第4話 暖かい日

森が林と言える程に木々が薄らいできたところで、体全身に日の光を浴びれるところまで来た。周りはほぼ草原と言うに相応しい風景が広がっている。時間帯は日の高さから推測してお昼過ぎかと思われる。ポカポカとした空気が俺とヴィスの体隅々まで吹き抜けていく。風が少し吹いている。

「ヴィス、俺たちが向かっている町?村?の名前は何て言うんだ?」

いつも通り俺は通常運転で彼女に質問を投げかけた。

即答。

「エスカルチャ。ブズール鉱山っていう山のふもとにある小さな町よ」

また変わった名だな。鉱山のふもとってことは何か作ってるってことか?

なんにせよ、もう前方にはブズール鉱山らしき山が見えてきている。

ざっくり見て、俺が見た山々の中ではトップクラスの高さではなかろうか。

記憶を探るが頭痛がしそうで途中でやめる。

前方の山を見ながらヴィスと俺は歩き続けた。

後に俺たちは町の入り口にたどり着いた。目の前には大きな石造りの門。

その左右には重装備の兵士が二人、置物のように立っている。

門兵は俺とヴィスを見るなり、

「ヴィス、久しぶりだな。今回の旅もまた東の海岸へ、か?よくお前も飽きずに冒険するよな~…、おっと。」

格好に似合わない口調でヴィスに軽々と喋る門兵に、ヴィスは一瞬で近寄り、鎧の隙間にナイフを突き立てた。

「あまり口が過ぎるとお前のはらわたをぶちまけるぞ。」

「へへ、すまんすまん。っで、そのよそ者は?」

俺を指さしペラペラ喋る門兵。

「門兵は門兵の仕事だけしてろ。ほら、開門だ。」

ヴィスが遮る。門兵は、はいはい、仰せのままに、という風に門を開けた。

門をひとたびくぐればそこには別世界が広がっていた。

とにかく人が多い。道の左右には店が並び、怪しげな植物だったり、また、得体のしれない肉などが売られていた。

「どう?エスカルチャってすごいでしょ?」

「…うん。想像してたのと違ってすごく活気づいてるな」

「住んでる人も多いしね!」

「そ、そうだね。」

俺は人混みが嫌いだ。それが今まさしく目の前で起こっている現象だ。

「じゃあ今からどうする?私の家にでも行こうか?」

(何!?それ以外の選択肢が!?)

「ヴィスの家に案内で、お願いします。」

「はーい!」

まったく、威勢がいい女だ、と、つくづく思う。


石畳の道をずんずん進むヴィスの後をすたすたついていく俺。

しばらくするとヴィスが急に立ち止まった。

「…何か、おかしい。・・・シーッ…」

「なんだよヴィス、俺には何も聞こえないぜ?・・・ん?」

さっき俺たちが歩いてきた方角から活気づいた町の音が聞こえてくる…

いや、まて、少しさっきと違うような……。悲鳴のような声も混じっているような……。

「お、おい!大変だ!ヤツが門の手前まで来てるらしいぞ!門兵が一人やられたみたいだ!」

「や、ヤツ?おいおっさん、ヤツってなんだよ。」

後方からすっ飛んできた中年男性に問う、がとても慌てているようですぐに走ってどこかえ消えてしまった。

「・・・マズイな。クソッ……」

「マズイって。ヴィス。ヤツって何なんだよ」

酷く真剣な表情。唇を噛んで必死に何か悩んでいる。

「おいヴィス。聞いてる?ヴィs」

「うるさい!ちょっと黙ってて!」

「は、はい。」

少しの間静寂、そして深呼吸をしてヴィスは、

「私の父さん、母さんを殺した化け物、ベヒモス…。なんでこんな時に。」

「ベヒモス…。ベヒモス!?」

どこかで聞いたことのある獣の名前だ。だが、さっきと同様、頭が痛くなりそうだ。

「とりあえず私の家に案内するわ。この装備じゃアイツには敵わない…」

「敵わないって、どんなのか知らないけど、戦う気なのか!?」

「…もちろん。この町の平和を守る。それは私の役目。」

真剣な表情のままヴィスは喋る。

「…君にも戦ってもらう。」

「…へ?ま、マジですか!?」

「まじまじ。」

嘘だろ。森で出会ったゴブリンですらあんなへっぴり腰だったのに、さらに強い敵なんか相手にできないだろ。ほぼ自殺行為だ。

「ほら、急ぐわよ。」

走りだしたヴィス。待って、と俺が後をつける。

遠くで悲鳴とヤツの咆哮が響く。

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