12月 ニート、年末を楽しめない

 風邪を拗らせて一週間絶対安静を命じられた俺は居酒屋のバイトをクビになった。店長には「あれほど言ったのに、君は一体何をしていたの?」と何度も罵られた。俺はひたすら謝ることしかできず、ボーっとする頭に響く店長の電話越しの怒声を聞いていた。

 体調がよくなってきた頃、大学の学部の同期から同窓会の誘いが来た。俺は五月のサークル仲間での飲み会の事を思い出して断ろうと思った。だが、同期には、希望留年という方法で、卒業要件単位数を満たした後も大学に籍を置き続け、次の年の新卒として就活を続けている奴や、単位を落として普通に留年している奴もいて、同窓会には奴らも来るという事を知った俺は行く事に決めた。それに、今回は女子も来る!!


 居酒屋の座敷に通された俺達は適当に好きな席に座って、和やかに飲み会を始めた。

「かんぱーい!」

「うぇーい」

 懐かしい面子が揃い、皆、大学生に戻ったみたいにはしゃいだ。俺も調子に乗ってアルコール度数の強い酒を数杯飲んで、へべれけになっていた。席替えなんかもして、色々な奴と喋った。今夜は嫌な事は忘れて(主に仕事のことだろうけど)、大いに楽しもうという雰囲気だった。そんな折に、偶然向かいの席に座った門野晶子ちゃんが唐突に話し始めた。

「私もう生きてるの面倒くさくなっちゃった」

 晶子ちゃんの話を聞いていたのは、これもたまたま俺だけだった。俺はどうしていいかわからず、戸惑いつつも相槌を打った。

「何かあったの? 晶子ちゃんって今何やってるんだっけ」

 晶子ちゃんもべろんべろんに酔っていて、説明は聞き取るのがやっとだった。

「なあんにもないの。楽しい事もね、嬉しい事もね。悲しい事も。ムカつく事は時々あるけど、大したことじゃないし。生きてるのってさ、こんなにつまんないことだったんだね」

「そんなことないでしょ。晶子ちゃん、学生の時は絵描いてたじゃん。それもやらないの?」

 晶子ちゃんは首を横に振る。

「なんかそれもね、やってもやっても楽しくならないの」

「そっか……」

「佐久間くんは楽しい事ある?」

「俺は、まあ、ないこともないけど」

「ラノベ作家になるんだっけ? すごいよね、夢があるって。生きてて楽しいでしょ?」

「そんな、すごい事じゃないよ。皆と同じには働いてないし、周りからはニートとかフリーターとか言われる」

「いいじゃん、そんなの。生きてる理由があるだけましだよ」

 その後、酔ったフラッペが絡んできて、俺と晶子ちゃんは会話を中断した。飲み会が終わると、二次会に行くメンバーと、直帰するメンバーなどに分かれた。俺と晶子ちゃんは連絡先の交換会の流れに乗っかって、互いの連絡先に変わりがないことを確かめ合った。

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