番外編 6
「そういや、恩人って何の恩人なんだ?」
戻ってきた緑と食欲をそそる香りのするリビングで、今までずっと流してきたことを聞く。
リビングに入るとテーブルの上にはナンみたいなので作ったサンドイッチみたいなものが山のように1つの皿に置いてあった。そこから、各人で取り分けるらしい。
まだほかほかと温かいそれはパニーニというらしく、酸味の効いたピザソースにハムとタマゴが絶妙に口の中でまじりあってうまかった。
おばさん料理の腕あげたなと思い聞いてみるとサクヤコの案らしい。褒める意味で頭を撫でようと手を伸ばすと、ぺちん、いやばしんとツキヒに叩き落とされ、ティオヴァルトには睨みあげられる。
こわいよ! お前らなんなの? サクヤコのセコムなの!? アリーナチャンピオンとSランカーのセコムとかこわすぎなんだけど!
さらに伸ばした手は宙をかすめる。山ほどに積まれていたパニーニは跡形もなくかすもなく残っていなかった。最後の1個を皿にとったツキヒを見ると勝ち誇った顔をされた。むかつく!
「崖から落ちて、川に流されて死にそうだったところを助けてくれた」
「びっくりだった、の」
「あらー」
「あらーじゃないからぁぁぁぁぁ! 重大だろ!? おま、死にそうになったのかよ!」
「うん」
「うんじゃねぇぇぇぇぇ!」
「うるさい」
「お食事中は静かに、よ」
「あ、すいません」
マジで恩人っていうか、本物の命の恩人じゃねえか! 偽物なんて見たことないけど!
思わず立ち上がって突っ込みを入れると、サクヤコからも苦情が来る。セコム2人に睨まれて、即座に敬語となり謝った。90°の礼も忘れずに。
もっといいたことはあったが、ほのほの笑いながらおばさんがサクヤコにお礼を言っているのを聞いて、ぐっと堪える。ツキヒは照れ臭そうに<当千>の頬をつまんで横にみょーんと伸ばしていた。やめてやれよ。
ティオヴァルトはなんの関係もなさそうによく伸びる<当千>の頬を見ていたが。
クール、クールだ俺、俺はクール。・・・今日で何回目だこれ。
のそのそとパニーニを食べるのに汚れた手を拭いている俺を、ぽんぽんとサクヤコが慰めるように背中を叩いてくれるのに涙がでそうだった。
「ありがとな。ツキヒを助けてくれて」
「ん」
「一応、大事な幼馴染なんだ」
「ん、よかった、の」
「本当、サンキュ」
ソファに座りながらだったが、深々と頭を下げてから顔をあげると、ツキヒと同じ無表情があった。ただし、ツキヒとは違い可愛らしい女の子だったが。そんなサクヤコの背景にふわふわと花が舞ったような気がして目をこする。
何度かこすると、花は舞ってないものの嬉しさオーラどでも言えばいいのかな? そういうもんがサクヤコから放たれているのが分かった。
よく見ると目は細められていて、褒められたような気分になる。あながち間違いじゃないだろう。俺もとうとう無表情が分かるようになったぜ。
自慢げにガッツポーズをとった俺を見る、ツキヒとティオヴァルトの目は冷たかった。
そうして昼飯後、サクヤコの正体がキメラであることを聞かされ、絶叫した俺は絶対に悪くない。
ワールドゴッド・フェアリーテイル -小さな神様珍道中- 小雨路 あんづ @a1019a
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