は、リモコンに入力しようとする薫の手を
「やっぱり変だよ。あの子からぜんぜん返事がないなんて、あり得ないじゃない?」
「でも、今から5本けやきに戻って待つのも無駄だよ。外は寒いし、それよりここで連絡を待ってるほうがいいと思うけど」
「……うん」
考え直して、歌いながら待つことにして、ふたりはしばらくカラオケに熱中した。薫はドリカムやスピッツを歌い、美智子は西野カナや嵐を歌った。薫はお母さんと一緒にカラオケをすることが多いらしく、その影響で選曲が少し古めだ。
薫と美智子が何曲かずつ歌ってひと段落すると、時刻は4時を過ぎていた。ふたりでLINEを確認しても、やっぱり既読はついていなかった。
「ちょっと、電話してみる」
薫がかけてみた。しかし、聞こえたのは「電源を切っておられるか~」というメッセージだけで、本人にはつながらなかった。
「じゃあ、私は家に電話する」
今度は、美智子がかけた。するとお母さんが出て、「美容院の後でカラオケの約束してるって家を出たんだけど、まだ来てないの?」と、逆に聞かれてしまった。
美智子は電話を切り、今の話を薫に伝えた。
「やっぱり、家を出たきり連絡もないみたい。心配だから、駅まで探しに行こうよ」
ちょっと歌って満足できてるせいか、今度は薫も素直に「うん」と言ってくれた。
ふたりはカラオケ店を出てK駅まで戻り、近くの書店を探した。コンビニも何店か
何度電話しても応答はなく、LINEも既読がつかない。ふたりに残された手段は、5本けやきに戻ることしかなかった。
――先に異変に気づいたのは、美智子だった。
「うそ! 5本けやきが6本ある!」
ふたりで数えると、確かに6本あった。そして、そのうちの1本には真新しい「夕樹」という名札がかけられていた。
その太い幹の中で、夕樹がニッコリと
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