二人三脚

にょいぼると

第1話

「今日の実験、よく泣かないで我慢できたね!イズ、偉いよ!」


私はそう言って泣いている妹のウズの頭を撫でる。そうするとイズは私に嬉しそうな表情を見せてくる。かわいい…。


私はイズの姉であり、自覚のあるシスコンである。そしてもう一人の姉でもある。


「えへへ…今日はね、ウズが私の代わりに痛いことしてくれたから泣かずに済んだ。でも、ウズが我慢していた涙が今出てるの」


「そっか…。ウズ、イズを守ってくれてありがとう」


私はウズのおでこに自分のおでこをくっつけて言った。こうするとウズにも声が届くとイズに教えられた。


「ウズ喜んでるよ!」


イズはこれまた嬉しそうに私に報告してくる。2人の妹が嬉しいのなら私も嬉しい。嬉しいは嬉しいに感染する。


悲しいもまた同じように感染し悲しいになる。


だから私は悲しいを2人に打ち明けない。


「あー、ここから出てお父さんとお母さんのところに行きたいね」


「そうだね、きっと暖かいご飯を作って待っててくれてるよ」


…嘘、待ってなんかいない。


「それなら頑張っていい子のままでいて、ここから出れるようにしないとね!いい子でいたら外に出してもらえるんだもんね!」


「そうだよ!じゃあ明日もいい子にいるために早く寝ないとね」


…嘘、いい子でいてもここから出れるはずなどない。


「おやすみ、いい子のイズ、ウズ」


…明日も分からないままでいてね、いい子のイズ


*


農業が少しばかり発展している田舎町に私とイズは生まれた。


「アズちゃんとイズちゃんを見ていると元気が出るよ。はい、お菓子」


「おばあちゃんありがとう!」


イズは恥ずかしそうに私の後に隠れた。私はイズに挨拶をさせようとしたが、おばあちゃんがいいの、いいのと言ってくれないので私がイズの分までお礼をした。


この町は田舎というだけあって私とイズとあと何人かしか子供がいなかったため、子供はまるでアイドル扱い。

会う度に渡されるお菓子に、欲しいと言って家にあればくれる本。そしてたくさんの愛情。

とても可愛がられた。


でも可愛がられたのは農業が少しばかり発展している田舎町だった時だけ。


悪天候続きで農業の「の」の字も出来なくなった田舎町では子供は煙たがられた。


私達はお腹が空いていつもお菓子をくれるおばあちゃんのおうちに行くと、


「何しにきたんだい、お前達にやるご飯はないよ。」


お父さんとお母さんにお腹がすいたというと、


「お前達は働いてないからお腹なんて空かないだろ?」


「もう、なんで双子なのよ!こっちもお腹空いているのになんで2人にもご飯をあげないといけないの!」


子供の私にはこれ以上ごはんを食べる方法を知らず、今までおばあちゃんからもらって、とっておいた少しのお菓子をイズと分け合った。


「イズ、こんな少しでごめんね」


「ううん!全然!私こそ貰っちゃってごめんね…。あーあ、早く雨振らないかな」


「もうすぐ梅雨も来るから大丈夫だよ!」


私はそういってイズを慰めた。


でも梅雨などこなかった。


来たのは怪しい男の2人組。


お父さんとお母さんは私たちを売ったんだって。


それから私達は一回見世物小屋へ売られ、次に研究所に売られた。


今では立派なモルモット。


新しい薬の実験台。


どこまで電気を流しても死なないかの実験。


双子ならではの能力はないかの実験。


痛くて痛くて仕方なかったけど、私はイズが板からがんばれた。でも、イズは違う。


「あのね、私に妹がいたの!私が痛いことされてる時私と意識を交換してくれるの!」


最初私は理解出来なかった。

イズが嘘を言っているようには見えなかった。でも、私に妹なんているはずなんてない。では何なのか?

少し悩んだが、分かった。解離性障害だって。


解離性障害とはつらい体験を自分から切り離そうとするために起こる一種の防衛反応のことをさす。簡単に言うと自分とは別の人格が1人立ちしている状態だ。


なぜそんな事を知っていたかと言うと、心理についての本を昔おばあちゃんがくれて読んでいたから。


私はそんなイズに対して


「そっか、ウズか…。ウズに挨拶してみたいな」


肯定するしかなかった。

苦しみから逃げられるならそれ以上の幸せはないから。


*


「どうか知らないままで。ウズが消えないままで。幸せに」


この時私はイズのことに必死で気づかなかった。


私の心が死にかけだってことに。

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二人三脚 にょいぼると @nyoiboruto

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