輝くかけらを詰め込みながら、ひとたび微笑みを交わす

たちばな

一つめ この場所の音を聴きながら、あなたと

 一瞬の微笑みのあと、あなたはきれいな横顔を見せる。

 少し青がかった瞳。際立たせる睫毛。高めのすらっとした鼻。控えめに口角が上がったままの愛らしい口元。

 初恋を知ってから、会う度あなたをずっと見つめている。今にも泡みたいに消えてしまいそうな、不確かな僕の気持。あなたは気付いていないのだろう、何も変わることなく美しい優しいひとのまま。なぜだかそれが無性に嬉しくて、話しかけて、話しかけられるたび、僕はがむしゃらなほどいっぱいに微笑んで見せた。

 海に行こうか。

 と言われ、あなたの広い家にあるベランダから浜辺に降りた。

 緩く束ねたあなたの髪が揺れるたび、甘いふしぎな香りが漂う。恋の香りだろうか。目を閉じると、さざ波の音、あなたの香りが混ざり合い、泣きたくなるほど懐かしく思う感情を覚えた。

 あなたはしきりに寄せる波に触れ、うれしそうに微笑んだ。

 夕日の眩しさに顔をしかめながらも、それをひたすら見つめる。

 そして夕日は水平線に隠れ、消えていく。太陽が海に溶けてしまうようなその様子を、黙ったまま二人で眺めていた。

 きれい。

 重なる声に思わず笑い合い、胸の音があなたに聞こえてしまうほど大きくなった。

 太陽が溶け辺りが暗くなっても、波の音はずっと聞こえた。その音を、ずっとずっと二人で聴いていた。

 あなたがすきです。

 波に紛れさせた呟きが、蝋燭の火のように、少し大きくなる。闇のなか、見つからないように、ひとり微笑む。

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輝くかけらを詰め込みながら、ひとたび微笑みを交わす たちばな @syano_12

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