2章 とりあえず本屋とゲーセン

ベンチにぐだっと座り、スマホを弄っている里村に私は駆け寄った。

「ごめん、待たせたっ!」

いつもより店が繁盛したせいで待ち合わせていた時間より遅れてた。

これでもいつもの倍の速さで着替えや化粧直しを手早くすませてダッシュしてきたけど30分も待たせてしまった。

「いや、大丈夫。すごい混み様だったな、お前の店」

「まあね、それなり人気店だからね~。じゃあ、CD早く買いに行こ!」

はよ!嫁たちが私を待っている!!

その熱意が伝わったのか里村は「お前ホントに好きなんだな」といい笑い、車を走らせた。

里村の車に乗せてもらいアニ〇イトへ行き、念願だったCDを買いテンションMAXの私たちは続けて大きな本屋を2店もハシゴしお目あての漫画を買い、幸せいっぱいだった。

まあ、はたから見れば漫画持って終始ニヤニヤしてるデコボコ不審者2人組にしか見えない。お巡りさんこちらです。

「いや〜いっっぱい買いましたなぁ、里村さんや」

「そういうお前もな。全巻買いとか狂ってんだろう」

「オタ狂い上等だよ。このあとどこいく?」

「ゲーセンでも行くか?」

「賛成!」

ゲーセンでは音ゲーにシューティングゲーム、UFOキャッチャーなどを楽しんだ。

ちなみに私は音ゲーとUFOキャッチャーはそれなりに得意な部類の人間だ。

里村は音ゲーよりもシューティングゲームの方が得意なようだ。銃を持つ目がイキイキしていた。里村、それあかんヤツや。

「あ、ウサギさんだ」

うっは、何このもふもふっぷり、顔埋めたい!!肌触りのいいフワフワしたものが大好きな私は大きなウサギのぬいぐるみの飾られたコーナーで足を止めた。

「大橋、これ欲しいのか?」

「…うん。でもこういうの取れた試しないし。」

欲しい。めちゃくちゃ欲しいですけどこの手の大きなぬいぐるみを落とす仕掛けのゲームは苦手でいつも諦めていた。今日も見本で我慢しようと思い、見本として飾られていたウサギをぎゅっと抱きしめた。

「…よし、まかせとけ。」

そう言うと里村は両替をして500円玉を沢山用意して操作ボタンの横に並べた。

「ちょっ、おま!無駄遣いしなくていいよっ!」

すこしずつぬいぐるみが穴に近づいているが、その倍の速度で里村が用意した500円玉が減っていくのを見て私は慌てた。

「ほれ、取れた。」

「え!?ウソ、やっったー!!ありがとー!」

里村から受け取ったウサギさんをぎゅっと抱きしめ幸せを噛み締める。そして、このウサギに使われた金額を思い出し慌てた。

「あ、でもお金!ごめん、たくさん使わせちゃったし、半分返すよ!」

「いいって、いいって。今日付き合ってくれたお礼だし。どうしてもって言うなら一緒に夕飯も食って行かね?」

「うう、サーセン…。どこへでもお供します、旦那」

「うむ、良かろう。さ、飯食いに行くぞ」

里村がよく行くという洋食屋は少し古くて汚かったがナポリタンは絶品だった。

「ふぅ…。おなかいっぱい、夢いっぱいだな」

私が食べきれなかった分のナポリタンを食べ終えた里村が満足そうに言った。

「夢いっぱいって(笑)あ、今日はいろいろとありがとね」

「俺こそ、用事も済ませれたし、楽しかった。あのさ、」

「何?」

「大橋の都合の良いときにさ、またこうやって遊ばね?」

「もちろん、いいよ。」

里村の思ってもいないお願いに驚きながらも異性のオタトモがいない私にとって良い機会かもしれないと思い、すぐに返事を返した。

「ホントか?じゃあ、また遊べそうな日連絡する。」

やけに嬉しそうにスマホに視線を落とす里村の顔に思わず少し笑ってしまった。

前に付き合っていた彼氏と居るときには感じられなかった安心感が妙に居心地が良くてそれからも私と里村は本屋やゲーセン、買い物などをしにちょくちょく出かけた。

そして、2月に入った始めの週に「バレンタインのチョコ、俺にくれないか?」というなんとも遠回しな言い方の告白を里村から受けた。

しかも夕ご飯を御馳走してもらった洋食屋の駐車場に停めた車の中で…。

ムードも雰囲気もへったくれもない告白に少し呆れつつ、「私、お前が思ってる以上にめんどくさい女だけど、それでもいいなら…いいよ。」と答えた。

言い終えた瞬間に元カレの顔が頭に過り、ちくりと胃でも胸でのないどこかが傷んだ。その痛みは、過去の思い出が胸にいまだに刺さっていてるような気がした。前の彼を別れてもう当分は恋なんてしたくないと思っていたはずだったのに里村とよく遊ぶようになってから少しずつ私の中で変わり始めてきていたのかもしれない。変化していくことにとても臆病な私だが、里村と一緒に居ればきっと良い方向に変わっていける、なぜだかわからないがそんな気がしてならなかった。

バレンタインデーには小さめのガトーショコラを志郎に渡した。志郎はよほど喜んでくれたようでかわいい顔文字の入ったメッセージをL○NEに書き込んでくれた。

『彩音がくれたケーキ、とっても美味しかった(*'▽')』

『口に合ってよかった。』

そこまで褒められると思っていなくて恥ずかしくなったのと顔文字がやけにかわいいせいでいつも以上に簡潔に返事を返した。どうも照れたり恥ずかしくなると会話だろうが文面だろうが固くなってしまい、ツンデレのような態度やメッセージを送ってしまう。今日もそれを反省して次こそ「ありがとう」と言えるように頑張りたいと心に思いながら私は眠りについた。

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オタクな日々に乾杯 瑠璃羽 @ruriha

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