第三話

午後の授業が始まるまでに、まだ少し時間がある。というよりも、時間が少し余るように食べている(だからと言って、バクバク食べているわけではない)。いつもの習慣だ。そして、この時間が、食べ終わった後の特有の時間が僕は好きだ。ゆったりとした時間の流れが、僕が僕であると意識させてくれる。



約束の放課後になった。

午後の授業は、いつも通り、ぼーっと過ごした。ぼんやりと、竜との放課後の事を考えながら。

学校の正門近くのいつもの待ち合わせ場所で、壁に寄りかかりながら数分待っていると、

しょう!」

生徒玄関から竜が、走り寄って来た。

「おう。」

僕は、壁から体を離しながら竜に言った。

「取り敢えず、いつものコンビニでいいか?」

「うん。」

僕らは、学校近くのコンビニエンスストアに向かった。



「それでさ、アイツ、なんて言ったと思う?」

「さぁ?」

竜の話を聞きながら、コンビニエンスストアの2階へ行き、別々にトイレの個室に入る。

「んじゃ、俺は奥に。」

「うん。」

トイレの個室に入ると、僕は自動で開いてくれた親切な便座の蓋を下ろして、その上に鞄を置き、鞄の外側のファスナーにくっついている、カプセル型ケースに入ったイヤホンを取り出し、それの片方だけを左耳に押し込んだ。

ドアの表面に表示された地域の最新情報トップニュース画面を、後ろへ。両手を壁に当て、下にサッと引きおろして両壁の表示をオフに、それからイヤホンケースに表示された画面の方からイヤホンをリンクさせる。

〈サイギックリーから、新作登場。新作の名前は.....〉

それと同時に腕時計にある、竜専用のコントロール画面を開く。

地域の様々な情報を聞き流しながら、鞄の中から小型の立体虚像視覚化装置を取り出す。

すると、ドア表面から青白い光の筋が出て、立体虚像視覚化装置に繋がり、装置はその状態のまま、宙に浮かぶ。

僕と竜のデータとIDを選択し、『交換』に設定する。

〈最近起こった、完全虚像視覚化装置を使用した家が特定されてしまったことに.....〉

次に、トイレ内に設置されている認識不可能監視カメラにアクセスして、僕と竜のデータに少しだけ変更を加える。

僕は竜が入ったトイレへ、竜は僕が入ったトイレへ入ったというデータに書き換える。

〈どんな環境にも耐え得ると言われていた新種米に、欠陥が見つかり.....〉

あぁ。アレはダメだったのか......

次のは、どうやるんだろうな。まず、どの環境に適さなかったのか...

ん、そんなこと考えてる暇なんて無い。

集中しないと。

再度全てが良好に動くかどうか確認。

準備完了。

「よしっ。」

僕は、便座に置いていた鞄を持ち上げた。

抑えられていた物が無くなり、便座の蓋が自動で開く。きっと、開いた意味がない事を、後で知るんだろう。まぁ、便座の開閉機能の中に、学習機能とか成長知能なんて無いだろうけど。

竜専用のコントロール画面で

『自動並行モード【歩行】+【無言】』

『並行目標ターゲット【新田 しょう】』

と設定する。

個室から出ると、僕と同時に竜が隣から出てきた。

確認する為に、一度ドアを開けて個室から出ようとした所で忘れ物をして、中に戻るフリをする。

この時に、竜が僕のいるドアの前で僕に話しかけると、平行モードになっていないので、今日の予定は変更になる。


平行モードについて説明すると。

平行モードは、対象物に自力推進機能が付いている場合に使えるモードで、目標ターゲットに自動的について行く様になるモードだ。

設定は色々弄いじる事が出来るけど、僕は、いじっていない。竜がすぐ隣(大体お互いの体の間が、約10〜15cm空くぐらいの距離)で歩いてくれればいいから。でも聞いたところによると、中々面白い事が出来るらしい。


僕が設定したのは、平行速度が歩行速度(僕の歩行速度に合わせるということ)、平行モードの間は一切喋らない、平行目標ターゲットは僕、の三つ。

だから、竜が僕に話しかけると、平行モードになっていないということになる。そんなこと一度もないけど、毎回確認している。


うん。

ちゃんと平行モードになっているみたいだ。

竜は何も喋らずに僕の前に立っている。

そして、僕らはトイレを出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

満天の星空 紅暁 凌 Kogyo Ryo @kogyo-ryo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ