1月 ニート、布団から出られない
寒い。寒すぎる。冬という季節はこんなにも生物にとって厳しいものだったのか。
俺の部屋に暖房器具はない。以前住んでいた学生マンションにはエアコンがあったからいつでも部屋は快適な温度に保たれていた。というか、俺が暑がりで寒がりだから帰るとすぐにエアコンをつけていた。年が明けても作家として芽が出ないとは考えていなかったから、暖房器具は寒くなったら買いに行こう、その頃には金も十分あるはずだと漠然と思っていた。しかし、考えが甘すぎた。デビューするどころか、暖房器具一つ買う金も惜しみ、布団にくるまって寒さに凍えているなんて誰が予想できただろう。
え? 皆予想してた? マジかよ。
ゴホンゴホン。今、変な声が聞こえたが、無視して続きを話そう。
そんなこんなで、俺は時々しかなくなってしまったバイトなどの用事がない限り、布団から出られない生活をしていた。寒くて寒くてたまらない。部屋ではとても作業などできない。かといって、どこか店に入ってコーヒーの一杯でも飲みながら優雅に次回作の構想を練るような余裕もない。このままでは前回の風邪どころの騒ぎではなくなってしまう。改善策を考えていると、スマホの通知音が鳴った。
年末の同窓会で少しだけ話した晶子ちゃんからだった。
【やっほー 最近どうしてる?】
俺は速攻で返信する。
【寒くて何も手につかない】
【何それ?笑】
【本当なんだよ。布団にずっといる】
晶子ちゃんは?マークを頭上に浮かべているキャラクターのスタンプを送ってきた。
【ご飯は食べてるの?】
晶子ちゃんが俺に質問してくる。ご飯か……。最後に食べたのはいつだったか。そういえば、腹も減っている。
【最後にいつ食べたか覚えてない】
晶子ちゃんは俺の現状を確認しようと通話してきた。自分でも驚くほどの掠れた声を聞いた晶子ちゃんは、休日だったのか俺の部屋の住所を聞いて、慌てて食材を買ってきてくれた。
狭くて使いにくいキッチンで晶子ちゃんが料理をしている。野菜や肉が炒められている香ばしい香りが漂ってきた。何日ぶりのまともな食事だろう。わからないが、匂いだけでもう懐かしい。
セーター二枚重ねの俺の前に出されたのは真ん中に梅干しが乗ったお粥と野菜炒めだった。
「炊飯器がなくてびっくりしたよ。それに、急に沢山食べたら胃に悪いと思ったから、買ってきたお米はお粥にしたよ」
俺はこの部屋に住んで初めての他人が作った料理を食べた。
「おいしいよ。晶子ちゃん、ありがとう……」
晶子ちゃんは俺を憐れむような目で見た。
「いつでもご飯くらい作ってあげるからね。あと、光熱費気にしてるなら、うちに遊びに来てもいいよ」
「ありがとう……本当にありがとう……」
こうして俺は、ニートからフリーターになり、ヒモに進化した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます