1章 きっかけ
それは成人式を終え、小中の合同同窓会でのことだった。
ひとしきり懐かしい友達との再会を喜び、近況報告してお酒を飲み始めた時にたまたま目が合った。
…こいつ誰だったかな?思い出せない。でもよく話してた気がする。
あちらも私から視線を外さずにいるので多分同じ事を考えてるのであろう。
私は彼に近寄り、失礼とも思いつつ名前を聞こうと口を開いた。
「「あんた、誰だっけ?」」
見事に彼と声が重なった。妙に可笑しくなって思わず吹き出した。
「やっぱり同じこと考えた。ワロスワロス。私、
「ああ、橋本か。俺は
「ああ!里村か。ぜんぜん違うから分かんなかったよ。眼鏡かけてたっけ?」
中学校の時にオタク友達としてよく漫画やゲームの話をしていた頃のことを思い出した。
「いや、高校の頃から。懐かしいな。今何してんの?」
「もうじき短大を卒業して就職するよ。今は飲食店でバイトしてる。そっちは?」
「俺は高卒で働いてる。今度バイト先遊びに行くわ。」
手に持っていたビールを一気に煽る里村の姿にこいつも大人になったなぁと思う。
まぁ、同級生だから同い年なんだけど…。里村はどうも年齢より高く見えてしまう。
「いつでもおいでよ。私がシフト入ってる時に来たら沢山オーダーしてもらうから。」
冗談半分、本気半分の言葉を言った。
「いいぞ。じゃあ、シフト入ってる時に行くからLINE教えて」
「リョーカイ。ちなみに今週の水曜は閉店までいるからね。これからうちの店をどうぞ、ご贔屓にね」
クスクスと笑い合いながらLINEを交換し、再会を乾杯した。
その週の水曜日、閉店のため掃除の準備をしているとひょっこり里村が顔を店に来た。
「よ!ホントに働いてるだな。」
「人をレアキャラみたいに言って…、その言い方失礼じゃない?」
「悪い悪い。てっきり店の奥に居ると思ってて」
「いいよ。怒ってないから。でももう店閉まってるから何も買えないよ?」
店の閉店をもう15分ほど過ぎてしまってる。それは窓の外から見れば一目瞭然の筈なのに里村は店に入ってきた。
「今日は顔を見に来ただけだから」
さらりと里村はそんなことを言った。こいつは一体何がしたいのだろうか?アホじゃなかろうか?
「は?私の?」
「おう。あと遊びの誘いもな。」
「遊び?」
そこで初めての掃除をする手を止めて里村と向き合った
「お前前言ってたアニメのCDが入荷したって知ってるだろ?俺もそれ欲しいと思ってたから一緒に買いに行かね?」
「行く!」
考える前に言葉が出ていた。
オタクというのは恐ろしいもので自分の2次元の嫁や旦那のことに関することだと多少手段を選ばなくなるのだ。
「即答だな。じゃあ今度バイト終わりにでも迎えに行くわ。」
「アザース!そしたら昼で上がれる来週の日曜はどう?」
「大丈夫。じゃあ、俺帰るわ」
本当にそれだけが用事だったようで里村はさっさと帰っていった。
あいつのまわりあんまりオタ友居ないのかな?カワイソ…。
オタク、腐女子としての私とよくつるんでくれる友達達に深く感謝した。
リアルの友達はオタクとして、ネットでの友達と極小数のリアルの友達には腐女子としても引かれずにオタライフを楽しんでいる自分の境遇に感謝せずにはいられなくなった。
…お礼に今度みんな好きなキャラの小説の短編でも作ろ。モチロン、腐ってるやつを。
新しい小説のストーリーと構成を練ながら黙々と目の前の仕事を片付けていった。
学生生活はそれなりに忙しく、あっという間に里村と約束していた日曜になった。
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