オタクな日々に乾杯

瑠璃羽

序章 日常

書類、書類、書類書類書類っ!!

書いても書いても終らない書類の山たち…。

「いっそこの世から紙が消えてしまえばいいのに…。あ、やっぱ無しだ。」

と大きな独り言をこぼす。しかし、次の瞬間浮かび上がってくる愛おしい漫画や小説、ゲームの攻略本たちのことを思い出し、慌てて訂正する。

「ゲームしてぇ…。」

何とか半分の書類を仕上げ、休憩がてらダンジョンに赴いている自分の分身を迎えに行こうとスマホの電源をつけた。

スマホの液晶には【シロー】からのLINEメッセージの通知が届いていた。

[何してんの?]という短いメッセージ

「…あ、ヤベ」

今日はシローと電話をする約束をしていた事をすっかり忘れていた。約束の時間を数分ほど過ぎていた。慌てて返事を返し、すぐに電話をかけた。

「もしもし、ごめん。仕事長引いてさ、待たせちゃったね。」

軽く謝罪するとシローは特に気にしてないと言ってくれたので安心する。

「で、仕事の方はもう大丈夫なのか?」

「うん、とりあえず今週中に出すものはできたから。そっちは?」

「いつもと変わらんよ。明日は休みだし。」「あ、だからつながった時にゲームの音聞こえたのか。今何やってんの?」

「FPSのゲーム。」

やっぱりか…。謎の爆発音と銃声が聴こえたからなんとなく察しはついていた。

「いいなー。私もやってたい」

「すぐ殺されるぞ?」

「…。ヤメトキマス。…あ、ところでさ、今度いつ遊べそう?」

「あー…。ちょい待ち。…今度の土曜かな?」

「リョーカイ。じゃあ土曜日にいつもの時間にね。ゲームのやり過ぎには気をつけなよFPSオタク。」

「ん、分かった。お前もだろ。漫画読みすぎて睡眠時間削るなよ。」

「うい。じゃあ、おやすみ。」

書類を片付け、ベッドに潜り込みほんのすこしウトウトしながらいつもの挨拶をする。

「おやすみ。あ…」

「なに?」

「好きだよ」

「っ!!」

油断していた。微睡んでいた頭が一気に覚醒する。

「わ、わたしも!」

慌てふためきながらやっとの思いで伝え、電話を切る。どうもこういう言葉ははずかしくて上手く伝えられない。

「あのヤロー…。バカローのせいで寝れなくなっちゃったじゃん」

恥ずかしさを誤魔化すために切れた通話画面に悪態をついてみるが、自分の顔がひどく緩んでいることに気付き余計に恥ずかしくなる。

「…私も好きだよ」

相手には絶対言えない言葉を聞く相手のいないスマホに小さく呟いた。

シローこと里村志郎さとむらしろうと私が付き合い始めてもう2年経とうとしていた。

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